第16話 暗殺計画

 校長は,魔法士と剣士のトップ3が準備OKであるのを確認した。


 校長「では,双方,準備はいいですね。では,模範試合,始め!」


 その声を聞いても,魔法士の3名は,何も動かなかった。というのも,剣士は耐魔法攻撃のローブと鎧を着ていたからだ。この模範試合で,彼女ら魔法士が剣士のために,あえて敵に魔法攻撃をする必要性は感じていない。すぐに決着がつくと高を括っていた。


 No.1剣士バルミラは,No.2とNo.3のレダ-ラとデラーレに命じた。

 バルミラ「レダーラ,デラーレ! 自己最高のスピードで,あの唐変木を倒しなさい!!」

 レダーラ「任しとき。あんなやつ,一瞬で倒してあげまさぁ」

 デラーレ「われわれは,この獣人国最強の剣士だということを知らないのかぁ? おまけに,まったく武器を持っていないし,素手で勝つ気なのかなぁ?」


 レダーラとデラーレは,お互いの顔をみて頷いた。それは,『Go』の合図だ。


 レダーラは3倍速に加えて,魔法付与によって脅威の6倍速でゴルージオに迫った。手には片刃の長剣を持っている。


 一方,デラーレは5倍速だ。剣技だけでいうなら,デラーレのほうがレダーラよりも強い。デラーレも,手に片刃の長剣を持っている。そして,彼らは剣の刃を背に向けた。峰打ちさせるつもりだ。


 この模範試合は,殺し合いではない。


 最初に,レダーラがゴルージオに切りかかった。だが,それは軽くかわされた。彼女にとっては,間違いなく切り付けたと思ったのだ。しかし,それは残像のように消えたというのが正しい表現だ。ゴルージオは,躱し際に,レダーラの首に手加減して手刀を浴びせて気絶させた。


 ゴルージオは10倍速で動くことが可能だ。脅威の速度といえよう。わざわざ剣を繰り出して戦うまでもない。


 デラーレはレダーラが速攻で倒されたのみて,突進を止めた。ゴルージオとの距離4mのところで,攻撃体勢から防御体勢に変えた。デラーレはゴルージオの動きをみて,一瞬で悟った。


 われわれ3名の剣士がいくら頑張っても勝てる相手ではないと。


 魔法士らは,レダーラが一瞬で倒されたのをみて驚いた。No.1魔法士のカルーベラは,No.2のベローチェに,至急,重力魔法で千夏の行動を止めるように指示し,No.3のミルージェに,氷結魔法で攻撃するよう指示した。


 ベローチェとミルージェはすぐに行動に移った。重力魔法は起動する前に地表に魔法陣が出現する。このような戦いでは,重力魔法はよく使われる常套手段だ。


 ゴルージオの足元に重力魔法陣が起動した。その加重は5倍だ。100kgの体重なら500kgの体重になる計算だ。


 ゴルージオは,自分の体が5倍も重くなったのを感じた。その次の瞬間,氷結の矢が弧を描くように,剣士デミールを避けてゴルージオを襲った。


 ダダダダダダダーーーン!


 氷結の矢の攻撃は,身動きのとれないゴルージオを襲った。それと同時に,重力の影響を受けない微細な氷結がゴルージオの周囲を覆った。そのため,ゴルージオがどのような状態になっているのか目視できなかった。


 No.1魔法士カルーベラは,ゴルージオが氷結の矢に八つ裂きさされて,木っ端微塵になって死んだと思った。他の魔法士や観戦している生徒もそう思った。


 微細氷結がゆっくりと飛散していき,ゴルージオの姿がはっきりと見えた。


 氷結の矢によって,ゴルージオが着ていた服は,ところどころ破損していたが,彼は無傷だった。


 No.1魔法士カルーベラは,それを見て,『うそ!!ありえない!』と心の中で叫んだ。だって,彼はなんら魔法による防御結界を構築していないからだ。


 でも,今は,そんなことを考える余裕はない。重力魔法が効いている間に,次の攻撃をすべきだ。


 ダン!ダン!ダン!ダン!(ゴルージオの歩く音)


