第14話 精霊バーベナ
一方,国王秘書は,千雪さんと相談して,メリー女帝候補とその護衛としてアイラとリブレをつれて,王族と貴族を廻ることになった。
国王から推薦されて,前国王の娘であるメリーが女帝になることは,意外にも反対はなかった。だが,ある貴族は,正直に聞いてきた。
某貴族「ところで,本当のところ,今回の国王交代の舞台裏は,何が原因なのですか?」
国王秘書「精霊の指輪の正当な所有者が,メリーさんということです。メリーさんとその母親が,この指輪を10年以上も守りぬいたのです。女王祭をまじかに控えて,精霊の指輪の所有者を次期国王,つまりメリーさんを女帝にしたというのが正直なところでしょう。それに,メリーさんは,前国王の娘さんです。次期女帝としての資格は充分にあります」
某貴族「私がお聞きしたいのは,舞台裏の事情です。他には漏らしませんから,ヒントでももらえればありがたいのですが」
アイラ「まあ,簡単に言うと,メリーさんに,強者がついたっていうことからしら?」
某貴族「ほう,強者ですか?して,どれだけの強者ですか?」
アイラは,ゴーレムの体を手に入れたゴルージオを想定して言葉を発した。
アイラ「そうね,,,剣の腕は,もしかしたら,この魔大陸随一ではないでしょうか? それに,強靱な体を手に入れています」
某貴族「なるほど,,,でも,それだけとも思えませんね。あの第一王子の居城での事件が関係しているのではありませんか?」
国王秘書「そこまで把握しているのであれば,もう説明する必要もないでしょう。そうです。100名ほどの魔法士団が全滅させられました。圧倒的な戦力の差があります。メリーさんが女帝になれば,われわれも,そして相手側も納得するのです」
某貴族「相手側って,魔法国の教祖さんですね?2代目の千雪さんですね?」
国王秘書は返答せず,ただ,頭を軽く下げた。
国王秘書「話し合いは,ここまでにしましょう。これから,メリー女帝を支持していただき,この国の発展のために尽力してくださるようお願い申し上げます」
某貴族「はい。わかりました。全力で支持いたします」
某貴族にとって,もう,反抗できない状況だと十分に理解した。
ーーー
千雪たちが獣人国に来てから2週間が経過した。
今日は,メリー女帝の宣誓式があり,その後,指輪の複製体を人化する儀式がある。人化するのに,儀式は必要ないのだが,メリー女帝としての格付けをするための一環だ。そして,最後の絞めとして,精霊様と千雪たちを精霊国に旅立たたせることだ。
王宮の神殿で,メリー女帝が,獣人国で信じている神,獣人神に,女帝とすることを報告するだけの簡単な儀式だ。だが,その席上,クーデターで政権をとった国王の親族,貴族たち全員が参列した。その数,およそ200名にもなる。実質,この獣人国は,彼らが市井を治めている。その他,衛兵隊員500名も参列した。
メリー側も,全員参加した。千雪,マリア,茜の3名だ。彼女らは,それぞれ赤ちゃんを抱いている。千雪と茜は,自分の赤ちゃんを抱いていて,マリアはメリー女帝の赤ちゃんを抱いていた。
アイラ,リブレ,そしてゴルージオの3名は,メリー女帝の側に仕えているので,メリー側の場所にはいない。
セレモニーの進行役は,国王秘書トレニアだ。
国王秘書「では,ただいまから,新しい国王になられます,メリー女帝の宣誓式を行います。では,メリー女帝,獣人神への宣誓の言葉をお願いします」
メリー女帝は,獣人神を祭ってある祭壇への階段を上がった。そして,参列者に向かって一礼し,向きを変えて,獣人神に向かって,深々と一礼した。
そして,おもむろに宣誓の言葉を発した。
メリー「わたくし,メリーは,第5代国王として,知恵を身につけ,節制に励み,勇気と正義の気概をもって,善良に正しく生き,獣人神の偉大なる善と正義を,この獣人国の民に実現する責を負うことを,ここに誓います。獣人歴132年11月21日,第5代国王,メリー」
メリーは,獣人神に最上の敬礼を行った。そして,参列者側に向いて,大きな声で女帝としての初めての発言を行た。
メリー「たった今,わたくしメリーは,第5代国王として宣誓をしました。今から,わたくしがこの国の女帝になります。
ですが,わたくしに敵対しようという考えのものがいるかもしれません。そのものは,こそこそせずに堂々と,自分の主張を述べてください。主張を戦わせるのは,反逆ではありません。よりよい結論になるように議論を戦わせましょう。
わたくしが女帝となった以上,この国をもっともっと発展させていきます。そして,わたくしの統治時代に,かならずや,魔法国を攻めて,かの国を属国にしてみせましょう。
また,今,わたしの友人が,北方未開地を占領しに行っています。今後,北方未開地の状況がわかるようになれば,その国とも交易を始めて,国力を増強していきます。この獣人国が,魔大陸の覇者たるには,どうあるべきかを,このわたくしが実現してみせましょう。
皆のもの!!
