第40話 佐藤さんしか眼中にない
「優衣ちゃん、明るくなったねー」
「はは。そうかな?」
派手な女子グループにて、笑顔でそう答える千原。
あれから、事情を説明してみた。
佐藤は、千原が最もキツかった時期の燈子さんを除く唯一の味方だったわけだから、協力を断られる可能性も十分にあった。
結果だけ言うと、千原は承諾してくれた。
結構なリスクがあることを一応説明したが、そんなことは理解した上での承諾だというのは、こちらも分かっていた。
千原優衣は、思慮深く頭の良い生徒だ。
そんな千原が、何故こんな泥舟に乗る決心をしてくれたのかは、もちろん本人に聞いてみないと分からないが、恩を返すためだと考えられる。
8000円分の働きしかしていないのに、そこまで感謝されると、むず痒いが、千原が律儀な奴で助かった。
これで、佐藤に協力するかも知れない生徒の情報が手に入る。
これには、珍しく白井さんが喜んでいた。
「優衣ちゃんなら信用できます!」
暗に俺のことは信用していない口ぶりだったが、空気を読んで何も言わなかった。
\
『安藤神奈さんが厄介ですね』
すっかりスパイが板についた千原は、リモートにてそう言った。
安藤神奈。
千原との思い出の場所である神保町の古本屋で佐藤と共に会った生徒だ。
見た目はギャルなのだが、性格は控えめで成績も良いというアンバランスさが一部の男子に妙な人気がある。あと、俺のことが嫌いだ。
『佐藤さんに死ねと言われたら死ぬ危うさがあります・・・もちろん、佐藤さんはそんなこと言わないんですけど、佐藤さんしか眼中にない感じです』
佐藤に友人はたくさんいるが、最も時間を共有しているのは安藤だろう。一緒にいない場面を見る方が珍しいくらいだ。
『佐藤さんは、トイレには一人で行きたい娘なので、そこだけは別行動ですね』
連れションか。
『連れションかー』
ほぼ同じタイミングで相馬が同じくワードを思いついたらしい。
『俺もあれ苦手だったな。中学まではしてたけど、トイレですら1人になれないのかって、軽く鬱になったわ』
連れション。
誰かを連れてションベンに行く、の略である。
『分かります。意味ないですよね、あれ」
『そうそう。で、たまに大に行くとからかれんの』
そういえば、相馬と千原は初がらみだ。
今の千原はともかく、相馬は会ったことのないかつてのクラスメイトに、いらん気を使わないから心配だったが、杞憂だったらしい。
盛り上がっている話題は、連れションだが。
その間、会話に入りたそうにしていた星田と白井さんのツートップだが、どうやらついていけていないようだった。
それもそのはずで、星田の高校時代は連れションをするような間柄の女子の友達はいなかった。
白井さんの学生時代は知らないが、白井さんをトイレに誘う恐れ知らずはいなかったようだった。
誘ったら、「なんで?」と真顔で返されることだろう。
しかし、そうか。
佐藤は、トイレでは1人になるのか。
『まずは、安藤さんについた方が良さそうです』
探偵さん達が頷く。
\
安藤神奈。
1年生の頃は、今時珍しいくらいの真面目さんで、友達がいないわけではないけど、休み時間中、一人で黙々と本を読んでいるような生徒だった。
成績も上位で、頼まれたら断れない性格の彼女は、教師から、特に年配の教師から好かれていた。
そんな彼女が。
そんな彼女こと、安藤神奈の容姿が大きく変わったのは、1年の10月からだ。
さすがの俺も、学校1の優等生が「金髪・濃いメイク・スカート短い」のギャルの3大要素をいきなり揃えてこられたので、驚いた記憶がある。
安藤の中で何がそうさせたのかは分からないが、良くも悪くも「目立つ」生徒の仲間入りとなった。
俺が知っているのはそれくらいだ。
「・・・」
情報がない。
どんな奴なのかを最低限知っておかなければ、足元を掬われる。
『私が情報を集めますよ。友達ですし』
千原が軽く言う。
大活躍だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます