第42話◆ 実は有名人なのかも
「えっと、アルカナ……、エン……、エン……」
「アルカナ=エンエンですね」
「違う違う。そう、エンペリウスだ。アルカナ=エンペリウスって言っていた」
「……アルカナ=エンペリウス?」
ティナは形の良い眉を八の字にさせて首を捻る。
「なんだ? まさか知り合いか?」
「いえ、どこかで聞いたことがあるような気がしただけです」
「ふーん、実は有名人なのかもな」
「とりあえず記録しておきます。
確かにあの身のこなしはシーフに向いていると言えなくもないが。
「おいおい、冗談がきついぜ。格闘家にでもしといてくれ」
「格闘家?」
「ああ、ステゴロがめっぽう強いらしい」
変身すれば身体能力が向上するって言ってたし。
「らしい? ……とりあえず三人で受けられて報酬が高くて比較的安全な依頼ですけど、これはどうでしょうか?」
ティナは分類別に整理された簿冊から一枚の用紙を取り出してカウンターに置いた。
まず最初に俺の目に入って来た情報は――、
「伯爵令嬢の護衛?」
「はい、来月に開催される剣武杖祭の期間中のみの限定依頼です」
「ああ、もうそんな時期か」
王都から離れたこんな地方都市でも、年に一度だけ観光客で賑わうビックイベントがある。
それが世界四大大会と呼ばれる剣士、拳闘士、魔術士の最強を極める異種戦闘会、剣武杖祭だ。
我こそが世界最強だと自負する腕に覚えがある冒険者をはじめ、彼らの戦いを観るために各国の王族やら要人やら大衆がわんさか押し寄せて街はお祭り状態になる。
「で、わざわざ伯爵令嬢が大会を観に来るだけなのに護衛を付けるのか? 伯爵クラスなら自前の護衛を用意できるんじゃないのか?」
「現地に詳しい人間が希望とのことです」
「ああ、なるほど。観光案内兼護衛役ってことか」
極稀にその手の依頼があることは知っている。
俺は受けたことがないが、要は金持ちの道楽だ。その土地にしかないレア食材やレア生物を現地で食べたいという採取捕獲系の依頼といったところだ。
今回もそれと似たようなものだろう。
この都市は冒険者の街だから荒くれ者も多いし、夜の治安は決してよろしくない。
おそらく、
「報酬は一週間で百プラタです」
それを聞いたオレは思わず口笛を吹いた。
「さすが期間限定の依頼だけあって報酬がいいな」
「依頼主から提示された条件ですが、『三人から五人程度の小規模パーティでBランク以上、可能であれば全員が女子、少なくとも半数以上が女子であり、かつ女子にあっては十代から二十代であることが望ましい』となっています」
「えらく限定した条件だな……。でもテナークス・オルカはまだDランクだぞ?」
「Bランクにしておきました、私の一存で」
「ええ?」
「だって《紅き鮫》に勝ったんだから少なくてもB以上の実力はあるってことじゃないですか?」
「あー……、うんそうか。よし、そいつは俺たちが受けよう。しかし、たった七日間で百プラタなら他にもやりたがる奴がいたんじゃないのか?」
「女子が半数以上でしかも十代から二十代ってそんな条件が揃うパーティなんて皆無ですからね……、誰かさんのところを除いて、はっ!」
ティナが分厚い簿冊をバンッと閉じてギロリと上目遣いで俺のことを睨んできた。
「そ、そんな眼で睨むなよ」
「まあ……、依頼主に条件変更を打診しようと思っていたのでちょうど良かったです。これでうちのギルドの信頼と評判も上がりますから、ネッ!」
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