第38話
都内の広々とした練習場で、横山啓太は熟練の技でドローンを飛ばしている。彼は今やこの国を代表するプロのドローン操縦者であり、大会でも何度も優勝して名を馳せている。
空に舞い上がるドローンは、横山啓太の指先から送られる繊細な操作によって、まるで生き物のように滑らかに動く。ドローンは、高速で旋回しながら空中で華麗なアクロバットを繰り広げる。彼のドローンは、その速さと機敏さ、そして正確な操縦技術で、観る者たちの息を呑むようなパフォーマンスを見せつける。
横山啓太の目は、ドローンの動きに完全に同期しており、まるで自分自身が空を飛んでいるかのような感覚に浸っている。彼は、無限の可能性を秘めた空を舞台に、自分の技術と創造力を駆使し、常に新たな高みを目指して挑戦し続けている。
「素晴らしい技術だね」と隣の貴仁が声をかける。横山啓太は「ひさしぶり」と応じ、さらに「これでももうトップとは言えない」と続ける。初めてPT-RFID技術を用いた頃は、圧倒的な優勝を繰り返した啓太だが、今ではもう誰もが当たり前に使う技術になっている。
貴仁は話題を変え、臺灣民主共和国のことに触れる。オファーを受けることになった理由を啓太に尋ねる。啓太は少し考え込んだ後、真剣な表情で答える。
「正直、最初は戸惑ったんだ。でも、この国の技術力を見て、ここで僕の技術が役立つと感じたんだ。それに、臺灣民主共和国と日本の関係も今後重要になってくるだろうし、僕が橋渡しの役割を果たせるかもしれないと思った。」
「というのは建前で、本当はただまた一緒に仕事をしてみたかったんだ」啓太は笑う。
貴仁は、啓太と臺灣民主共和国入りした後の予定について話し始める。現地では空軍のドローン部隊に対してレクチャーを行うことになっている。また、日本からT-RFID搭載のドローンを1000機譲渡することが決定しており、その取り扱いや運用方法についても指導する予定だ。
さらに、貴仁は半年以上の長期滞在になることを告げる。啓太は少し驚いた様子を見せるが、同時にやる気に満ちた表情でうなずく。
「半年か、長いけど、これだけの時間があれば現地の人たちともっと深く関われるし、しっかりと技術を伝えられるね。」
二人は再度、互いの役割分担を確認する。
「貴仁はPT-RFID技術を用いたシステムの導入と説明を担当し、僕はSTEAドローンを撃墜する操縦技術に関する指導を行う。あっているかい?」啓太が確認する。
「うん、そうだ。お互いが得意な部分で協力し合おう」と貴仁が答える。
啓太は純礼のことを気にかけ、彼女の予定を尋ねる。
「それで、純礼さんはどうするんだ?」と啓太が聞く。
貴仁は少し苦笑しながら、「最初は純礼が日本に残る予定だったんだけど、彼女自身が同行を希望してね。結局、一緒に行くことに決まった」と告げる。
彼女がいないと貴仁はダメだからなと啓太は笑う。
ふと思い立ったように、啓太は臺灣民主共和国の現状に懸念を示し、首をふる。
「台湾の状況は心配だよな。中華連邦の軍事力が増す一方で…」と言葉を続ける。貴仁も同意する。「うん、その通りだ。緊張が高まっているのは間違いないね。」
二人は、臺灣民主共和国と中華連邦の外交関係について話し合う。
臺灣民主共和国は、中華連邦建国の際に独立を達成したが、中華連邦はその独立を未だ認めていない。
そのため、中華連邦は度々「反乱軍によって不当に占拠された反政府勢力」であるという主張を行い、臺灣民主共和国への軍事攻撃の可能性を示唆している。
軍事力としては、中華連邦は臺灣民主共和国の3~4倍の規模とされており、その戦力は近代化が進んでいる。
特にドローンを使った戦力が主力となっており、近年は自立移動型ロボットの開発にも力を入れている。
巡回する二足歩行型のロボットや、四足歩行のロボットの映像が盛んに流れていることからも、その進展が伺える。
