第4話 計画通り

「あ、先輩お疲れ様でーす」


 部屋の奥からひょっこりと顔を出したのは俺の後輩。今川真咲いまがわまさきだ。

 色々と小さい奴で、視界から消えやすいのが特徴なのだが、同時に人一倍騒がしく、視界に映らないのに存在感だけはあるというなんとも不思議な奴だ。ちなみに胸は絶壁。


「なんで胡狼さんがいるんだ!」

「胡狼さん? ああ、彩音先輩のことですか。やっぱり先輩の友達だったんですね」


 もう下の名前で呼んでるよ……。

 俺が来るまでの間にこの部屋で一体何があったんだ……。


「友達じゃねぇよ! どちらかと言うと敵対関係だ!」

「へぇ、そうだったんですか。でも、今は同じ部員同士なんですから仲良くしましょうよ」

「は? どういうことだ? 部員?」

「部長なのに知らなかったんですか? 彩音先輩、今日からうちの部活に入部するんですよ」

「はああぁぁぁぁぁ!?」


 1ミリもそんな話聞いてないんだが?

 そもそも、胡狼さんって入学1日目だろ。

 普通、いろいろと体験入部とかしてから、部活って決めるもんだよな? 

 それなのに即日入部って、入学前から決めてたやつじゃん……。

 もう胡狼さんが【tiny_Jackal】なのほぼ確定じゃん!


「冗談だろ……胡狼さんがうちに入部なんて……」

「冗談じゃないですよ。敵対関係だかなんだか知りませんけど、いいことじゃないですか。部員が実質3人の過疎部活に、新しい仲間ができたんですから」

「それはそうだけどさぁ……」


 確かに、部員が増えることは喜ばしいことだが……。

 それが胡狼さんとなると話は別だ。

 そもそもこの部活は俺と日向、そして部の設立条件を満たすために名前だけ貸してくれた幼馴染みとで作ったものだ。

 いわば身内だけの集まりみたいなものであり、真咲を入れたのも成り行きみたいなもので……。

 真咲程度なら無害だから別に良かったものの、胡狼さんとなってくると俺の聖域を脅かしかねないわけで……。


「やっぱり胡狼さんはダメだ!」

「え〜。どうしてですか? 部員が増えれば生徒会から予算貰えるかもしれませんよ! そしたら、新しいグラボとか、メモリとか……ぐへへ」


 そう言って涎を垂らしながら笑う姿はまさしく変態そのもので、とてもじゃないが女子高生とは思えないものだった。

 コイツがなぜこんなに必死なのか不思議だったが、それが狙いか……。


「とにかく胡狼さんはダメだ! 彼女を神聖なるゲーム部の部室に入れてはならない!」

「むぅ〜。なんでですかぁ!」

「ごめんね真咲ちゃん。今日の唯人、いつにも増して変なんだ。『胡狼さんに見られてる〜』とか、ずっと言っててさ。許してあげて」


 俺と真咲が言い争っていると、日向が間に割って入ってきた。


「見られてる? はっ!?」


 そこで何かに気づいたのか、突然目を丸くする真咲。

 なんだコイツ、急にどうした?


「もしかしてあれですか!? 『誰かに見られている気がするわ……』って言う某有名バトルロワイヤルゲームの某人気キャラのパッシブスキルに目覚めちゃった感じですか!?」

「ちげーよ! こちとら、お前みたいにゲーム脳じゃないんだわっ!!」

「え〜、違うんですか。つまんないの……。まあ、先輩はただの厨二病ですもんね」


 厨二病でもないんだが……。しかし、ここで否定しても話がややこしくなるだけだし、ひとまずスルーしておこう。


「唯人は本当に怖がってるのかもしれないけどさ、一度胡狼さんと話してみない? もしかしたら、仲良くなりたいだけかもしれないよ。ほら、最近4人プレイのゲームも買ったし、それで遊びながらさ……」


 少し悲しげな声色で話す日向を見て、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。

 そうだよな……。このまま逃げていてもらちが開かない。

 俺も胡狼さんも人間だ。コミュニケーションがとれる。

 追ってくる理由がわかれば、俺の不安も解消されるはずだ。

 ここは腹をくくろう。


「わかった……。今日の活動内容はそれでいこう」

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