第4話 8000円のライン

ここらで、<ルール10 生徒は「平等」に接する>の補足をしておきたい。

「平等」ってのはずいぶん曖昧な言葉で、辞書には『差別がなく、一様に等しいこと』とある。

3月下旬の俺は、この「平等」を最も分かりやすくしてくれる方法を考えた。


結論は、お金だった。


これほど「平等」な概念はないだろう。

もちろん、絶対ではないだろうが、現代日本においては、最もポピュラーな価値の測り方に使われるものだ。


さて、そうなると、生徒達をお金に換算する必要がある。


・・・こうして文字にしたら、クズの行いだが、仕事を潤滑にするためだ。許してほしい。


閑話休題。


俺の月給は、約25万。担任しているクラスの生徒の数は30人。一人当たり、8千円の仕事をする義務が俺にはある。

しかし、8千円以上1人の生徒に教育するのは、ルールに反する。

そうなった場合は・・・。

まあ、未来の俺に任せるか。

\



新学期から、教育を8千円で計算している。

もちろん、色々な生徒がいるので、6千円くらいのやつもいれば、千円くらいしか俺の教育なんか必要していないやつもいる。

しかし、8千円を超えそうなやつはいなかった。

1ヶ月で0に戻るため、よっぽどなことがない限り、3月のおれが先送りにしたことを考える必要もなさそうだ。


「二月先生、相馬のやつ、なんて言ってました?」

「やってないそうですよ」

「いや、本人はそう言うでしょうよ」


荒川先生は、困った顔で白衣に手を突っ込む。

いいなぁ。


「我々は警察ではありませんから、こういうのを聞き出せるわけないんですから、聞いたっていう事実だけ残しとけておけば良いんですよ」


何か言いたげな荒川先生だったが、愛想笑いをして自分の机に戻っていった。


別に相馬は、2年2組の生徒に危害を加えているわけではない。

例の他校の生徒には悪いが、顔も知らない高校生よりも、俺は自分の教え子達が大事だ。


はっきり言ってしまえば、どうでもいい。


こうした細かい仕事を増やすが、相馬も8千円のラインは超えていない。

それで良いじゃないか。


ふと、脳内の今月の相馬のポイントを確かめてみる。


<6300円>


ん。

今日は5月20日。

思ったより高いな。

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