第13話 4人がかり
フリースペースという場所がある。
会議やイベントに使う部屋を貸してくれるサービスだ。
そこそこ広い部屋を3時間予約した。
楽しみだなぁ。
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「あ!?あの時のお友達じゃねーか!」
ノコノコやってきたブサイク4人組の1番手が吠える。とりあえずこいつがでかい声を出して威圧する役割を担っているらしい。
他の3人もなんか言っているが、ここに記載するべきことは言っていない無意味な叫びだった。ただ声がでかいだけ。
白井さんに個人情報を調べてもらい、「1日で10万円稼げる仕事がある」と電話したら、来やがった。
先生、将来が心配だよ。
ブサイクだし。
「君たちにしか頼めない仕事があるんだ」
実際には、こいつらに「しか」できない仕事などあるわけがない。しかし、こいつらみたいなタイプは、とくべつ扱いされることに飢えているから、この後言い方がベストだ。
威圧するためだけに変な顔をしながら、話を聞く体制はとっている。
「いつもやってることの延長だから、簡単だよ」
さて、主役に出てきてもらおう。
「なんだよ、相馬じゃん」
鼻で払いながらブサイク3号が言う。他の奴らもニヤニヤしている。
「こいつに勝ったら、1人10万ずつあげよう」
計50万の現金が入った封筒から札束を見せる。おれの大事な大事な貯金だ。
「4人がかりで構わない」
奇声を上げる。
ここで、「舐めんなこんな奴俺1人で十分だ」とならないところ、不良としてもレベルが低いことが分かる。
「よし」
相馬がゆっくり4人に向き合う。
「はじめ」
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一方的だった。
もはや喧嘩というより、人間を壊していくエンターテイメントに近い。
動画に撮っている俺も楽しかった。
「ごめんなさい・・・許してください」
唯一意識がある威圧担当が言う。
終始うるさかったブサイク4人とは正反対で、相馬は無言だった。
でかい声で威圧する必要がないほどの実力さがそこにあった。
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今まで相馬がこいつらの言うことを聞いてしまっていたのは、「友達」という呪いがあったからだ。
1人は嫌だと、自分と全く合わない人間関係を続けていた。
でも、今は星田と白井さんがいる。
こいつらよりも遥かに優れている友達ができた。
だから、本来の実力が出せたのだ。
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「よし、じゃあ、この動画アップするな」
「はい」
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1ヶ月後。
相馬は、自主退学になった。
一方的に蹂躙する動画が流れたのだがら当然の流れだ。
普通に相馬を非難する声もあったが、一部では、「こいつら弱すぎw」「こんなんでよくイキがれたな」「最後に謝んのダサすぎ」との声もあった。
しかし、学校としてはフォローできないため、退学を進めるしかなかった。
ほぼ、学校に来ることなく、6月30日、相馬の退学が決まった。
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「相馬君、退学しちゃったの?」
朝の自販機で、また佐藤に会った。
飲んでいた栄養ドリンクを慌てて隠す。
「あ!またそんなの飲んでる!本当に身体壊すよ!」
現段階で、俺を叱る奴は佐藤しかいないから、たまにこうして怒られると、やっぱりシュンとしてしまう。
「すみません」
「最近、忙しそうだったから、気をつけなね」
忙しそうだった?
俺が?
忙しいのは、相馬の方だったろう。
「あー。でも、相馬君退学かー」
自販機に小銭を入れながら佐藤はぼやく。
「お前ら、仲良かったっけ?」
「いや、話したことは数えるくらいしかないけど、イケメンだから、目の保養だった」
何故だか、嬉しかった。
そうだよな、あいつ、格好いいんだよな。
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放課後、星田探偵事務所に向かう。
「おー。二月」
星田しかいない。
「あー。ちょっと出直すわ」
「いやいや、お茶くらい飲んでけよ」
ペットボトルのお茶を渡されたので、ソファに座る。
「使えるよ、相馬くん。今も白井と一緒に仕事してもらってる」
7月から、相馬は星田探偵事務所で働いている。
「頭もいいし、度胸もある。あれだけ有能な若者は、中々いないよ」
前から、相馬は学校より仕事をしている方が向いていると思っていた。
「こっちとしては有能な人材を得られてありがたいけどさ、二月の方は、コスパ合ってる?」
「合ってる」
白井さんへの依頼やレンタルスペース代だけでも8000円は超えていたが、相馬は退学。今はこの探偵事務所にいるので、今後は利用できる。
「自分の中で採算が取れてるならそれで良いん。でも、気をつけろよ。お前は、自分を顧みない悪癖がある」
「はっはっは。いつの話してんだよ」
今回、相馬に割いた労力はデカかったが、今後は俺の駒になるのだから、トータルではなくプラスになるんだ。
ペットボトルを飲み干して事務所を出る。
午後6時半、部活帰りの学生を多く見かける時間帯。
何がそんなに面白いのか大爆笑する集団とすれ違い、家路に着く。
自分達こそがこの世界の主人公だと哀れにも思っている厄介な存在に今は目を背け、コンビニに向かう。
今日の夕飯は、炒飯とカップ麺にしよう。
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