 ゴルージオは,4歩ほどゆっくり歩いて,重力が有効に効いている重力魔法陣から抜け出た。その歩く姿は,なんら重力の影響を受けていないようだった。


 No.1魔法士カルーベラだけではなく,No2のベローチェ,No3のミルージェでさえも,重力魔法陣の中を余裕で歩けるのをみて,あまりのショックに,ゴルージオに攻撃することを忘れてしまった。


 だって,重力魔法陣を受けてしまうと,どんな者であれ,立って歩くことなどできないからだ。出来たとしても,ゴルージオのように余裕で歩くことなど,絶対に不可能だ。


 実は,ゴルージオの体には,全身に魔力攻撃無効化結界が発動している。重力魔法でさえも,彼にはなんら効果はない。氷結の矢による攻撃であっても,魔法による結界がある限り,無効化されてしまう。


 それが,ゴルージオをして『最強』にさせている要因のひとつだ。つまり,魔法攻撃でゴルージオを倒すことは不可能に近い。


 ゴルージオは,魔法士や剣士たちが驚きのあまりポカンとしているのを見て,10倍速で移動して,自分の一番近くにいるNo.2剣士レダーラの首に手刀を加えて倒した。


 やっと我に返った魔法士たちは,現在の情報をNo.1魔法士カルーベラに報告した。


 No.2魔法士ベローチェ「カルーベラ!重力魔法陣がまったく効きません!!」

 No.3魔法士ミルージェ「カルーベラ!氷結の矢攻撃もだめですーー」

 No.1魔法士カルーベラ「では,ベローチェ!風魔法で,砂煙を巻き込んで,やつの視界を奪いなさい。ミルージェ!なんでもいいから,攻撃魔法を連弾しなさい。相手を休ませないで!」


 ベローチェとミルージェは,すぐに行動に移った。だが,その時だった。ゴルージオの体がピカーっと光った。


 その光は,まぶしくて,一瞬,皆,目をつぶってしまった。この行為は,実践なら確実に致命的だ。3秒ほどしてから,目を開けると,ゴルージオは,何も行動せずににそこにいた。ただ,少し氷結の矢を受けて,敗れた服装を気にしている様子だった。


 ゴルージオは光を放っただけだった。彼にとっては,これ以上,勝負をしてもあなたがたの負けですよという意思表示だった。だが,その意思は相手に伝わらなかった。


 いったい,あの光はなんだったのか,誰しも思った。だが,実際に模擬試合をしている剣士,魔法士にとっては,この目をつぶった3秒で,自分たちが殺されてもおかしくないことを悟った。


 この6名のチームで,一番の発言権のある者は,No.1魔法士のカルーベラだ。彼女は充分に理解した。この敵は,われわれの想像をはるかに超えると。


 カルーベラ「ベローチェ,ミルージェ!命令を取り消します。戦線から離脱しなさい!」


 ベローチェとミルージェは,その意味を即座に理解した。そして,戦線から離脱した。


 カルベーラは,自己最高奥義,最強の魔物,『虎箔獣』を召喚した。


 それは,体長3m,顔はタイガーそのものだが,体つきは,人間だ。皮膚は,背面がタイガーで,胸元だけが肌色だ。ほかはタイガーと同じ色彩をしている。


 だが,それだけではなかった。この虎箔獣は,No.1剣士バルミラをその体に取り込んだ。そして,バルミラと合体した『合体虎箔獣』は,剣士バルミラの能力を10倍にまで引き出せる。ただし1分までだ。だが,それだけあれば充分だ。


 まさに,究極の奥義!絶対勝利のための,必勝中の必勝の技だ。


 この勇姿を久しぶりに見て,終始機嫌が悪かった校長は,やっと,少し笑みを浮かべた。校長は,『これで勝つことができる。安心して,試合を眺めることができる』と内心安堵した。


 服装を気にしていたゴルージオは,強敵が出現したことを察知した。それと同時に,国王秘書から,ゴルージオに念押しのように『相手のプライドを傷つけないでくださいね。適当に,相手して,引き分けか負けるのもありですよ』と念話された。


 でも,ゴルージオは,敵の強さを瞬時に理解した。敵は強い!!


 このままでは負けてしまう。いや,それよりも,大事なゴーレムの体を壊してしまうことになる。千雪や帆船千雪号がいない以上,修復できるものはいない。


 負けてあげるにしても,体を傷つけない状況で負ける必要がある。ゴルージオは,ゴーレムの体に蓄えられた魔力の一部を解放した。


 ヒューーーー!!


