第11話
「うう……助けて先輩……」
真咲は仲間を呼んだ! しかし……
「いや無理。俺はそっちには行けない」
先輩はクズだった!
唯人への尊敬が100ポイント減少して、負の領域に突入した!
「この……ゴミクズがぁぁぁあああ!!!」
唯人への罵倒を最後に、真咲はその場に倒れ込んだ。
真咲は目の前が真っ暗になった!
真咲LOSE!!
「おお真咲! しんでしまうとはなさけない!! そなたが魔王の侵攻を止められぬと言うのなら、誰が止められるというのだ!」
「さて、これでうるさいのも消えましたね。ほら、唯人さん。こっちまで受け取りに来てください♡早く来ないと私、何するかわかりませんよ?♡」
「ぐっ……。な、何も直接渡す必要はないだろ? そこの机に置いてくれればいいから」
「それを言うなら、こんなに近くにいるのにわざわざ何かを経由する必要もありませんよね? それとも、私に近づくのが嫌なんですか? 私としては直接手渡しでお礼を言いたいのですが……」
「そ、それは……」
胡狼さんの言わんとしていることは理解できる。
何かを借りた時は相手に直接返すのが礼儀というものだ。
俺もできることならそうさせてあげたい。
だが、今の胡狼さんに近づけば、何をされるかわからない!
真咲は倒れてしまい、2人のみの状態。
さっきはあんなこと言っていたし、近づこうものなら、押し倒されて俺が卒業してしまうなんてことも……。
「ほら、唯人さん。こっち来てください♡」
「いや、無理無理無理!」
PC室の大きな机をぐるぐると回りながら、俺達は攻防を繰り広げる。
「もう、逃げないでくださいよ」
「に、逃げてなんかないぞ。これはただ、ホラゲー主人公の気持ちを体験しているだけだ」
ホラゲーにおいて大きな机は最強。
この周りをぐるぐると回るだけで無限に時間稼ぎができる。
回り続ける限り、ゲームオーバーにはならないのだ!
「はぁ……仕方ないですね。少し行儀が悪いですが、力尽くで行かせてもらいます」
そう思っていた時期が俺にもあった。
次の瞬間、対角線上にいたはずの胡狼さんが机を飛び越えて、こちらに飛び込んで来た。
「うわぁぁぁあああ!? インチキ! グリッチ! チート!」
「ふふふっ。ご存知ありませんでした? リアルは三次元に対応してるんですよ。机ぐるぐるなんて意味ありません」
逃げ場を失った俺はあっさりと捕まってしまった。
抵抗を試みるも、がっちりとホールドされているため身動き一つ取れない。
「ふふふ……捕まえましたよ唯人さん♡」
「ひぃぃいい!!」
耳元で囁かれ、全身に鳥肌が立つ。
やばいこれまじで喰われるやつだ。
「ふふっ。目をつむっちゃって……可愛いですね♡でも、何も怖いことありませんよ? 安心して目を開けてください」
「だ、騙されないぞ……。どうせ目を開けたら目の前に恐ろしい光景が広がっているんだ……」
「そんなことしませんよ。ほら……」
突然、花のような香りが鼻腔をくすぐる。
その匂いに釣られて目を開くと、そこにあったのは俺のジャージを持った胡狼さんの姿だった。
丁寧に折りたたまれている様からは、胡狼さんの感謝の気持ちが伝わってくる。
柔軟剤の香りがすることから察するに、洗濯もしてくれたのだろう。
てっきり、匂いが落ちるのは勿体無いから〜とかそんな理由で洗わないと思っていたのだが、それどころか、まるでクリーニングにでも出したかのような仕上がりで返ってきている。
「はい、どうぞ」
「へ?」
ジャージを手渡すと、胡狼さんは俺から離れていった。
「あれ? 襲わないのか?」
「何言ってるんですか? 襲うわけないじゃないですか」
「え、だってさっきまであんなに積極的だったのに……」
「あれは唯人さんの反応が可愛かったので、つい意地悪したくなっちゃっただけです。恩人を襲うなんて無礼な真似できませんよ」
本気で言っているのか?
あんな異常な行動をするんだし、平気な顔して嘘を吐いているんじゃないか?
そんな思考が頭をめぐる。
けれど……
「ふふっ……」
彼女の満面の笑みを見ると、俺のマヌケな邪推は空虚に弾けて消え去った。
「唯人さんのおかげで、風邪をひかずに済みました。本当にありがとうございました」
鼓動の高鳴りを感じる。
これは恐怖によるもの……ではなさそうだ。となると……これはもしや恋?
いや、そんなことはないはずだ。相手はあの胡狼さんだぞ?
これはきっと何か別の感情で……。
恋なんかではない。絶対に違う。
しかし、そんな俺の想いとは裏腹に、心臓の音はさらに激しさを増すばかり。
やがて、うるさいほどの心音は、周りからの雑音すらかき消して、すぐそばにいる胡狼さんの語りかけるような声だけが俺の鼓膜を震わせる。
「私なんかを気遣ってくれるなんて、唯人さんは本当に優しいんですね……」
心臓が一際大きく脈打つ。
それがなぜなのか、沸騰しきった頭では考えられなくて……
「あ、ああ……あぁぁぁぁあぁ!!」
俺はまた、彼女から逃げ出した。
☆★☆おまけ☆★☆
「うぅ……ここは……ゴミクズの先輩はどこに……」
「おはようございます♡真咲さん♡」
真咲は目を覚ました!
しかし、目の前には魔王が立っていた!
絶体絶命のピンチ!
「ひぃっ!? 彩音先輩!?」
真咲は逃げ出した!
しかし、足がすくんで動けなかった!
「ごめんなさい。まさか本当に気絶するとは思っていなくて……。大丈夫ですか?」
「え……えっと……私をHP1でなぶり殺しにするんじゃ?」
「そんなことするわけないじゃないですか。冗談ですよ、冗談」
「でも……あれは目がマジだった気が……は!? それよりも先輩は……いない? もしかして、すでに処理済み!?」
真咲は言いしれぬ不安に駆られた!
真咲は混乱している!
「え? ああ、唯人さんならもうカエられましたよ」
「か、還った……!?」
「はい。カエりました」
「あ、あわわわわ…………す、すみませんでしたぁぁぁああ!!」
真咲は逃げ出した! 今度はしっかり逃げることができたようだ!
「あら、真咲さんまで帰ってしまいました……。しょうがないですね……。私も帰りましょうか」
どいつもこいつも逃げるばかりだったが、どうやら成果はあったようだ!
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Result
・真咲は逃げ足のスキルを手に入れた!
・唯人は?の経験値を10ポイント手に入れた!
・彩音は3ポイントの愛を手に入れた!
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