わたくしについて来なさい。面白い世界を,豊かな世界を,そして繁栄した世界を見せてあげましょう。」
オオー!!
ワォーー!!
いいぞー-!!
参列者から,歓喜の声が上がった。新しい女帝が,このように明確に獣人国としての方針を明示したのは,始めてだったからだ。
ある参列者は,隣の友人にひそひそ話をした。
参列者A「今度の女帝は,はっきりと方針を出してくれたな。これならやりがいがあるというものだ」
参列者B「ありがたい。前国王は,富国強兵を唱えても,明確な目標を持ていなかったしな。ほとんど,第1王子に丸投げした恰好になっていたな」
参列者A「それに,女帝の友人が,北方未開発地を占領しに行っているって,簡単に言ったよな。いったい,どうやったらそんなことができるんだ?」
参列者B「さあ??さっぱりわからん。だいたい,北方未開拓地って,島流しの土地だろう?転移魔法も使えず,飛行魔法でも行くことができないらしいぜ。仮りに占領できても,交易がうまくできれるとは思えん」
参列者A「でも,おれは,今の女帝を応援するぜ。一緒に面白い世界を見たくなったぜ」
参列者B「ああ,俺もだ。面白い世界,,,どんなんだろなぁ??」
メリー女帝の演説は好意的に受けとられ,獣人国の民に,やる気,勇気,気概心が湧き出るようだった。
メリーは,階段を降りて,国王秘書トレニアのところに戻った。国王秘書は,メリーに,よくできましたとメリーの耳元でささやいた。そして,次の式典に移った。
国王秘書「では,次の式典に移ります。精霊の宿す指輪が,やっと人間に変身する時が来ました。新しく国王になったメリー女帝に,その進行をお願いしたいと思います。メリー女帝,よろしくお願いします」
メリー「わかりました。すいませんが,精霊様の服装を準備してもらえますか?それとつい立てを準備してもらえますか?裸を見せることはできませんので」
国王秘書は,男性用と女性用の服を用意させた。精霊様の性別がわからないためだ。つい立ては,4枚の折り畳み式のものが用意された。折り畳み部分に隙間があるため,そこから,かすかにどのような様子かを伺い知ることができる。
メリーは,マリアから譲り受けた精霊の指輪が,どのような能力を持っているのかは知らない。でも,それが『静寂の指輪』と呼ばれていることは知っていた。
メリー「服装もつい立ても準備できましたね。では,指輪にお願いしてみます」
メリーは,ちょっと緊張した。指輪に向かってお願いしたことは,これまでまったくなかったからだ。逆に,指輪から何んらかの恩恵を受けたことも特になかった。果たして,メリーのお願いを聞いてくれるのか,少々不安だった。
メリー「静寂の指輪さん。いつもわたしを見守ってもらって,ありがとうございます。精霊を宿した指輪を持っているということで,わたくは,女帝になれました。重ねて,お礼をお申し上げます。
ところで,もう,精霊国で女王祭が始まる時期です。静寂の指輪さん,どうか,人間の姿に変身してください。そして,皆さんの前に,その姿を現わしてください」
メリーのはめている指輪は複製体の方だ。複製体が人の形に変身する。本体の指輪は,マリアのしている収納指輪の亜空間領域の中で厳重に管理されている。
静寂の指輪は,メリーのお願いを聞き入れた。ここ,1,2日のうちに人化しなければならないのだ。それなら,服装も準備している今がちょうどいいタイミングだ。
静寂の指輪から,強い光が放たれた。その光はつい立てに遮られたが,参列者には,その光の強さが充分にわかった。
メリーは,あまりのまぶしさに,指輪をしていない右手で,自分の両目を覆った。光が止んだので,目を覆っている手の平の指を広げて,目を少し開けると,自分の目の前に,やや童顔ぎみでメイド服がよく似合いそうな美しい全裸の女性が立っていた。その女性は,メリーに声をかけた。
精霊「あの,,,メリーさん? すいませんけど,ここにある女性用の服を着ていいですか?」
その声は,なんとも超かわいい可憐な乙女が発するような声だった。メリーは,慌てて返事した。
メリー「あ,はい,はい,どうぞ,どうぞ。着てください。あなたは,静寂の指輪さんですね?」
人化した精霊は下着を身につけた後,かわいいフリルの付いたワンピースを着はじめた。参列者側からはつい立てがあって,人化した精霊を見ることはできなかった。だが,最前列の参列者は衝立の隙間からかすかに裸体の一部分を辛うじて見えた。
