第9話 本能
星田の事務所は、そこまで遠くはない。
しかし、道中の気まずさったらない。
相馬は、俯いて俺に引っ張られるままになっている。
大胆な誘拐に見られないだろうか?
しかも、連れて行くのが胡散臭い探偵事務所だ。
良心のある大人なら、俺のように中途半端な通報ではなく、ガッツリ通報するだろう。
まあ、星田にかける迷惑は、他の人にかける迷惑より罪悪感が薄いから別にいいか。
また、白井さんに嫌われるのが引っかかるが、今更巻き返せるレベルではないから、こっちも別にいい。
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「おー。誰だそいつ」
少し嬉しそうに聞く星田。
面倒ごとを進んで受けたいという、探偵という人種は、こういう時ありがたい。
「教え子。ちょっとこの場所使わせてもらっていいか?
あと、俺とこいつ、泊まっていい?」
「いいよー。白井、このZ世代になんか出してやれ」
「はい」
書類を整理していた白井さんは、すぐに台所に向かう。きっと、俺の分は作ってくれないだろう。
「ほら、君も突っ立ってないで座りなさい」
俺がソファで一息ついていても、相馬は玄関から動かなかったので、星田が何故か自分の仕事用の席に座らせる。
「やっぱ男子は探偵に興味あるでしょう?これね、浮気調査の書類。めっちゃキスしてる写真あるけど見る?」
教え子が友達にセクハラを受けているのをボーっと眺めているうちに、眠くなってきた。
「遊佐さんが寝たら、私達が彼にどういった対応をするべきなのか分からなくなるので、勘弁して下さい」
白井さんがサンドウィッチの乗った皿を運びながら、無表情でそう言う。
「明日じゃダメ?」
「別にいいぜ。眠い時の二月は使い物にならないからな」
軽くディスられたが、わがままを聞いてもらっている手前、言い返せない。
「じゃあ、客室借りるな。相馬も同じ部屋で良いよな?」
「え、あ、はい」
小さい声だが、やっと喋ってくれた。
客室に入る直前、星田の優しい囁きが聞こえた。
「大丈夫。君の先生は中々やる男だよ」
テレテレ。
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カラスになった夢を見る。
もう何回も見ているので、最初から夢だと分かる。
人間達に嫌われてもなお、ゴミをぐちゃぐちゃにしたり、女子供を虐めたりして過ごしている。
人間はカラスが嫌いなようだが、カラスだってお前らが嫌いだ。
そんな目で見るな。
害獣?
お前らが他の動物にとって害獣であることは棚に上げてか。
多少のイジワルをしたって死ぬわけじゃないだろう?だったら、いいじゃねーか少しくらい。
食いもんを探すため、田んぼで虫を探す。
生きるために、虫を殺して食う。
しかし、ここは食いもんが獲れると同時に人間が俺達の命を奪おうとしている危険な場所だ。
車ってやつが急に止まったら注意だ。中の銃ってやつを持った人間が出てくる。
仲間達の大半は、そいつらに殺された。
とにかく当たったらお終いだ。しかも、あいつらの攻撃は、遠くにいる俺にも届く。
しかし、ある時気づいた。
何処までも追ってくるわけではない。精々、少し遠くの人間達が作った変なデカい棒に止まっていれば、奴らは諦める。
そうと気づいてからは、人間をそこまで警戒しなくなった。
所詮、空も飛べない劣等種だ。
その日も、食ってる時に銃を持った人間が現れた。
しつこいな。無駄だってことがわかんねーのか。
今日は・・・あの木でいいか。
今までは、デカい棒に止まっていたが、面倒くさい。それに、木の方が枝とかで俺を守ってくれんだろ。
木の頂上に止まって人間を見下す。
今日の人間はあきらめが悪いみたいだ。まだ銃を構えてやがる。
無駄無駄。こっちには枝が
・・・・・。
・・・・・何が起きている・・・・・。
この距離では、届かないはず・・・・・。
人間が近づいてくる。
淡々とした表情。俺を殺すんだったらもっと嬉しそうにしろよ。
よく見たら、そいつは人間のメスだった。
今までは、オスしかいなかったのに。
そいつは、もう一つの小さい銃で俺にトドメを刺す直前、こう言った。
「ごめんね」
お決まりのラストだ。
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