第7話

「つきましたね♡」

「いや、まるで自分の家のように言うな? ここ俺の家だからな? 知ってること自体おかしいからな?」


 まあ、そう言いながらも、結局家にあげてしまう俺も大概おかしいのだが……。


「お邪魔します」

「シャワーはそっちだから、浴びたらさっさと帰れよな」

「うわ〜。これが唯人さんのお部屋なんですね〜」

「おい人の話を聞け! てか、勝手に漁るな! 風呂行け早く!」

「わかりました♡」

「はぁ……」


 なんなんだよマジで……。

 胡狼さんと一緒にいるだけで、ゴリゴリと精神が削られていくのがわかる。

 自分の家だというのに、まるで他人の家に来たかのような居心地の悪さだ。


「唯人さん。一緒に入りませんか?」

「入るわけねぇだろ!」

「そうですか……残念です……」


 なんでそんなに悲しそうなんだよ……。


「着替えとタオル持ってくるから、ちゃんとシャワー浴びろよ! そこから出るなよ! 絶対だからな!?」

「はい♡」


………………

…………

……


「ふぅ〜さっぱりしましたぁ〜」


 濡れた制服の代わりに俺のジャージを着て現れた胡狼さん。

 サイズが合っていないのか、胸元が少し緩くなっていて目のやり場に困る。

 太ももが見えていないから、かろうじて理性を保てているものの、胡狼さんの格好は誘っているかのようにしか見えなかった。


「あの、どうかされましたか? そんなジロジロ見られると恥ずかしいんですけど……」

「あ、ごめん」

「もしかして、私の体に興味があるんですか? いいですよ♡触ってみても♡」


 そういうと胡狼さんは俺の手を掴み、自らの胸へと導いた。

 柔らかい感触が手に広がると同時に、理性が吹き飛びそうになる。


「きょ、興味なんてないわ!」


 しかし、すんでのところで踏みとどまり、手を引き離した。


「え? でも、さっきずっと見てたじゃないですか」

「そ、それは……ジャージの心配をしてたんだよ! 何されるかわかったもんじゃないからな」

「なんだ。そんなことですか。それならもう十分堪能しましたよ? さっき脱衣所で」

「はぁ?」

「こんな感じで……すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……いい匂いですね……♡」

「やめろ嗅ぐな!」

「いいじゃないですか。減るものじゃないですし」

「減るわ! もう既にSAN値がピンチだよ!」


 これ以上は危険だと判断した俺は多少強引にでも彼女を帰らせようと試みる。


「とにかく、もうシャワーは浴びたんだから、さっさと帰ってくれ!」

「説教はどうするんですか?」

「説教はなしだ! いいから早く出てけって!」


 無理やり手を引いて玄関まで連れて行くと、胡狼さんは抵抗することなく大人しく靴を履いた。

 ストーカーのくせにこういうところは素直なのはなんなんだ……。


「また来ますね」

「二度と来んな!」

「明日も学校で会いましょうね。待ってますから♡」


 待っているんじゃなくて、待ち伏せしているの間違いだろ……。


「いいからさっさと出てけ……!」

「はい♡それでは、さようなら」


 胡狼さんが扉の向こうに消えていく。やっと終わった。心の底からそう思った。


「はぁ……はぁ……やっと行ったか……」


 一気に疲れが込み上げてくる。

 今日はこのまま寝てしまおう。

 そう決意して、俺はベッドへと向かった。

 しかし、胡狼さんばかりに気を取られて、このとき俺は気づいていなかった。

 彼女のバッグが空になっていたことを……。

 そして忘れていた。

 彼女のバッグの中には大量の盗撮動画が入っているということを……。


 〜〜あとがき〜〜


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 これでとりあえずプロローグが終わりになります。

 次回から本格的に逃亡生活が始まりますのでお楽しみに。

 それと、面白いと感じてくれた方は♡や☆をいただけるとは幸いです。

 作者を動かす力になりますので……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る