最前列の参列者A「あ!少し見えた。女性のようだ。裸で現れたみたいだ」
最前列の参列者B「私にも見えた。黒髪が背中全体を覆っているようだ」
最前列の参列者C「私の位置からだと,胸の大きさがはっきりとわかる。Dカップの美しい胸だ」
最前列の参列者A「ちぇっ!いいなあ,見れて。精霊様の胸が見れるなんて。私も拝みたかったなあ」
などなど,好き勝手なことを言っていた。
国王秘書トレニアはそんな会話を耳にして,彼らに注意した。
国王秘書「少し,私語が多いようです。もう少し,辛抱ください」
最前列の参列者たちはシュンとして俯いてしまった。
服を着終わった精霊は,メリーの「あなたは静寂の指輪ですか?」という質問に答えた。
精霊「はい,以前はそのように言われていました。でも,私には,バーベナという名前があります。誰も覚えてくれていませんでしたが」
メリー「バーベナさん,,,ですか。よい名前ですね。ところで,バーベナ様,今,多くの参列者が来ています。皆さんの前に出ていただいて,何か一言,お話をしていただいてよろしいでしょうか?」
バーベナ「そうですね,せっかくの機会ですから,そうさせていただきましょうか」
精霊のバーベナは,つい立てを迂回して,皆の前に姿を現わした。
参列者たちは,始めて,精霊をまじかに見た。
オオオオオオーーー,
「精霊様だ。初めて見た。なんて,神々しいのだ」
「うわーー,なんて美しいの。メリー女帝も美しいけど,それ以上だわ」
「いやいや,美しさでは,あの傍らにいる2代目の教祖の方が上だぜ」
「私は,精霊様の方が上だと思う」
「でも,見て。あの教祖の隣で,子守している女性もごっつい美人だぜ。まるで,美人コンテストのようだ」
などなど,あたかも美人コンテストをしている雰囲気になった。
国王秘書は,いったん,参列者全員を静粛させた。
国王秘書「皆さん。初めて精霊様を見るのですから,ざわつくのも分かります。ですが,今から,精霊様からお言葉を頂戴します。どうぞ,静粛にしてください。お願いします」
国王秘書のこの言葉に,この会場は急に静まり返った。
シーーーーン!
静寂が戻ったところで,精霊のバーベナは,ゆっくりと話始めた。
バーベナ「皆さん。初めまして。私は,メリー女帝がはめていた指輪から変身してこのような女性の姿になりました。皆さんは,わたくしの人化した姿を見るのは初めてだと思います。というのも,以前,人化したのは,かれこれ30年も前のことですから」
「ワォーー-!!」
「30年に一度の奇跡に出会えるなんて,なんと光栄なことか!!」
一部の聴衆からこんな小言が聞こえたが,すぐに周囲の者たちから静かにしなさいと注意を受けて,すぐに静かになった。
バーベナ「すでにご存じのように,私は精霊として,この獣人国で皆さまの信仰を受けて,その信仰のパワーを蓄積して,精霊国の女王祭に臨みたかったのです。
ですが,私は訳あって,別の世界ですばらく時を過ごしました。皆さまの信仰のパワーは,あまり受けることができませんでした。でも,それはしかたのないことです。時とともに,精霊という存在があることすら,知らない民ばかりになってしまいました。
別に,あなた方をせめているのではありません。隣の魔法国も,同じような状況のようです。それは,私たちにも原因があります。私たちは,もっと積極的に,精霊の存在をアピールする必要があったのです。ですが,私は,恥ずかしがり屋で,自分をうまくアピールすることができません。
でも,メリー女帝を信じ,メリー女帝に忠節を尽くていただければ,その思いは,メリー女帝を通じて,わたしに流れます。その思いは,わたしに力を与えてくれます。わたしが力を得ることができれば,この国のために,より多くの祝福と奇跡を与えることができるようになるでしょう。
干ばつで農作物が危機的な状況な時には,広範囲に雨を降らせることもできるでしょう。洪水が起こりそうな時には,事前に,災害を未然に防ぐ手立ても可能でしょう。
しかし,今は,そんな祝福と奇跡を起こすパワーはありません。
でも,でも,これからは違います。どうか,一人でも多くメリー女帝を信じてください。彼女と共に歩んでください。支えてください。そうすれば,私もメリー女帝から皆さまからのパワーを得て,奇跡のパワーを発揮できるようになります。
