19,腹の虫
「ははは、そりゃ壮大な話だな! 復讐のために転生か! まるで神話の物語のようだな! 貴様、中々才能あるぞ! 小説家にでもなれるんじゃないのか?」
「う、うるせえ! オレは冗談で言ってんじゃねえんだよ!」
「なるほど……まぁようするに、お前はわたしが〝魔王〟の生まれ変わりだということはある程度信じていて、その上でわたしが何か悪さをしようとしてないか、それを確認しにきたというわけか」
わたしがそう言うと、シャノンはわたしを睨みつけたまま頷いた。
「そういうことだ。
「ははは、それはそうだな」
わたしは再び笑った。
なるほど。
こいつは〝勇者〟としてここに来ているのだ。
ならば、わたしもやはり〝魔王〟として答えるべきだろうと思った。
そう、こいつにとってわたしは〝魔王〟だ。それ以外の何者でもないのだ。であるならば、わたしはそう振る舞わねばならないだろう。こいつがヴァージルであるかどうかは、今は保留だ。
「それで? わたしをどうするつもりだ? 前世のように殺すのか?」
「……それは」
「ふん、まぁそのつもりならばわたしは構わんがな。そっちがそのつもりなら、わたしはいつでも相手をして――」
ぐぎゅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!
ものすごくかっこ良く決めようとしたところで腹の虫が叫んだ。
「……」
「……」
しばし見つめ合った。
わたしは軽く咳払いした。
「……こほん。ふん、まぁそのつもりならばわたしは構わんがな。そっちがそのつもりなら、わたしはいつでも相手をしてやるぞ、勇者よ!」
「いや今の流れで何事もなかったように続けるのはさすがに無理だろ!?」
「じゃかましいわ!! そこは男ならレディの失態は笑って流さんかい!!」
思わず立ち上がろうとしてしまった。
……この時、わたしは自分の身体が大きなダメージを受けていることを、すっかり忘れてしまっていた。
一瞬、マジで手足が千切れたかと思った。
急な動作をしようとしたせいで、それくらいドギツイ痛みが全身を襲ったのだ。
あまりのえぐい痛みに思わず「ふおおおおおおおおおおお!」と変な声が出て、その場に倒れ込んでしまった。
わたしが急にレディにあるまじき姿で悶え苦しみだしたのでシャノンが困惑していた。
「な、なんだ!? どうしたんだ!?」
「だ、だいじょうぶだ……なんでもな――(鋭い痛み)ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいッ!!!!!」
「絶対に何でもないことないだろそれ!?!?」
「ほ、本当に何でもない……ッ!」
わたしは根性でソファに這い上がり、身体を横にした。全身は冷や汗まみれである。
「まぁ、なんだ……ただちょっと身体の調子が悪くてな。ほんのちょっとでも無理して手足を動かしたら千切れるくらいの痛みに襲われるだけだ……」
「それ何でもないってレベルじゃねえだろ!?」
「大したことじゃない……寝てればどうにかなる……」
わたしは手足を投げ出してソファに上に寝っ転がった。もう完全にレディがどうとかどうでもよくなっていた。そんなの気にしていられる状態じゃない。
「……なんか、本当に具合悪そうだな」
「こんなのわたしにとっては昔から日常茶飯事だ。これでも最近はマシになった方だぞ」
「昔から?」
「ああ。今のわたしは人間にしては魔力が多すぎるんだ。そのせいで昔からよく熱を出してな。下手したら死ぬような高熱も何度も出した。ま、そのおかげで意地でも魔力制御を覚えなきゃならなかったからな。おかげで今はある程度魔力制御もできるし、ちょっとくらいなら魔法も使えるようになったが」
「は? ま、魔法が使えるのか? 今は人間なのに?」
シャノンが驚いた顔をした。
わたしは「あ」と思った。
……しまった。つい喋ってしまった。
いや、でもまぁいいか。相手は自称ヴァージルだしな。というか自ら〝魔王〟の生まれ変わりだと名乗っているのだから魔法のことなんて今さらだ。
「ああ。まぁ身体へのダメージを考えたら大した魔法は使えんけどな……」
「それはつまり、ダメージを考えなければ大した魔法も使えるってことか?」
「命を投げ出す覚悟でやれば、山一つくらいは吹っ飛ばせるかもな。やってみんと分からんが」
「いや、そんな魔法使ったら死ぬだろ」
「はは、だろうな」
わたしは思わず肩を竦めていた。
「それより、宿敵の〝魔王〟が弱ってるぞ? 倒すなら今じゃないのか〝勇者〟よ?」
わたしがからかうように言うと、シャノンはなぜかバツが悪そうに目を逸らした。
「……オレはお前が悪さしてないか確認しに来ただけだ。別に倒しに来たってわけじゃねえよ。お前が今は大人しくしてるんなら、別にそれでいい」
「そりゃお優しいことだな……あの悪名高い魔王メガロスを自称するようなやつをみすみす見逃すのか?」
現代における〝
まさに残虐非道、悪逆無道、極悪大罪の権化とも言うべき存在として現代の人間社会に語り継がれている。
そりゃまぁ、人間という存在をこの地上から一人残らず殺戮しようとした諸悪の根源(by歴史の本)だからな。それぐらいは言われるだろう。
と、わたしは笑っていたのだが、
「〝人間〟の言うことなんて何もあてになんねえよ」
シャノンはまるで吐き捨てるようにそう言った。
それはあまり大きな声ではなかったが……何やらとても感情がこもったものだった。
それはまるで――〝人間〟というものを心から憎んでいる、という顔だった。
思わずシャノンのことを見ていると、
ぐぎゅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!
と、再び腹の虫が叫んだ。
「……」
「……」
再び沈黙が舞い降りる。
……腹の虫、ちょっとは自重してくれ。
「はあ、ったくしょうがねえな……ちょっと勝手にキッチン借りるぞ」
「え?」
シャノンは急に立ち上がると、本当にそのままキッチンへ行ってしまった。
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