第6話 酒が飲めなくても

池袋駅から徒歩45分。


周囲は居酒屋ばかりだが、酒が飲めないので、ほとんど入ったことがない。

外食しようとなると、5分くらい歩かないとファミレスとか、安心して食べられるお店がないので、コンビニ飯を1人で家で孤独に食らうことが多くなってしまう。


今日も、座椅子に座って、元は綺麗な白だった記憶がある小さいテーブルに弁当を置いて弁当と唐揚げ棒を食らう。

お気に入りの芸人さんのYouTubeを観てケラケラ笑っていたら、インターホンが鳴る。


「オース。近くまできたもんだから」


そう言って靴を雑に脱いで我が家に上がる女性は、星田恵。

茶髪の長髪、俺にはオシャレかどうかジャッジができない古着に身を包んでおり、我が家に入るなり、タバコに火をつける。

美味そうに煙を吐き出す星田。


タバコってそんなに美味いのだろうか。

吸ったことないからよく分からない。

「このご時世、タバコに文句言わない奴の部屋はやっぱ居心地良いな」

もちろん、俺にだって副流煙とやらのリスクは知っている。だが、そういったリスクはタバコに限った話ではないし、特に長生きしようとは思っていないから、別にそこまでの苦手意識はない。

匂いが嫌いな人もいるようだが、鼻がバカなのでどんな匂いなのか分からないので、どうしてもやめてほしいというレベルではない。


「もう、どこで吸えば良いんだっつう話だよ。ついにウチのガキにも注意されちまった」

「ガキ・・・白井さんは元気か?」

「元気元気。半人前のくせに、飯は5人分食いやがるくらい元気だ」


白井さんは、この探偵の真似事をしている星田の助手さんだ。

星田と違って、真面目を絵で描いたような素敵な女性だが、どうも俺のことが嫌いならしく、あまりお話できていない。


「あいつはやめとけ。面倒だぞー」

「面倒じゃないやつなんていないだろう」

どいつもこいつも面倒臭い。

高校生なんか特に。

「そりゃそうだが、お前が言うなって感じだな」


星田はそう言いながらレジ袋をあさる。

「ほれ、たい焼き。お前好きだったろう?」


こういうところが、人を惹きつけること要因なんだろう。

雑な扱いを受けていたと思っていたら、きちんとお土産を買ってきてくれていたというギャップ。

このたい焼きは、180円なので、そんな大層な差し入れではないのだが、「あの人が優しくしてくれた!」と印象が良くなる。

普段から優しい人よりも、印象が良くなってしまう。

不条理だ。

真面目に生きるのが馬鹿馬鹿しくなりそうになるが、別に俺は人に好かれたいと思っていないので、「カンケーねーや」と、軽く流すことができる。


「何観てんの?」

「動画」


それから2人で動画に突っ込みながらゲラゲラ笑っていたら、もう0時過ぎだった。


「そろそろ帰るわ」


それなりに酒を飲んでいたのに、きた時と変わらない足取りで帰っていった。


本来なら、送っていくべきなのだろうが、星田は俺なんかより何倍も強い。なんかあったとしたとしても足手纏いになってしまうだろう。


再び、1人。


さっきまで楽しく笑っていた記憶が新しいので、静かすぎることを無駄に感じてしまう。

いつもなら気にならない時計の針の音が不快なほどうるさい。


酒が飲めたら、もう一回1人で飲み直して寂しさを紛らわすのだろう。

それができない俺は、アプリでラジオを流す。

有名な深夜の番組だ。

10年以上続けているお笑いコンビのお喋りを横になりながら聞いていたら、だんだん眠たくなってきた。


あー。


スマホ充電しなくちゃ。

あと、歯磨きとトイレと。


意識が途切れる。

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