第14話◆ こすい奴ら2

 そして、《紅き鮫》との試合当日を迎えた。


「あの、それでロランさんが言っていた作戦って一体……」


 控室で準備運動をする俺にイノリが聞いてきた。ワンドを握りしめてソワソワ落ち着かない様子だ。

 作戦とやらを今日まで伝えていなかったのは、もったいぶっていたからではない。ただ作戦なんて立派なものじゃないからだ。


「ああ、これだ」


 俺はこの日のために仕立てておいたフード付きのローブを彼女に渡す。


「わぁ、かわいい! すてきなローブですね。もしかしてこれが秘密兵器ですか?」


 白と桃色を基調としたローブを見つめるイノリに俺は首を振る。


「いいや、これはそんな大層な物じゃないよ。なんの変哲もないただのローブだ。嬢ちゃんはこれを着てフードを被って入場する。ここまで言えば、俺の伝えたいことは分かるな?」


「――ッ」


 なるほどそういうことか、そんな感じでイノリはポンと手を打った。さすが理解が早くて助かる。彼女はいつでも俺の言わんとすることを瞬時に察してくれる。


「さて、もうすぐ時間だ。準備をはじめよう」


 こくりと頷き、彼女は真新しいローブに袖を通す。ふわりと鮮やかな布に収まった可憐な少女の姿が一層華やいで見える。花の香りが漂ってきたきそうだ。

 たおやかで初々しくも気高いイノリのイメージ通り、良く似合っている。


「すてき……、着ると裾が花の蕾みたいに丸くなるんですね。サイズもぴったりです」


 宝物を見つめた子供のようにキラキラと瞳を輝かせるイノリを見ていると、こっちも嬉しくなる。


「良かった。ちゃんと採寸した訳じゃないから不安だったけど、ローブだしなんとかなったな」


「これは、つまり……その、ロランさんからのプレゼントってことでいいんですよね?」


「そうなるな」


「……でもどうして急に?」


 照れているのだろうか、彼女は頬をほんのり紅くさせて小首をかしげてみせた。


「いつも頑張ってくれるお礼だよ。それに今日はイノリのデビュー戦だしな、せっかくだからビシッとキメようと思ったんだ」


「ありがとうございます! すごく嬉しいです! このデザインもロランさんが考えてくれたんですか?」


「いや、実はデザインの方は知り合いに手伝ってもらったんだ。さすがに俺のセンスじゃここまでの物は作れないさ」


「そうですか……」と声のトーンを落としたイノリはローブの生地の匂いをすんすん嗅ぎ始めた。そういえばあいつの香水の匂いがローブから漂っている気がする。


「……知り合いって、もしかして女性ですか?」


「ん? ああ、そうだけど」


 肯定するとイノリは「むっ……」と不服そうな顔で口をへの字にする。


「どうした?」


「いえ、別に……」


 ぼそりと呟いてフードを被り顔を隠してしまった。


「ステークス・オルカさーん、そろそろ時間です。準備はよろしいですか?」


 やってきたて案内係に「すぐに行く、それからテナークスだ」と俺は答えて踵を返した。


 さあ、行こう。ヤツらにキミの魔法を見せてやれ、開いた口を塞がらなくしてやれ、キミを追い出したあいつらに――。







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