 ゴルージオの周囲に膨大な魔力が溢れた。こうすることで,瞬時にどのような魔法陣も構築することが可能だ。


 この時,ひとりの生徒メルルが叫んだ。


 メルル「キャー!!!」


 彼女は特異な能力を持っていた。数少ない『オーラ』を見ることのできる生徒だ。それが見えるということは,体から放出される魔力も見ることも可能だ。


 彼女は,振るえる手で,ゴルージオを指さして言った。


 メルル「あのゴルージオさん,オーラが変わったわ。見たこともない膨大な魔力が放出されてるわ。とても人間が持てるような魔力じゃないわ!!」


 周囲の生徒はゴルージオを見た。


 生徒「それは,ほんとうか?」


 メルル「そうよ。最強の虎箔獣とバルミラさんが合体して10倍のパワーを発現したところで,焼石に水だわ」


 周囲の生徒は,このオーラが見えるメルルの言葉には,絶対の信頼があった。これまで彼女の予言はことごとく的を得たものだからだ。


 生徒「そうか,,,あのゴルージオというやつは,そんなに強いのか?」

 メルル「あのひと,なんか人間ではないようなオーラよ。これまで見たこともないわ」

 生徒「わかった。解説は後で聞く。試合の続きをみよう!」



 合体虎箔獣は,バルミラの持つ5倍速能力と合わせて,なんと50倍速もの速度で,長剣を蝶が舞うがごとく,華麗に操り,ゴルージオを切り裂こうとした。



 ゴルージオは,生前,魔法戦で必勝の方法を検討したことがある。その方法は発見できたものの,結局,SS級以上もの魔力を必要とするここと,自分は運が悪いことを知って,諦めた経緯がある。


 その方法とは,魔法無効化結界や物理無効化結界を意味のないものとし,かつ,何倍もの加速技を低減させるという,究極の防御技だ。


 ババババババーーーー!!

 

 ゴルージオの周囲にらせん状に渦巻いた膨大な魔力が,瞬時に無数の小さな爆裂を放った。それは,一定方向への爆裂だ。そして,それは,強烈ならせんの風刃となって,ゴルージオの周囲を渦巻いた。


 ピューーー!ピューーー!ピューーー!


 あまりに強烈なため,耳をつんざくかのような甲高い音を発した。


 この渦巻き流の範囲に入った合体虎箔獣の動きは,急激にその速度を低減させてしまい,10倍速にまで低下した。


 実をいうと,爆裂の数をさらに増やせば,敵の動きを完全に止めることも可能だ。もしくは,ゴルージオの加速能力を魔力によって,瞬発的に引き上げる方法もあった。


 だが,そのようなことはしなかった。国王秘書のアドバイスに従って,『優勢の状況で負ける』という選択をした。


 10倍速に低下したものの,合体虎箔獣の長剣は,ゴルージオを襲った。それは,ゴルージオの破れた服を切り裂いた。いや,破れた服を切り裂いてもらったと言ったほうが正解かもしれない。


 その攻撃を見て,ゴルージオは,長剣を避けるように,後方に数メートル激しく打たれたかのように,転倒して倒れた。


 それは,演技としてはお粗末なものだった。でも,ゴルージオも10倍速で動いているので,観戦者の目には『演技』には見えなかった。


 ゴルージオはすぐに叫んだ。


 ゴルージオ「参った。降参です!!」


 

 このゴルージオの言葉に,合体虎箔獣は,なんで勝ったのかよく分からなかった。


 でも,こんな勝ち方では納得しなかった。それに,試合を中止せよとの命令もない。


 合体琥珀獣は,まだ,合体してまだ10秒しか経過していない。残り50秒もある。


 合体琥珀獣は,試合を継続することに決めた。自分が納得する勝ちがほしかった。彼はゴルージオを斬りつけるべく動いた。


 シュパー!シューパー!!


