第13話◆ こすい奴ら

「よう、ロラン!」


 大通りを歩いていると武器屋のおやじが俺を見つけて手を上げた。いつにも増して禿げ上がった頭にツヤがあり輝いている。


「おやっさん、ずいぶん機嫌がいいな。景気良さそうじゃないか」


「おうよ、近頃はモンスターが増えて武器の売買に修理と大儲けよ!」


「そりゃなにより、夢の二号店も目前だな」


「だけどそうも言っちゃいられん。俺が忙しくなるつーことは、ギルドが弱体化してるつーことだ。冒険者の質が落ちたのかねぇ、嘆かわしい限りだぜ」


「俺が若い頃も同じようなこと言われたもんだよ」


 俺が苦笑すると、おやっさんはがははと豪快に笑った。


「ところでよ、お前さんにあんな趣味があったとはなぁ。そりゃ浮いた話も聞こえてこねぇはずだぜ」


「趣味? なんのことだ?」


「幼気な少女をだまくらかしてパーティに引き込んだってもっぱらの噂だぞ」


 にたにたとオヤジはいやらしく笑う。


 マジかよ……。なんて湾曲された悪意のある噂だ。どこのどいつだそんなことを言い出したヤツは。


「勘弁してくれよ、それは誤解だ。そんなつもりは毛頭ない、相手はまだ子供なんだ」


「それでもエキゾチックですんごい美少女だって話じゃねぇか!」


「そりゃあまあ……、あと数年もすれば美人に成長するだろうけど……」


「ほれみろ! 今から唾つけたんだな、青田買いってやつだ! ガハハっ!」


「いい加減にしないと今後はおやっさんとの取引を中止させてもらうぞ」

 

 俺は自分の声が低くなっていることに気付く。


「お? お前さんのマジな顔なんていつ以来だ? まあ、ちょっとした冗談だ。許してくれ」


「まったく……」


「話は変わるけど、俺はお前らに賭けさせてもらったぜ、大儲けさせてくれよ」


「賭けって?」


「なんだァ? 聞いてないのか?」


 おやっさんの話によれば、今度の模擬戦は賭けの対象になっているそうだ。


 当人である俺たちにはまだ知らされていないが、試合は第五闘技場で行われると決まったらしい。

 ずいぶん奮発したものだ。第五となると最大で千人規模の観客が見込まれる。わざわざ客席がある上位闘技場を選択するなんて、大勢の前で俺たちをコケにして恥をかかせるのが目的だろう。

 加えて今回の試合を賭け事の対象にしているということは、一儲けしようって腹積もりらしい。  


 こすい奴らだ。


 問題は他の冒険者や一般大衆の前で嬢ちゃんの魔法を見せることになる。

 彼女を余計なトラブルに巻き込まないためにも、できれば公にせず隠しておきたいというのが俺の本音だ。

 だが俺ひとりじゃ奴らに太刀打ちできない。スキルを発動すればなんとかなるが、命が掛かった実戦でもないのにリスクを冒すのは割に合わない。

 

 仕方ない。冒険者を続けるなら隠しておけるものでもない。それに無観客だったとしても《紅き鮫》の連中と戦えば、いずれ噂が広まる。

 ここらで披露してしまった方がいいのかもしれん、魔法少女イノリを。

 



 


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