啓太は鉄龍(ティエロン・2足歩行型ロボット)や疾風虎(ジーフェンフー・4足歩行ロボット)の名を挙げる。「鉄龍と疾風虎の映像を見たときは、正直驚いたよ。転んでも何度も立ち上がる姿は、まるで生き物みたいだった。」と彼は驚愕の様子を語る。
「天風(テンプウ、日本のドローン航空機)については、それほど強力な兵器を搭載しているわけではない。STEAドローンを打ち落とすことはできても、鉄龍や疾風虎を破壊するほどの火力はない。
むしろこちらの方が厄介ではないか」と啓太は言う。
鉄龍は、2足歩行型のロボットであり、全体的な外見は力強くてコンパクトなデザインが特徴である。身長は約1.5メートルで、太くて頑丈な脚部によってバランスを保ち、優れた機動性を発揮している。その足部は、地形を選ばずに移動できるよう、特殊な素材と柔軟な関節を備えている。
頭部には、先進的なセンサーやカメラが搭載されており、広範囲の視界を確保している。これにより、鉄龍は敵を早期に発見し、適切な対応を取ることができる。
背中には、バッテリー駆動の高出力モーターが搭載されている。これにより、短時間での高速移動や、急激な加速を可能にしている。
腕部は長く、両手には高性能なマニピュレーターが装備されており、さまざまな物をつかんだり、状況に応じた道具を装着できる。また、腕には追加の装備スロットがあり、必要に応じて機能を強化することも可能である。
鉄龍の外装は、暗いグレーの強化プラスチックと金属合金で覆われており、様々な攻撃から身を守ることができる。さらに、その表面はステルス性能を持っていて、レーダーや赤外線による探知を難しくする。
疾風虎は四足歩行型のロボットで、全長は約1.3メートル、肩高は0.8メートルほどである。そのシルエットは、動物のような流線形で、速度と機動性に優れた設計となっている。筋肉のように動く関節と、適応性の高い足部が、あらゆる地形での高速移動を可能にしている。
頭部には、高解像度のカメラや赤外線センサーが搭載されており、夜間や悪天候下でも鮮明な視界を確保することができる。また、先端技術を用いた音響センサーによって、微かな音を拾い上げることができる。
背中には、コンパクトながら高出力のエンジンが搭載されており、長時間の活動や短時間での瞬発力も発揮できる。さらに、背中のスロットにはさまざまなモジュールを装着することが可能で、任務に応じたカスタマイズが容易である。
四本の足は、筋肉質でしなやかな構造が特徴で、地形に合わせて迅速に適応することができる。足先には、高性能のグリップが付いており、滑りにくい地面でも確実に移動できる。
疾風虎の外装は、耐久性の高い金属合金と強化プラスチックで覆われており、軽量かつ高い防御力を兼ね備えている。その表面は、迷彩塗装が施されており、自然環境に溶け込むことができる。また、ステルス性能も持っており、敵のレーダーや赤外線探知に対して高い回避能力を発揮する。
「鉄龍や疾風虎も、堅牢な装甲により、通常の攻撃ではほとんどダメージを与えられない。しかも、高度な自律機能を持ち、迅速かつ緻密な動きができる。建物に隠れる行動もとれる。ドローンによる空中からの攻撃は相性が悪い。」啓太が解説する。
「地上配備型のロボットは、今のところ気にする必要はないのではないか」と貴仁は言った。「橋頭堡ができなければ、地上配備型のロボットの展開は難しいからね。」
啓太はうなずきながらも、若干の懸念を顔に表していた。「確かにその通りだ。ただ、もし戦争になれば、状況は一変するかもしれない。何が起こるかわからないから、油断は禁物だ。」
貴仁も啓太の意見に同意する。「その通りだね。だからこそ、僕たちは最善の準備をしておく必要がある。」
二人はそれぞれの役割を再確認し、今後の対策を練ることにした。これからの任務は、彼らにとっても大きな試練となることは間違いなかったが、それでも彼らは、この国を守るために全力を尽くす覚悟を固めていた。
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