 彼は,倒れたゴルージオに向かって,長剣を振るった。


 ババババババーーーー!!(爆裂の音)

 

 倒れたゴルージオではあったが,彼の周囲には依然としてらせん状に渦巻いた膨大な魔力があった。そして,再び無数の爆裂を放ち,超強烈ならせん風刃が合体琥珀獣を襲った。


 ドドドーーー!!(風刃が合体琥珀獣にヒットする音)


 合体琥珀獣も,物理無効化結界を構築していて,風刃を無効化できるとはいえ,強烈な風刃による風圧には逆らうことができなかった。


 この風圧こそ,どんな結界であれ,現在知られている魔法体系では回避することは不可能だ。


 合体琥珀獣の長剣は,空を何度も舞ったが,倒れているゴルージオにヒットすることはなかった。


 依然として,彼の周囲に超強烈ならせん風刃が吹き荒れていた。

 

 琥珀獣が合体を維持できるまで,あと,10秒という時,閃光が一瞬光った。それは,わずか2秒間で収まった。合体琥珀獣は,閃光が収まったので,再び長剣をゴルージオに放った。


 シュパーーー!!


 その長剣はゴルージオを一刀両断した。それを見た校長ゴルージオが死んだと錯覚して,すぐに試合を中止させた。


 校長「そこまで!!合体琥珀獣の勝ちーーー!!!」


 その後,合体状態が解放されて,No.1剣士バルミラが,地にひざまずいていた。精根尽きた状態だった。琥珀獣も召喚から解放されて消滅した。


 一刀両断されたはずのゴルージオは,まったくの無傷だった。彼はゆっくりと起き上がって,らせん風刃を解いた。


 ゴルージオは校長に声をかけた。


 ゴルージオ「この模範試合はわたしの負けです。一刀両断されてしまいました。ふふふ。予想以上に,選手たちは高い戦闘能力をお持ちでした。感銘いたしました」


 この試合,誰がどうみても,ゴルージオが圧倒的に優勢だった。どうして,一刀両断されたゴルージオが無傷なの?


 考えられるのは,幻影魔法を使われた可能性がある。だが,幻影魔法はこの魔界では実用的に使われた実績はない。


 校長「いやー,こちらこそ,いい模範試合を見せていただきました。われわれは,まだまだレベルアップが必要だと,痛感させられました。いい勉強をさせていただきました」


 校長は一刀両断されたことについては質問しなかった。あとでバルミラに聞けばいいからだ。

 

 ゴルージオ「いえ,こちらこそ,これまでの失礼な発言をお許しください。これからは,いっそう友好関係を築いていきたいと思っています」


 校長はそう言われてニコニコ顔で返答した。


 校長「いや,,,でも,ゴルージオさんは,聞きしに勝る戦士ですね。その圧倒的な強さ,さらに,われわれに勝ちを譲ってくれたその度量の大きなにも感服しました。ゴルージオさんが,これから新しく創る親衛隊の指導者であれば,わたくしとしても,指名された40名の親衛隊候補者を安心して任せられます。彼女らには,今日中に荷物をまとめてもらって,急ぎ王宮に出頭するようにいたします」


 国王秘書「校長,そうしていただけると助かります。すでにご存じと思いますが,こちらが転移先の座標点です。40名の生徒だけで結構です。校長や教師が付き添う必要はありません」


 国王秘書は,座標点を示した紙を校長に渡した。


 それを受け取った校長は軽く頷いた。


 校長「わかりました。生徒のみで転移させるよういにします。今回は,模範試合を引き受けていただいて本当にありがとうございました。生徒にも大変よい刺激になったと思います。では,われわれはこれで失礼いたします」


 校長は,全校生徒に向かって指示した。


 校長「これで,模範試合を終了します。今回の模範試合では,われわれが勝利を収めましたが,でも,もし,ゴルージオさんが本気になれば,とてもわれわれでは歯が立たなかったでしょう。われわれは,まだまだ井の中の蛙だと知らされたと思います。これを契機によりいっそう訓練に,かつ,レベルアップに励んでください。


 最後に,この模範試合を引き受けていただいた,ゴルージオさんに改めて感謝したいと思います。皆さん,拍手で感謝の意を現わしてください」


 全校生徒が惜しみない拍手をゴルージオに贈った。彼にとって拍手を贈られるのは初めての経験だ。『照れる』という感覚を初めて味わった。


 ゴルージオは一歩前に出て,全校生徒に一言語った。


 ゴルージオ「皆さん,感謝の拍手,ありがとうございます。こんなに拍手されるのは初めてで照れてしまいます。私たちは,これから王宮に戻ります。ですが,最後に皆さんに私からささやかな祝福を贈りたいと思います。受け取ってください」


