第38話☆ しんめんば
「あんたの部屋? 何言ってんの? ロランと住むからいいって言ってるじゃない。ていうかお腹へったんだけど、早く何か食べさせなさいよ、ロラン」
椅子に腰かけたアルカナは足を組みました。
年上のロランさんに指図した上に呼び捨てにするなんて、なんたる態度でしょう。
しかし指図された当の本人は「ああ、いま用意するよ」と気にする様子もなく保存食が収まる棚に手を伸ばします。
野菜の酢漬けが入った瓶に触れたロランさんの手が止まり、「あ、そうか!」と声を上げました。
「なんだよ単純なことじゃないか……。アルカナの魔法でこっちの世界に送られたなら、同じ魔法で元の世界に帰れるんじゃないのか? よかったじゃないか、イノリ、これで元の世界に帰れるぞ!」と彼はわたしに言いました。
「そうよ! アルカナ、早く元の世界に帰りなさい!!」
わたしはアルカナにこれでもくらえと気合を入れて言い放ちます。
そんなわたしにロランさんは「あれ?」と首を傾げました。
「はあ? どうやってさ?」
アルカナは眉間にシワを刻んで左右の眉を寄せました。なにやらわたしたちの会話が噛み合っていません。
「わたしをこの世界に跳ばしたあの魔法を使えばいいでしょ!」
「あー、そういうことね……。帰る気があるならとっくに帰ってるし」
「え? どういうこと? とっくに帰っているってどういう意味??」
何を言ってんだこいつ……、そう言いたげにアルカナは口をへの字にします。
「どういう意味って、この世界に来た影響で魔法が使えなくなったからでしょ?」と彼女は答えました。
「……ちょ、ちょっと待って? もしかして変身できても魔法が使えないの?」
わたしがそう言うと彼女は顔をキョトンとさせて目を丸くしました。
「は? 違うの?」
「わたしは、使えるけど……」
「う、うそ……」
アルカナはロランさんを見ました。ロランさんはこくりとうなずきます。
「魔法が使えないなら変身したって意味ないじゃない……」わたしの喉から掠れた声が漏れていました。
「そんなことないし! パンチとかキックとかジャンプ力とかパワーアップするし!」
「それはもはや魔法少女じゃないんじゃ……」あ然としつつも私は告げました。
「う、うるさい! とにかく魔法が使える使えないじゃなくてあたしは気が変わったの!帰れないんじゃなくて帰る気なんてないし! こっちで暮らすつもりなんだからね」
「え、帰りたくないのかい?」とロランさんがアルカナに尋ねます。
「だってこっちの世界にはあたしに命令してくる奴はいないし、自由だし、楽だもん」
「こ、こっちの世界の方が楽か……。野宿暮しの万引き生活が楽だと言えるくらいキミたちの世界は殺伐としていたんだな」
ロランさんは哀れむような視線をわたしに向けてきました。そんな悲しい目で見ないでください。
少なくともわたしの世界はここよりも平和でした。危険なのはアルカナのような悪の魔法少女がいるからであってゴニョゴニョ――、言いたいことはたくさんあるけど今はややこしくなるから言いません。
「そうよ。だからあんたと暮らしてあげる」
アルカナはロランさんの方を見ながらふんぞり返ります。
「なんでそうなるのよ!」
「まあ、とにかくだ。キミたちの関係はなんとなく分かった。イノリの部屋で一緒に住んでもらいたかったが本人が嫌がっているのだから無理やり同居させる訳にはいかない。だからと言って俺の部屋に住まわせる訳にもいかない」
「じゃあどうするのよ?」
「現実的に考えてもうひとつ部屋を借りるしかないだろ。しかし今のアルカナには部屋を借りるだけの金がない」
「そうね!」
なんで威張っているのでしょうか……。
「だったらパーティメンバーとして《不撓の鯱》(テナークスオルカ)に入るのが落としどころだな」
「えっ!?」わたしは口をあんぐりと開きます。
「え?」アルカナが眉を歪めます。
「自分の食いぶちは自分で稼ぐ、それがこの世界のルールだ」
ロランさんはニッと笑いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます