第5章
25,それから
そして、それからというもの、シャノンは本当に毎日のようにわたしの家にやって来るようになった。
最初はわたしも「こいつは何がしたいんだ?」と訝っていたが、日々メシを食わせてもらっていると、何だかもうどうでもよくなってきて、いちいち疑問に思わなくなってしまった。
非常に悔しいことではあるが……やつのメシは本当に美味い。美味すぎるのだ。
だからきっと、美味すぎてわたしの知能が低下してしまったのだろう。これは決してわたしがやつに敗北したというわけではなく、やつの巧妙な策略に嵌められてしまったということもできる。くっ、美味い飯が憎い……。
シャノンは必ず朝の同じ時間にやってきて、三食分作り、朝食だけわたしと一緒に食べて戻っていくのが常だった。
こんなふうに毎日のように誰かと一緒に食事をするというのは、父親が死んで以来なかったことだ。
シャノンは別に愛想がいいわけでもなく、むしろいつもぶすっとした顔をしていたが、料理を褒めると照れて、それを指摘すると怒った。
特に大した話はしなかった。
次第に、お互いに魔王だとか勇者だとか、そういうことも意識することもなくなって、何だかこいつとメシを食うのがただ当たり前の日常みたいになり始めていた。
……それから、もう一つわたしの生活には変化があった。
シャノンが来るようになってから、〝悪夢〟をほとんど見なくなったのだ。
その代わり、不思議と昔の夢を見ることが多くなった。
それは、わたしが本当の意味で子供で、そして前世でもっとも幸福な時代の夢だった。わたしが〝ミオ〟で、ヴァージルと遊び回っている頃の夢だ。
その夢を見ると、わたしはとても幸福な気持ちで目覚めることができた。
そして、眼が覚めればあいつが当たり前のような顔をして姿を見せる。
……正直に言おう。
わたしは、いつからかシャノンが来るのを少しばかり楽しみに思うようになってしまっていた。
あいつが本当にヴァージルの生まれ変わりなのかどうか、それは今も分からない。
でも、わたしはあいつが来ると思うと、不思議と心が少し弾んでいた。
あの恐ろしい悪夢を見なくなったからだろうか。
わたしは、不覚にも日々を楽しんで、自分が見たくないと思っているものから目を背けようとしてしまっていた。
……でも、本当は分かっていたのだ。
これ以上、こいつと深入りしてはいけない。
もしこれ以上近づいてしまえば――わたしの〝呪い〟に、こいつを巻き込んでしまう。
わたしは呪われている。
だから、不必要に人と近づいてはいけない。
こいつをわたしの大事な人にしてはいけない。
そう。
わたしはそうしなければならないのだ。
なのに――それが分かっているのに、わたしは、どうしても自分の心をシャノンから遠ざけることができなかった。
死者たちの声はいつだって、隙間風のように、わたしの心の中に吹き込んでいたけれど……わたしは、都合良く聞こえないフリをしていた。
μβψ
――ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!!!!
「うっせぇわッ!!」
飛び起きた。
もうそろそろ身体の調子も良くなってきたようだ。今日は悶絶せずに済んだ。
って、それは今はどうでもいい。
――ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!!!!
またもや朝っぱらから呼び鈴が鳴り響いていた。
まーたあいつか!?
くそ、また性懲りもなくわたしのためにメシを作りに来やがったのか……ぶっちゃけ助かるわ、めっちゃくちゃ!!
はー、まったくもう仕方ないヤツだ。
まぁでも別にわたしが頼んでるわけじゃないしな。向こうが勝手に来るんだ。仕方ない。あー仕方ない。勝手に来るんじゃ仕方ないよなー。うん、仕方ない仕方ない。
もはや日課のように玄関へ向かった。
ガチャ、と鍵を解錠して玄関ドアを開ける。
「おー、来たかシャノン。まぁとりあえず上がって――」
「……え? シャノン?」
「え?」
玄関に立っていたのはシャノンではなくアンジェリカだった。
「……」
「……」
しばし見つめ合った。
わたしはそっとドアを閉じ――
「いや何でよ!?」
ようとしたがこじ開けられた。中々の腕力だ。
「な、何だ、アンジェリカか。どうした、呼び鈴なんか鳴らして。いつも勝手に入ってくるだろう?」
「玄関の鍵がかかってたから仕方なく鳴らしたのよ。それよりも――」
ガシッ!!!! と両肩を掴まれた。握力がすごかった。
「……それよりエリカ、さっきの言葉どういう意味?」
……あと、ちょっと目が怖かった。
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