 ゴルージオはメリー女帝の宣誓式で,精霊が祝福を贈ったのを思い出した。あの魔法自体は難しいものではない。一匹や2匹の蝶を制御するのは初級魔法でもできる。だが,何百となると話は違う。SS級以上の膨大な魔力が必要だ。でも,ゴーレムの体内には膨大な魔力が十分にある。


 ゴルージオは,野外訓練場の上空に直径30メートルにもなる広大な魔法陣を構築した。そして,その魔法陣から無数の7色に輝く蝶を出現させた。


 その蝶は,1人1人の生徒のところに,確実に飛んでいった。


 「キャー!!美しい蝶!素敵ーーー」

 「なんと,こんな大規模な魔法陣まで構築できるか?いったい,どれだけ強いのだ??」

 「こんな魔法が使えるなら,われわれ全校生徒が束になっても,ゴルージオさん1人に対抗できないわ」


 などなど,賞賛の声が溢れた。


 確かにその魔法制御力は,とんでもないほどのレベルだ。SS級の何倍もの制御力を要するものだ。


 国王秘書は精霊の祝福を見ている。今回のゴルージオの祝福の魔法力はその精霊が行った緻密な制御力に匹敵するのではないかと感じた。


 国王秘書『さすがは千雪さんのお弟子さんね。とんでもないパワーを秘めているわ。もしかしたら,千雪さんよりも強いのかしらとも一瞬思った。でも,やはり,千雪さんの方がもっと強いはずだ』と考え直した。


 ゴルージオ「トレニアさん,では,そろそろ戻りましょうか?」

 国王秘書「そうですね。校長,今回は,急な訪問で申し訳ありませんでした。それにもかかわず,われわれの無理な要望を引き受けていただき,誠にありがとうございました。われわれも,学校運営には,全面的に協力させていただきますので,なんなりとご要望をわれわれにあげてください。では,これで失礼します」

 校長「いえいえ,どういたしまして。こちらこそ何もおもてなしもできず,申し訳ありませんでした。どうぞ,気を付けてお戻りください」


 国王秘書とゴルージオは,訓練学校に設置された転移ゲートを使って王宮に戻った。


 校長は,全校生徒に散会を伝えた。そして,いまだに呼吸を整えているNo.1剣士バルミラのそばに移動した。


 校長「バルミラ,ご苦労だった。最後はゴルージオさんを一刀両断したと思ったのだが,見間違いだったのか??」

 バルミラ「いえ,見間違いではありません。確実に一刀両断しました。ですが,まったく血も出ず,かつ,その時,ゴルージオさんは,服が切られるのを避けて,お腹を少し出していました。どうぞ,お腹を切ってください,と言わんばかりでした。もしかしたら,ゴルージオさんの複製体を創る,特別な魔法だったのかもしれません」


 バルミラの後ろで,それを聞いていたNo.1魔法士カルーベラは横から口を挟んだ。

 カルーベラ「膨大な魔力を発するような複製体を創ることはまずあり得ません。考えられるとすれば,私が契約獣で琥珀獣を召喚したように,変身可能な契約獣を召喚した可能性があります。あの強烈な光は,契約獣を出現させるのをカモフラージュするためだったと思います」


 校長は,溜息をついた。


 校長「そうか。この獣人国,最高の魔法士と剣士のペアでも,ゴルージオさん1人に勝てないのか。彼の強さはほんものだな。だが,これでよくわかった,どうして,メリー女帝が何のごたごたもなく,新し国王になれたかだ。ゴルージオさんは化け物レベルの戦士だ。さらに,ゴルージオさんのバックには千雪さんという,これまたとんでもない化け物もいる。あの人たちがメリーさんを国王に推薦したのなら,もう誰も反対はできまい」


 No.2魔法士のベローチェも口を挟んだ。


 ベローチェ「正直,私もびっくりしました。私の強力な重力魔法がぜんぜん効果ないんです。魔法無効化結界を周囲に展開したような形跡もありませんでした。どうも,ゴルージオさんのバックには,何か強大な魔法研究の組織があるんじゃないでしょうか?」

