第12話 童貞メンタリティ
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
俺はひたすら走り続けていた。
後ろから追いかけてくるものなどいないのに、何かに追われるように全力で駆け抜ける。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」
そして、ようやく足を止めた時には、そこは既に自分の家の前であった。
息を整えると、震える手で鍵を開ける。
玄関で乱暴に靴を脱ぎ捨てた俺は、一直線に自分の部屋へと向かい、そのままベッドにダイブした。
「はぁ…………」
枕に顔を埋めると、自然と息が漏れる。
なぜ逃げているのか、何から逃げているのか、未だにわからないままだ。
ただ、得体の知れない感情が心の奥底から湧き上がってきて……とにかくそこから逃げ出したい気持ちでいっぱいになったのだ。
「ああぁぁあぁ!! クソっ!!」
やりきれない気持ちを拳に込めて、思いっきりベッドに叩きつける。
「あっ……」
そこでふと、何かが手に触れた。
胡狼さんから返してもらったジャージ。
カバンも、傘も、全て置いて来てしまったけれど、それだけはしっかりと持っていた。
胡狼さんから受け取った時にはあんなに綺麗に折り畳まれていたのに、今は見る影もなくぐしゃぐしゃになってしまっている。
それを見ていると、何故だか無性に悲しくなって、胸が締め付けられるような感覚が襲ってきた。
「なんなんだよマジで……」
どうしてこんなにも悲しいのだろうか。
胡狼さんは邪悪なストーカーで、俺は襲われそうになっていたというのに、どうしてそんな奴のために俺が悲しまなければならないのか……。
もうこれ以上考えたくない。
そう思いつつも、俺の手は勝手に動き出し、ぐちゃぐちゃになってしまったジャージを広げていく。
そして、それを胸に抱くと、ふわりと甘い香りが漂ってきたような気がした。
「胡狼さんもこんな感じで匂いを嗅いだのかな……」
そんな疑問が頭をよぎった瞬間、俺の顔が一気に熱を帯びるのを感じた。
それと同時に脳裏に浮かんだのは、昨日の一幕。胡狼さんが脱衣所にいたあの時……。
『ふわぁ〜♡唯人さんの匂いだぁ〜』
あられもない姿で俺のジャージを抱きしめている姿を想像して、俺の顔はさらに熱くなる。
股間がムズムズとしてきて、なんだか変な気分になってきた。
「うぅぅううううう!!」
頭を抱えてベッドの上で転げ回る。
落ち着け……これは罠だ。
俺の思考能力を鈍らせて、捕まえやすくするための策略なんだ……!
童貞のメンタリティを捨てろ。
今の俺はハイパーヤリチンパーリーピーポー!
この程度で興奮するほどウブじゃない!
「こ、こんなもの!」
俺はたまらずベッドから飛び起きると、ジャージを放り投げた。
ふわりと宙を舞うジャージ。
空中で上下に離散したそれは、重力にしたがって落ちていく。
しかし妙だ。ジャージは上下で2枚。
それなのに俺の視界には3枚目の白い何かが映っていた。
下のジャージから離散したと思われるそれは、ヒラヒラと舞い落ちて、やがて俺の顔面に着地する。
額から鼻にかけて広がる柔らかい感触。
到底ジャージとは思えない肌触りのいい生地だ。
まるで人肌のような温もりを感じるその物体の正体を確かめるべく、それを顔から剥がすと……
「ぱ……ぱんつ!?」
そこには紛うことなき純白のショーツがあった。
形状や感触からして間違いなく女性の下着である。
それもかなり刺激的な部類の……。
「なんでこんなところに!?」
胡狼さんが重ね脱ぎしたまま洗って、そのままになっていた!?
いや、それなら畳むときに気づくはずじゃ……?
となると、これも罠?
既成事実を作って俺を陥れようという魂胆か!?
というか、これが胡狼さんのなら、これは胡狼さんの使用済みパンツということになって……胡狼さんの下半身が昨日までコレに触れていたということになるわけで……。
「あ、ああぁぁぁ……」
もはや俺の中のパーリーピーポーの人格は崩壊し、童貞丸出しのチェリーボーイに支配されていた。
頭の中はもうパンツ一色で染まりきっている。
それ以外のことを考える余裕はない。
もういっそこのままパンツを被ってしまおうかとさえ思ってしまうほどに、俺の心は乱されていた。
「うぐっ……!? はぁ……はぁ……」
下半身に血液が集中していくのがわかる。
心臓の音がやけにうるさく感じるようになり、呼吸も荒い。
ダメだ。このままではまずい。本能のままに息子を擦り倒してしまいそうだ。
そんなことをするわけにはいかない。
俺のためにも……胡狼さんのためにも……。
なにか、気を紛らわせるものはないだろうか。
そんな時、目に入ったのは相棒のPCだった。
もはやこの際、エロゲでもエロ動画でもなんでもいい。
とりあえず、あのパンツで致すのはダメだ!
「何か……なにかないか……」
すると、出てきたのは一冊のエロ漫画。
いつだったかに購入したまま、ライブラリに放置されていたものだ。
「よし……こはなら良さそうだ……」
しかし、数ページ読んだところで、俺はすぐに後悔することになる。
なぜなら、ヒロインがどうしようもなく真咲だったからだ。
性格、容姿、声、仕草、バカ、ゲーム脳! 全てが真咲と瓜二つで、最早真咲にしか見えない!
おそらく、これが放置されていたのは、この真咲そっくりなヒロインが原因だろう。
「ぐぅっ……」
正直今なら真咲でも抜ける気がするが……それはプライドが許さない。
いくらこんな状況とはいえ、真咲をオカズにしたら男として終わりだ。
「くそ……こうなれば最終手段だ……」
配信をつけて、行為に至れない状況を作り出す!
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