第47話

音道貴仁が中華連邦へ出発してから数日後、播本ありさは椎名彩音と待ち合わせをしていた。待ち合わせ場所は、街中にある人気のカフェだった。

二人は、そこでコーヒーを飲みながら、最近の出来事や彩音の大好きなVRゲーム、ヴェールドアストラリアについて話し合っていた。

彩音は、ヴェールドアストラリアで出会った中華連邦の男の子、李鵬(リー・ペン)というプレイヤーについて話し始めた。「彼は、本当にすごいプレイヤーで、ゲーム内で知名度が高いんだよ。」と彩音は興奮気味に話す。

ありさは興味津々で聞き入っていた。彩音はさらに、李鵬と一緒に冒険した際のエピソードや、彼がどのようにしてヴェールドアストラリアの世界で名声を得たのかについて熱く語った。李鵬は、ゲーム内で独自の戦術やスキルを駆使し、数々の困難なクエストをクリアしていたという。

ありさも彩音の話に引き込まれ、李鵬に興味を持ち始めた。

李鵬は、ゲームの世界では華々しい活躍を見せていたが、リアルな世界では貧しい家庭で育っていた。その事実を知った播本ありさは、彼に共感を覚え、彼に会ってみたいと思った。

ありさ自身もかつては困難な状況にあったことがあり、李鵬とは何か共通点があるのではないかと考えた。

椎名彩音は、ありさの気持ちを理解し、彼女が李鵬に会えるよう手配をしてくれることになった。そして、ヴェールドアストラリアの美しい惑星、セレナリウムで李鵬との初対面が実現することになった。

セレナリウムは、幻想的な森や光り輝く湖、美しい空を持つ惑星で、プレイヤーたちにとってはとても人気のある場所だ。

セレナリウムの幻想的な森の中で、李鵬と播本ありさは初対面を果たした。李鵬は細身で、髪は黒く、瞳は深い琥珀色だった。彼は初対面でありながら、ありさに対して素直な笑顔で挨拶し、フレンドリーな態度で接してくれた。

初めのうちは緊張気味だった二人だが、椎名彩音のリードもあり、すぐに会話が弾んでいった。彼らは、ヴェールドアストラリアの中での冒険談やお気に入りのエリアについて語り合い、共通の趣味について盛り上がった。

会話が進むうちに、李鵬がリアルな世界で貧しい家庭で育ったことを告げると、ありさは自分の過去も明かした。彼女も苦しい状況から抜け出すために努力し、今の地位を築き上げたのだ。そんな過去を持つ二人は、互いに共感し、さらに親近感を覚えた。

李鵬は、家族を支えるためにヴェールドアストラリアで稼いだゲーム内通貨を現実の世界に換金し、生活を助けていたことを打ち明けた。ありさは、李鵬の家族への強い思いや責任感に感銘を受け、自分も彼のような前向きな姿勢を持ちたいと思った。

また、李鵬もありさの努力や根気によって乗り越えてきた困難を尊敬し、彼女に対する敬意を表した。

李鵬は、播本ありさのことをすでに知っていた。

実は、ヴェールドアストラリアのプレイヤーたちの間で話題になっていた、ありさのルミナ、アゼリアが、あかりのルミナ、ルナ、そして彩音のルミナ、エリディアと一緒に踊っている動画がSNS上に投稿されていたのだ。

李鵬もその動画を見つけて、ありさたちの躍動感あふれるダンスや、ルミナたちの可愛らしい動きに魅了されていた。

李鵬はありさに、その動画について話を切り出す。「実は僕、ありささんのことを知っていました。あの動画を見て、すごく楽しそうだなって思いました。」

ありさは驚きの表情を浮かべたが、次第に笑顔に変わっていった。「そんな動画が上がっていたなんて知らなかったけど、楽しい時間を共有できたのなら嬉しいわ。」

李鵬とありさは、さらにゲームの話題で盛り上がる。ルミナたちの成長や、彼らがプレイヤーをサポートするさまざまな方法について熱心に語り合った。


ある日、ありさはアゼリアを連れてヴェールドアストラリアにログインした。ヴェールドアストラリアにはインポート機能があり、ルミナをヴェールドアストラリアに連れて入ることができる。李鵬はアゼリアの姿を見て感動する。彼女は美しく、そして力強い存在感を放っていた。

「すごい!アゼリア、本当にここにいるんだね。」と李鵬が驚きの声をあげると、アゼリアは優雅に微笑んで彼に頷いた。

その時、播本ありさは李鵬に提案する。「李鵬くん、実は私たちのプロジェクトで、新しいルミナを開発しているんだ。君のような才能あるプレイヤーにテスターになってほしいと思っているの。どうかな?」

李鵬は少し驚いた表情を見せつつも、瞳に輝く期待に満ちた光が宿っていた。「本当に僕が?そんな大役、僕にできるかな…。」

ありさは優しく微笑んで答える。「大丈夫、君ならきっと素晴らしいフィードバックがもらえると思う。私たちも全力でサポートするから、一緒に新しいルミナを育てていこう!」

李鵬は深呼吸をして、自信を持ってうなずいた。「ありがとう、ありささん。僕、全力で頑張ります!」


その日、ありさ、彩音、李鵬の3人は、イグニフィカを冒険していた。美しい火山や溶岩の流れる荒涼とした景色が広がる惑星で、スリリングな冒険が繰り広げられていた。

ひとしきりプレイした後、李鵬は突然重い口調で告げる。「実は、もうすぐヴェールドアストラリアに来れなくなるかもしれないんだ。」

ありさと彩音は驚いて彼に理由を尋ねる。すると、李鵬は語り始めた。「父が会社を解雇されてしまって、家族に収入がなくなってしまったんだ。ヴェールドアストラリアに来る余裕はないだろうし、僕は軍に志願することを考えている。僕のゲーム技術は優れているから、軍隊でも活かせるはずだ。」

ありさは驚愕して言葉を失った。16歳の李鵬が軍に志願しなければならない現実に、彼女は心を痛める。

「助けたい」とありさは言った。その言葉は、かつて自分自身がスラム街で過ごしていた8年前の経験からくる言葉だ。その言葉が口をついたことを彼女自身も驚いていた。

李鵬はその言葉に驚いた表情だ。

彩音は穏やかな笑顔でありさに言った。「口に出すことは、実現するための最初の一歩だよ。」彼女の言葉は、ありさに勇気を与える。

ありさは李鵬の目を見つめ、「もしできることがあったら、私たちも力になりたい。だから、軍への志願を少しだけ待ってほしい。」と頼んだ。

李鵬は少し考えた後、ありさたちの気持ちに感動してうなずいた。「わかった。ありがとう。少しだけ待ってみる。」


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