校長「そうか,,,,われわれは,ほんとうに井の中の蛙だったのかもしれん」


 そんな会話をしている時,オーラを目視できるメルルが校長のもとにやってきた。


 メルル「校長,ちょっといいですか?」

 校長「ああ,メルルか。ちょうどいいところに来た。メルルの眼から見て,あの光ったあとのゴルージオさんは,いったい誰だと思う?」


 メルル「はい,そのことについて話たいと思っていました。光った後のゴルージオさんは,『ゴルージオ』さんはありませんでした。オーラが違っていました。というよりもオーラがありませんでした。召喚獣でもありません。何か,魔法によって,表面的な体だけ創られたようなものだと思います。


 それに,もともとのゴルージオさんは,地に這っていて螺旋風刃のホコリの中に隠れていました。


 それと,あのゴルージオさんは魔力が膨大にありすぎます。もう,人間のレベルでは到達できない化け物レベルです。合体琥珀獣の魔力を10すれば,あのゴルージオさんは100以上です。この国の魔法士全員が束になっても勝てないレベルです」


 校長は,その言葉を聞いて,ふと,第1王子の居城で第1王子を殺したのが『ゴルージオ』という名前であることを思い出した。


 校長「そうか,,,今,やっと思い出した。例の第1王子の居城での事件だ。第1王子は,魔法国の戦士に一刀両断されたということだ。その戦士の名前が,確か『ゴルージオ』だったはずだ。なんで,思い出さなかったんだろう。一見して,強さを感じなかったらかもしれん」


 校長はくやしさと悲しさを滲ませて,言葉を続けた。


 校長「メルル,教えてくれてありがとう。やはり,カルーベラの予想は正しかったようだな。最初に,No.2剣士レダーラがいとも簡単に素手で倒されたのは,どうも納得ができない。何か,特殊な加速魔法でもしていたのか?」


 メルル「いえ,あの時もゴルージオさんは,なんら魔法を発動していませんでした。それなのに,あの動きができるのです。もう,私もびっくりしました!!」


 No.2とNo.3の剣士レダーラとデラーレは,気絶して倒れていたが,魔法士のベローチェとミルージェに回復魔法を掛けられて,意識を取り戻したところだ。


 校長「レダーラ,デラーレ,ご苦労だった。気絶させられたが,ゴルージオさんの強さが知れてよかった。ゆっくり休みなさい」


 レダーラ「はい,ありがとうございます。大変,みっともないところを見せてしまい申し訳ありません。ですが,あのゴルージオさんは,とんでもない化け物です。全力の私の6倍速の加速でも,まったく歯が立ちませんでした。たぶん,ゴルージオさんはすでに自然体でも,10速以上の加速を使えるのではないでしょうか?」


 デラーレ「私もそう思います。私は魔法の加速は使えませんが,5倍速で速度で動くことができます。それでも,ゴルージオさんの動きにまったく追いつけませんでした」


 校長「重ね重ね,ゴルージオさんは,規格外の能力保持者のようだな。まあいい。皆,今日はほんとうにご苦労だった。今日と明日の両日,ゆっくりと休みなさい。だが,休み開けは,われわれのさらなる強化対策を考えたい。明後日に,再度,ゴルージオさんの強さを分析して,われわれが強化できる点がないかを検討することにしたい。では,散会としよう」


 生徒らが去った後,校長は,急ぎ,ゴルージオの強さについて,第一王子の衛兵隊長に魔力通信装置で連絡した。衛兵隊長は,すぐにその情報を副衛兵隊長に流した。副衛兵隊長は,さらに,霊媒師にその情報を流した。その霊媒師は自分の仲間にその情報を共有した。情報共有を徹底した。


 霊媒師は,副隊長からなんら明確な指示を受けてはいない。ただ,その霊媒師は合同慰霊祭の謝礼として,膨大な金額をもらった。そして副隊長の意味するところは,明確だった。


 ゴルージオとメリー女帝を殺害することだ。



 ー-----

 霊媒師が頼りとするグループのトップは,第1王子の慰霊祭が開催される地域で裏社会を牛耳っているゲルゲ組のリーダーであるゲルゲだ。獣人国で独特の発展をした暗黒魔法を継承するSS級魔法士だ。仲間内では忍びの魔法とも言われており,暗闇でその効果を発揮する。


