early in the morning

 真昼の蝉の合唱とは違う、雀の囀りで目を覚ます。

 まだ重い瞼を擦り、机に置かれた単語帳を開く。

 「reflect、反射する。stellar、恒星。」

 真夏の喧騒から離れた、静かな朝。寝起きで真っ新な頭の中に英単語を詰める、この時間に最適な勉強。

 しばらくすると母親が起きる。自分が勉強していることに気付いてか、あまり物音を立てないように廊下を通る。そして硝子製の扉で隔たれた今から、ガスコンロの音が聞こえてくる。何かを焼く音、そしてすぐに味噌汁のいい香りが漂ってくる。私は釣られるままに英単語帳を閉じた。  

 母親が作ってくれた料理をかけ込む。いま勉強に集中できているのは、母親のバランスの良い食事のおかげでもある、とつくづく思う。

 テレビからは今日の天気予報が聞こえてくる。 

 『今日も日中は35度近くまで上昇します。こまめな水分補給を忘れず、熱中症には十分注意しましょう。さて、今日は我が県の代表、熟田津高校が準決勝に登場します!』

 甲子園も準決勝。ということは夏休みももう終わる。秋にある模試でいい結果を残すためにも気合を入れないと、そう思い茶碗に残った米粒を口に放り込む。 

 

 朝食を食べ終わった私は、すぐさま必要なテキストを鞄に仕舞う。時刻はまだ6時半。それでも、蝉の合唱は始まっていて、近所の公園からはラジオ体操の音が聞こえてくる。田舎は電車の数が少なく、一本逃すとかなりなロスになる。なので余裕をもって駅に行くためにも、この時間には準備をしなくてはならないのだ。

 「行ってきます。」 

 と、洗濯物を干している母に挨拶をして家を出る。

 夏の終わりを感じさせないほどに強い日差しが照り付ける。歩き始めて3分もたたないうちにすでに額には汗が滲みだしている。それでも時折吹く穏やかな風と風鈴の涼しげな音色のおかげもあって、耐えられないほど暑いわけではないのだ。

 赤い自販機のある角を曲がって、錆びたバス停のわき道を抜ければ、鼻先を突きぬける潮風の香り。近くの海水浴場からは太陽が照り返して、銀色に眩しい。そんな海沿いの歩道を歩いて坂を上った先に駅があるのだ。 

 ホームの時計は6時52分。電車には間に合ったみたい。といってもすぐ来るのだが。寝起きに読んでいた単語帳の続きのページを開け、読んでいるうちにトンネルの先から光が見えた。

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