第44話 相馬と佐藤

「・・・相馬くん?なんでここに?

かつてのクラスメイトの名前を覚えていた安藤が呆然とそう言う。


かつては毎日来ていた制服に身を包んだ相馬は、ボソッと呟く。


「学校行事はちゃんと楽しめよ」


安藤が持っているナイフを奪い取る。


「こんなもん、お前には似合わねーよ」


今、ナイフを盗られたことに気付いはようで、取り戻そうとするが、この5ヶ月間、化け物のような先輩達に鍛えられていた相馬にいち女子高生が敵うわけがない。


佐藤の方を見ると、こちらを気にすることなく、笑顔を振る舞いている。

今は、下手に動けないのだろう。


他の連中も、相馬が入ってきたことに気付いていない。

それほど、違和感なく相馬が溶け込むことができているということだ。


ついこの間までこの教室で悪目立ちしていた相馬が、「その他大勢」になることができていた。

この技術は、白井さんから勉強したっぽいな。


「せんせい。とりあえず、俺らの仕事は終わりました。また、困ったことがあれば、いつでもきて下さい」


何の名残惜しさもなく、ナイフを持ったまま、去っていく。


もう、居場所を手に入れた相馬は、学校に長居する必要はない。


佐藤が相馬を一瞬見る。

相馬は見なかった。

\



「あいつ、愛ちゃんにいつも酷いこと言うし、他の娘達もセクハラされてたし・・・」


かつて、相馬と話した生徒指導室で安藤の話を聞く。


やはり、この部屋は嫌いだ。


自分より、うんと年下の人間を正論で押さえつけて、学校にとって都合の良い価値観を押し付けていた歴史を感じる。


恐ろしいのは、その価値観は社会に出たら通用しないということだ。


自分で考えれるべき場面は、大人になれば嫌でも訪れる。しかし、学校での教師の言うとおりにしていれば褒められた価値観でいると、痛い目に遭う。

こうして、ニュースで言うところの「やる気のない若者」が誕生する。


「そうか。じゃあ、証拠を集めよう」

「え?」


警戒心全集中だった安藤が少し、ほんの少し警戒レベルを落とした。


「なに?」

「いや、てっきり怒られるのかと」

「怒られたいのか?」

「いや・・・」

「そういうのは、親御さんに任せるよ。でも、やり方を間違えるな。くらいは言わせてもらおうかな」

「・・・」

「別に荒川先生は魔王ってわけじゃない。ただの頭の悪い、28歳の小太りだ」

「・・・ふっ」


こいつ、ちょっと笑ったな。


まあ、泣かれるより笑ってた方がマシだ。


「幸いなことに、優秀な探偵を知ってる。その人達にお願いすれば、何らかの罰を与えるだろうよ」

「はい。じゃあ、愛ちゃんに相談してみます」


そうなっちゃうんだよなー。


まあ、この関係の問題点は、佐藤と話すか。

・・・。

そういえば、最近、佐藤と話してないな。




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