第39話
内閣総理大臣藤田健太郎と官房長官・渡辺光宏は、首相官邸の会議室で、桜井派の斉藤一郎防衛大臣についての会話を交わしていた。
藤田総理は慎重に言葉を選びながら言った。「斉藤大臣の軍拡路線については、多くの懸念がある。国内外の情勢を考慮しても、過剰な軍拡は国際社会からの信頼を失うだけでなく、国民の理解も得られないだろう。」
渡辺官房長官も同意して頷いた。「確かに、私もその通りだと思います。しかし、斉藤大臣は桜井派の重鎮であり、彼の意見には一定の重みがあることも事実です。総理としては、どのように対処されるお考えですか?」
藤田総理は深く考え込んだ後、静かに答えた。「斉藤大臣の意見は、一定の理解を示す必要がある。しかし、それと同時に、我々は国益と国民の声に耳を傾けるべきだ。過剰な軍拡には反対する立場を明確にし、理念を共有できる閣僚たちと連携して、よりバランスの取れた安全保障政策を推進していくつもりだ。」
渡辺官房長官は、総理の答えに同意する。同意はするのだが、その一方で自分たちの力が及ばないような時代の流れに飲み込まれてしまう可能性を懸念していた。
藤田総理と渡辺官房長官は、臺灣民主共和国と中華連邦についての議論に移った。この問題は、日本の安全保障と地域の平和に大きく影響するため、非常に重要なテーマであった。
藤田総理は、渡辺官房長官に向かって言った。「中華連邦と臺灣民主共和国の関係は、われわれにとっても重要な課題だ。中華連邦は、臺灣民主共和国の独立を未だに認めておらず、その軍事的圧力も続いている。この問題に対処するためには、国際社会と連携して、平和的解決を模索しなければならない。」
渡辺官房長官も懸念を共有する。「確かに、中華連邦の軍事力は増大しており、特にドローンや自立移動型ロボットの開発が進んでいることが懸念されます。一方で、臺灣民主共和国は日本と友好的な関係を築いている。我々は彼らと協力して、地域の安定と繁栄に貢献しなければなりません。」
藤田総理も、渡辺官房長官の意見に同意する。「我々は臺灣民主共和国との連携を強化し、中華連邦に対しても対話を通じて平和的解決を求める方針を取る。それは変わりがない。」
歯切れの悪さは、藤田総理も不安を持っているからだ。
藤田総理は、臺灣民主共和国へのドローン供与と技術協力についても触れた。「日本のドローン技術や、PT-RFID技術を用いたシステムは、臺灣民主共和国の安全保障に大きく貢献できると考えている。今回、天風ドローン1000機の供与と、技術協力によるトレーニングが決定されたことは、我々と臺灣民主共和国の連携を強化する良い機会だ。」
渡辺官房長官も同意する。「この技術協力を通じて、我々は臺灣民主共和国の防衛能力を向上させることができるでしょう。また、この協力が日本と臺灣民主共和国の友好関係を一層深め、地域の安定にも繋がることを期待しています。」
とすると、気がかりなのは米軍である。日本と米国は100年以上にわたる同盟関係にあるが、中華連邦建国や臺灣民主共和国独立の際には、「大国同士の衝突を避ける」という立場から、直接戦争には参加せず、後方支援に徹していた。
藤田総理は、米軍の動きについて慎重に検討しなければならないと指摘した。「もし、中華連邦と臺灣民主共和国の間で軍事衝突が起こった場合、米軍はどのように対応するのか。我々は、そのシナリオを考慮に入れておく必要がある。」
渡辺官房長官は、中華連邦と臺灣民主共和国の間で軍事衝突が起こった場合の米軍の動きについて、予測結果を示した。具体的には、以下の4つのシナリオが考えられると説明した。
1.米軍が直接介入し、臺灣民主共和国の防衛にあたる
米軍が直接、臺灣民主共和国を支援し、その防衛にあたるシナリオ。これは、米国が地域の安定や民主主義の維持を重要視し、同盟国である日本と協力して行動する可能性がある。
2.米軍が後方支援に徹し、日本と共に軍事物資や情報を提供する
米軍が、中華連邦との直接対決を避けつつ、臺灣民主共和国に対して軍事物資や情報の提供などの後方支援に徹するシナリオ。日本も同様の支援を行い、連携を深める。
3.米軍が緊急事態に対処するため、地域内に展開するものの、直接戦闘には参加しない
米軍が緊急事態に対処するため、地域内に展開するものの、直接戦闘には参加せず、抑止力を発揮するシナリオ。この場合、米軍は周辺国との連携を重視し、軍事衝突の拡大を防ぐ役割を担う。
4.米軍が国際連合や他の国際機関を通じて、外交的な解決を図る
米軍が軍事行動を行わず、国際連合や他の国際機関を通じて、外交的な解決を試みるシナリオ。この場合、日本も同様に外交努力を行い、中華連邦と臺灣民主共和国間の緊張緩和に向けて働きかける。
同盟国の行動を予測しながら戦略を立てるのもおかしな話だと渡辺は思う。この不確定性は、重大な懸念事項なのではないか。
藤田総理は、中華連邦の保有する核兵器についても言及し、その脅威を強調した。
現在、中華連邦は1000発以上の核兵器を保有する核大国であり、その力は無視できない。米軍との直接対峙が核戦争に発展する可能性がある。
総理は、そのような事態を回避するためにも、日本政府は外交努力を続けるべきだと強調した。
渡辺官房長官も同意し、日本がどのような対応を取るべきかを慎重に検討するとともに、国際社会と協調して中華連邦と臺灣民主共和国間の緊張緩和に努めるべきだと述べた。
ここで、会話は斉藤防衛大臣の話に戻る。
自衛隊は米軍と協調して臺灣民主共和国の周辺で何度も軍事演習を行っている。このことへの懸念である。
米軍は直接介入しない可能性が高いにもかかわらず、軍事演習を行っている。
これでは軍事衝突の際に演習にならない上、軍事的な緊張を高めるだけの結果になっているのではないか。
斉藤防衛大臣は何を考えているのかを問う。
渡辺官房長官は藤田総理の問いに対して、慎重に言葉を選んで回答した。
「斉藤防衛大臣は、おそらく自衛隊の存在感を示すことで、中華連邦に対して威嚇し、同時に臺灣民主共和国に安心感を与えることを目的としているのでしょう。しかし、その結果が逆に緊張を高めることになるという危険性もあるのは事実です。」
藤田総理は深くうなずいた。「私たちの目的は、あくまで平和的解決に向けた外交努力を支援することです。軍事行動がそれに逆行するなら、見直すべきだ。」
渡辺官房長官は同意する。「総理のおっしゃる通りです。私たちの最優先事項は、この地域の平和と安定を維持することです。そうした意味で、斉藤防衛大臣との対話を重ねて、彼の考えを理解し、必要に応じて調整していくことが重要だと思います。」
藤田総理は納得した様子で、「そうだね。斉藤大臣ともっとコミュニケーションを図り、意見を聞いて、適切な判断を下していかなければならない。」と述べた。
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