 そのため暗殺に向く。特に,夜間の長距離爆裂弾魔法の命中精度は100発100中だ。それもそのはずだ。標的となるターゲットに事前に近づいて,その相手に,目標となる不可視の標的魔法陣を設置させるからだ。その魔法陣を設置するのは,子供か若い女性の仕事だ。警戒心が薄れるから容易に設置されてしまう。その設置場所は背中だ。まず設置されたことに気づかれることはない。


 強いて欠点を挙げるとすれば,これまでは,あまりにも容易に成功したので,改良・改善という努力をほとんどしてこなかったことだ。


 だが,今度のターゲットはまったく異なる。メリー女帝とゴルージオだ。


 ゲルゲは自分の家で,愛人のメレブとモルジを相談相手にして,綿密なプランを立案していた。


 ゲルゲ「今入った情報だが,ゴルージオは,相当やばい化け物のようだ。第一訓練学校の剣士,魔法士のトップ3の6名を一緒に戦わせて,勝利した」

 メレブ「えーーー???それはやばいわ。私たちじゃあ,どうあがいても勝てないわよ」

 モルジ「まだ,死にたくないよーー。やめようよ。相手は新しい女帝よーー。警備も半端じゃないわよ」

 ゲルゲ「もうお金をたんまりもらっているからな。今さらトンずらすることもできない。しかし,仮に失敗しても,われわれの仕業だと間違っても気づかれないようにすることが大事だ。だから,われわれの痕跡は,一切残すな」


 メレブ「長距離爆裂弾魔法を使うと,すぐにゲルゲの仕業だってバレてしまうわ。得意技が使えない訳ね」

モルジ「女帝の護衛として,有名なアイラとリブレもいるわ。彼女らがいる以上,われわれの手の内は知り尽くしているわよ。当然,長距離爆裂弾魔法のことも知っているわ」


 ゲルゲ「だから,今,こうして計画を煉っているんだ。アイラとリブレは,SS級魔法士だが,化け物レベルではない。戦わないにこしたことはないが,仮に交戦したとしても,充分に逃げ切ることは可能だ。だが,ゴルージオは別のようだ。化け物からは逃げきれない」

 モルジ「もう,これ,無理筋よ。ゲルゲがいくら暗黒魔法を使えるからって,相手が悪すぎるわ。私たちの魔法のレベルも,たかだか上級レベルよ。ぜんぜん歯がたたないわよ」


 ゲルゲ「普通に考えればその結論になる。だが,普通に考えなければいい。われわれの仕事は,メリー女帝とゴルージオを暗殺できれば理想だが,それは無理なようだ。ならば,その暗殺は霊媒師に任せて,われわれは,マリア,アイラ,リブレと赤ちゃんを,女帝から引き離すことに集中する。


 それなら,なんとかなるだろう? 最後の仕上げは霊媒師が行う。かわいそうだが,霊媒師は成功しても失敗しても死ぬだろう」


 モルジ「そうね。アイラたちを女帝から引き離すだけなら,やりようがあるかもね」

 メレブ「赤ちゃんは1歳にも満たないのでしょう?まず,赤ちゃんが興味を引くものを探しましょうよ」

 モルジ「そして,赤ちゃんにケガをさせればいいのね?」

 メレブ「かつ,回復魔法でも,簡単に治らないやつね。薬草か治療薬を探す時間を稼げるわ」


 ゲルゲ「よし,メレブとモルジは,その線でプランを練り上げなさい。私は,他の連中と,衛兵隊の排斥方法を検討する」


 ゲルゲは,ゲルゲ組の事務所に転移した。4階建ての建物すべてが,ゲルゲ組の持ち物だ。この建物の裏には訓練場がある。組員らは普段はここで剣技,暗黒魔法の修練を積んでいる。そのレベルは決して王宮の衛兵隊にも引けを取らない。暗黒魔法に慣れていない衛兵隊なら,圧倒的に組員の方に分がある。


 アイラとリブレは,暗黒魔法の対策チームのメンバーでもあったため,暗黒魔法にも精通している。組員側も王宮の誰が暗黒魔法に対応できているかという情報を常に把握している。


 己を知り,敵を知れば百戦危うからず,まさに名言だ。


 ゲルゲは,精鋭組員を呼んで対策会議を開いた。メリー女帝らは,慰霊祭の会場に行く途中で,K村に一泊する。ここで,衛兵隊を活動不能にするのが目的だ。




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