第36話☆ アルカナ=エンペリウス
こんばんは、因幡いのりです。
突然ですが、あなたに恋人はいますか?
わたしには恋人がいたことも誰かと付き合った経験もありません。
でも、それさえも通り越して今夜、わたしは夫が浮気相手を家に連れてきたときの人妻の気持ちが分かってしまったのです。
「あ……、あなたは……、《オラクル》四天王アルカナ=エンペリウス!?」
大事なことなので二度言ってしまいました。
セリフが説明調なのはそれだけ動揺しているからです。
なぜなら彼女はわたしをこの世界に送り込んだ張本人なのですから。その本人がなぜこの世界に来ているのでしょうか。そして、変身していない状態なのに、なぜ魔法少女シャイニーピンクの正体がわたしだと気付いたのでしょうか。
「こんな場所まであたしを追ってくるなんて……、あんた相当キモいわよ」
「あなたが送り込んだんでしょうがっ!」
思わずわたしはアルカナの頬をビタンと叩いていました。それはまるで昼ドラのワンシーンのようでした。
「いたぁっ!」
頬を抑える彼女の姿にわたしは我に返ります。
「あっ……」
「あっ……じゃないわよ! このっ!」
涙目のアルカナが振るった
「いた!」
わたしは頬を抑えてアルカナをキッと睨みます。追撃を加えようとしてきた彼女の腕をロランさんが掴みました。
「おいおい、ふたりともやめないか」
「「だってこの子(こいつ)が!!」」
わたしとアルカナは同時に互いの顔を指さします。
アルカナを羽交い締めにするロランさんは「先に叩いたイノリが悪い」と言いました。
ガーンとショックが頭の中で響きます。
「ひひっ、ざまーないわね」
ムカッとなったけどロランさんの手前なので我慢します。
「ていうか、ふたりとも知り合いだったんだな」
「知らないですこんな子!」
「知り合いも何も
わたしが知らない子だと発言すると、アルカナは目を見開きました。次第に彼女の瞳が涙でじわりと潤んでいきます。
「うっ……うぅ……ぐす……、ひっく……、ひっく……えぐっ、ずず……」
アルカナは嗚咽交じりに鼻をすすり、必死に涙を堪えています。もう今にも泣き出してしまいそうです。
な、なんだかとても心が痛みます……。
「わ、わかったから……。とりあえず詳しい話は俺の部屋で聞こう、な?」
涙を隠すように両手で目を覆ったアルカナの背中をロランさんが優しく撫でていました。
◇◇◇
ロランさんの部屋に移動したわたしたちは互いの視点で互いの関係と事情を語りました。
アルカナの口から語られた内容は恣意的に歪曲されておらず、おおむね間違っていませんでした。
同じ魔法少女であること。
互いに敵対していこと。
何人のも
オラクルが人間の悪い心を利用して人々を自分たちの配下にしようとしていることについては、彼らの不浄な魂を解放してあげているだけだと彼女は主張していました。
それについては全くのデタラメです。
それからアルカナがこっちの世界にいる理由についてですが、彼女はわたしに向けて放ったあの転移魔法の影響で自分まで跳ばされてしまったそうです。
魔法が失敗して自分だけがこの世界に跳ばされたのだと思っていたと、彼女は語りました。
そんなことよりも気に入らないのは、アルカナがロランさんのベッドに座って偉そうに足を組んでいることです。
いったい彼女は何様のつもりのでしょう。
「ふたりの話を要約すると、キミたちの世界では魔法少女がチーム同士で戦っているんだね」
「はい」
「そうよ」
「ずいぶん殺伐とした世界なんだねぇ……」
ロランさんがポリポリと頭を掻くと、アルカナがすっと手を挙げました。
「あたしから質問なんだけど、シャイニーピ――」
「わーーーーー!!」
「シャイニー」
「わーーーーーーーーーー!!」
「シャイ」
「わーーーーーーーーーー!」
「わ、分かったわよ……。あんた、なんで魔法少女に変身しない訳? とっとと変身してあたしを倒せばいいじゃない」
「あなたには関係ないでしょ」
ぷいっとそっぽを向いたわたしの代わりにロランさんが「あー、それな」と言いました。
「イノリは三分間、こうやって祈らないと変身できないんだ」
変身時のポーズを真似て手を重ねたロランさんは、わたしの弱点をさらっと白状してしまったのです。
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