第45話

高橋はまず、鄭二寿の取り調べを行った警察官石川遼太郎に話を聞くことにした。石川との面談の日を決め、待ち合わせ場所へと向かった。


面談の際、高橋は石川から首相官邸で執務中の藤田総理を狙ったドローン攻撃について、逮捕された鄭二寿の供述を詳しく聞くことにした。石川は供述内容に不自然な点があったことを伝え、高橋に具体的な情報を提供した。


鄭二寿の供述によると、彼の犯行当日の動きは以下の通りだ。


午前8時頃、自宅を出発し、最寄りの駅から電車で都心へ向かった。その間、彼は特に何もせず、ただ電車に乗っていたという。


午前10時頃、都心に到着した後、彼は指定された場所でドローンを受け取る。このドローンはすでに改造済みで、火薬も搭載していた。藤田総理を襲撃する準備が整っていたという。


午前11時頃、彼はドローンを隠し、首相官邸の周辺で待機していた。彼は周囲に気づかれないように、公園のベンチで座っていたと供述した。


正午前後、彼は首相官邸で会議中の藤田総理を狙い、ドローンを飛ばし始める。改造された彼のドローンは高速で首相官邸に突っ込む。警備員はただドローンが飛ぶのを見ているしかなかった。窓ガラスに当たる直前、ドローンは爆発。幸い、首相は軽傷で済んだ。


事件後、彼は現場から逃走しようとしたが、すぐに警察に逮捕された。彼は身柄を拘束され、取り調べが始まることとなった。


普通、首相を襲撃するような指示を受けても、それを実行には移さない。鄭二寿はなぜ中華連邦の指示に従ったのですか、と高橋は石川に尋ねる。

石川は、鄭二寿の供述を詳細に話す。


1.鄭二寿は、中華連邦政府からの圧力が強く、拒否することができなかったという。


2.中華連邦には国益に関する法律がある。この法律上、中華連邦の国民は世界中どこに行っても、中華連邦の指示に従う義務があった。


3.この義務には連帯責任が課せられていた。すなわち、指示に従わなかった場合、その家族が訴追を受ける可能性があった。


4.鄭二寿は、自分の家族を守るために、やむを得ず犯行に及んだと主張している。


彼は中華連邦政府からの命令を無視すれば、自分だけでなく家族も危険にさらされることを恐れていた。鄭二寿は犯行を実行する前から、逮捕されることを覚悟していたが、家族の安全が最優先だったと語る。


高橋は石川から鄭二寿の供述を聞いた後、彼の家族の現状を尋ねる。石川は、鄭二寿の家族については不明だと告げる。鄭二寿は7年前この国に移住したことはわかっている。ITエンジニアとして来日している。日本に家族はいない。中華連邦にいるという彼の家族については、何の情報もない。


高橋は石川に向かって、鄭二寿の身元はどのように確認したのか尋ねる。石川は答える。「T-RFIDデバイスで認証を行いました。データベースと照らし合わせて、彼の顔データが一致することを確認しました。」


高橋はさらに詳しく知るため、パスポートについて聞く。「彼はパスポートを持っていたのですか?」


石川は首を横に振って答える。「いいえ、鄭二寿はパスポートを所持していませんでした。ですが、T-RFIDデバイスの情報と顔データの一致により、彼の身元は確認できています。」

「それでは、鄭二寿の知人や友人から話を聞いて、確かに彼が鄭二寿であると確認しましたか?」と高橋が尋ねる。

石川は高橋の質問の意図をつかむのに苦労しているようだ。しばらく考えた後、「いえ、彼には身寄りもなく、何年も無職の状態が続いています。彼と親しいと言えるような知人はいないようです」と答える。

「失礼ですが、もしかして、T-RFIDのシステムが誤っているとお考えなのですか?」

高橋は「いや、そういうわけではないんだが」と答える。


高橋は、石川に使用されたドローンについても詳細に尋ねる。ドローンのメーカーや製造番号が特定できたのか、その情報が犯行の手がかりになるかもしれないと考えたからだ。


石川は調査の結果を報告する。「鄭二寿が使用したドローンは、映像から判断すると中国製であることがわかりました。しかし、爆発によって大きな損傷を受けており、製造番号などの特定ができる部分は残されていませんでした。」


高橋は、鄭二寿の足取りについても石川に尋ねる。

鄭二寿は電車で移動したというが、その場合、監視カメラに彼が乗車した画像が映るはずだ。


石川は、現在その解析を進めていると答える。現場周辺には数多くの監視カメラが設置されており、駅員の協力を得て1つずつ確認しているが、1日で終わる作業ではないと言う。今のところ、鄭二寿が映った映像は見つかっていない。


石川の言葉に、高橋は驚きを隠せず、「失礼ですが、刑事事件を担当するようになって日が浅いのではないですか?」と尋ねる。石川は恥ずかしそうに、「まだ8か月です」と答える。高橋はさらに疑問を持ち、他の担当者も同じような状況なのかと尋ねる。


石川は考えた後、「確かに、そう言われてみれば、若手が多い気がします」と答えた。

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