第40話☆ 同衾します

 状況を掴めないわたしを置き去りにしてアルカナはわたしの隣でスピーと寝息を立て始めました。


 寝つきの良さがノビ〇さん並みです……。

 

 油断するにもほどがあります。異世界に来たとはいえ彼女とわたし敵対関係にあります。こんなにも無防備に敵の懐に入ってくるなんて、わたしに浄化されても文句は言えないでしょう。

 

 それにしても、ばったり再会したときこそ牙を剥きだしにしていましたが、今の彼女からは警戒心が微塵も感じられません。 

 あれだけ敵意を露わにしていて攻めてきた彼女が、魔法障壁もなくベッドで寝息を立てています。


《オラクル》四天王がひとり、アルカナ=エンペリウス。


 わたしは彼女のことが分からなくなってきました。


 わたしが思っていた彼女と、今の彼女、どちらもアルカナなのでしょう。


 わたしが見てきた彼女がすべてではないのでしょう。


 知らない面はもっとあるはずです。


 彼女は自分の役目を全うしようとしていただけ、四天王という役割を演じていただけなのかもしれません。


 そう思い始めてしまったわたしは今の彼女を敵視したり、憎んだり、刃を向けたりすることは到底できそうにありません。


 目下の問題は別のところにあります。

 彼女とはこれからパーティとして行動を共にすることになります。 


 なにが問題かというと、彼女が私と同じ魔法少女だということです。


 魔法が使えなくても魔法少女であることには変わりません。このままではわたしのポジションとアイデンティティが奪われてしまう気がしてなりません。


 さらに、アルカナは積極的で物怖じしない性格です。グイグイとロランさんとの距離を縮めていくでしょう。

 そして、ロランさんは困っている人を見過ごせない性格です。わたしを助けてくれたように、アルカナが一人前になるまで面倒をみるつもりです。


 わたしはアルカナにロランさんを奪われてしまうのことを恐れています。


 ああ……、こんなことを考えてしまう自分が嫌になります。




 ――結局、わたしはアルカナと一緒のベッドで朝を迎えました。


 ほとんど眠れませんでした。

 

 井戸から汲み上げた水で顔を洗っていると、タオルを首に掛けたロランさんがやってきました。


「おはようイノリ、早いな」


「おはようございます……」


 わたしの顔を見て彼は苦笑いしました。

 そんなにひどい顔をしているのでしょうか、ショックです。


「調子が悪そうだな、眠れなかったのか?」


「ええ、まあ……。ご想像のとおりです」


「あー、やっぱり俺の部屋の方が良かったかな」


 ロランさんは申し訳なさそうにポリポリと頬を掻きます。


「いいえ、大丈夫ですから……」


「そ、そうか……。アルカナはまだ寝ているのか?」


「はい、まだ寝ています」


「向こうの方はぐっすり眠れてなによりだ」


 何度もベッドから蹴落とされましたけど、とは言えません。そんなことを伝えたらきっと気を使って自分の部屋にアルカナを住まわせようとするからです。


 なんとしても彼女には早く独り立ちしてもらわないと体が持ちません。


「さっそくだが三人で出来る依頼を見繕いにギルドに行ってみようかと思うんだ」


「それならわたしもご一緒します」


「いや、イノリはアルカナのことを見といてくれ。連続万引き犯のほとぼりが冷めるまで勝手に出歩かれると面倒なことになる」


「えー……」


「眼不足ならアルカナが起きるまで俺のベッドを使って寝ていてもいいぞ。あ、でもオッサンのベッドで寝るなんて嫌だよな、ははっ」


「今から寝て来ます! いってらっしゃい! どうぞごゆっくり!」


 わたしがそう告げるとリアクションに困ったロランさんは微苦笑を浮かべました。


「あ、うん……、行ってきます」



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