もし,魔法国と戦争になるようなことがあっても,私に,祝福と奇跡のパワーがあれば,決して魔法国の,信仰をなくしている精霊の指輪たちに負けることはありません」
精霊のバーベナは一息いれてから最後の締めを語った。
バーベナ「私のいいたいことは,以上です。そろそろ,私は,精霊国に行くことにします。残念ですが,私には,精霊国に行くだけのパワーがありません」
ここで,精霊のバーベナは,体を千雪のいる方に向けて言った。
バーベナ「千雪さん。あなたも,精霊国にいくのでしょう?すいませんが,精霊国への水先案内は私がさせていただきますので,ご一緒させていただけませんか?」
このお願いに千雪に断る理由などない。
千雪「それはいいのですが,女王祭まで2週間ほど先です。早めに行っていいのですか?」
バーベナ「はい。大丈夫です。早めに行けば,精霊国の状況など事前によく理解できると思います」
千雪「わかりました。わたしは,いつでも出発する準備はできていますので,問題ありません」
千雪と精霊との会話内容が,細かい内容になるのをみて,国王秘書は,ここで話を止めた。
国王秘書「千雪さん,細かな話は,後でしていただけますか?まだ,式の途中ですから」
千雪「あ,ごめんなさい。どうぞ,式を続けてください」
国王秘書「では,メリー女帝,精霊様が千雪さんと一緒に精霊国に旅立ちます。どうぞ,見送りの言葉をかけてください」
メリーは,宣誓式が終わって,指輪の複製体を人化する儀式もうまく成功したので,ホットした。
後は,うまく,精霊様と千雪達を旅立たせるだけだ。
メリー「皆さん,精霊様は,今から,千雪さんたちと一緒に精霊国に行かれます。なごり惜しいのですが,精霊様が,女王祭で,素晴らしい成績を収めることができるよう,エールを送りたいと思います。皆さん,ご唱和ください」
メリーは,一段と大きな声で言った。
メリー「精霊さまーー!!」
参列者は,その言葉の後について,同じく,大きな声でメリーの言葉を繰り返した。
参列者全員「精霊さまーー!!」
メリー「精霊国の女王祭ではー」
参列者全員「精霊国の女王祭ではー」
メリー「精霊さまは,全力を出して,有終の美を飾ることを期待していますー」
参列者全員「精霊さまは,全力を出して,有終の美を飾ることを期待していますー」
メリーは,大きく,両手を広げて,さらに高らかに声を張り上げた。
メリー「フレーーーー,フレーーーー,精霊さま!フレー,フレ,精霊さま!フレーーーー,精霊さま!」
参列者全員「フレーーーー,フレーーーー,精霊さま!,フレ,フレ,精霊さま!,フレーーーー,フレーーーー,精霊さま!」
精霊は,こんな風にして,エールを贈られるとは思ってもみなかった。とても感激した。
バーベナ「皆さん,ほんとうに,ありがとうございます。とても嬉しいです。こんなうれしいことは,もう何千年ぶりかもしれません。なんだか,パワーが漲ってみました」
精霊バーベナは,一歩前に出て,大きく手を広げて,天を仰いだ。すると,天空に巨大な魔法陣が現れた。その魔法陣から,しとしとと,ビー玉くらいの大きな雪がゆっくりと降ってきて,参列者をびっくりさせた。今は,11月が雪が降るほど寒くはないので,皆,驚きだった。
参列者「おおお,雪だ!それも,大きなボタン雪だ!」
参列者「うわーー!少し,涼しくなった。気持ちいいーー!」
参列者「なんか,幸せな気分になってきたわ!」
バーベナは,参列者が一様に,突然の雪に驚いたのを見て,言った。
バーベナ「皆さん,この雪は,普通の雪ではありません。祝福の雪です。これから,皆さんは,少なくとも,ここ1週間の間,いいことがあるでしょう」
「ありがとうございます。精霊さま。どうか,女王祭で,ご武運をお祈りしております」
「私もそう思います」
「私もー-」
参列者は,このような言葉をはいたが,実のところ,女王祭とは,そもそも何なのかさえ,まったく分かっていなかった。
バーベナ「こちらこそ,ありがとうございます。皆さんから,多くのエール,元気をもらいました。これで,女王祭でも,全力を出せる気がします。では,皆さん,私は,千雪さんたちと出発することにします」
バーベナは,千雪に向かって言った。
バーベナ「千雪さん。私は,出発の準備が整いました。いつでも出発できます」
千雪「わかりました。では,出発いたしましょう。いまから,帆船千雪号を出します」
千雪は,赤ちゃんを抱いたまま,風魔法でゆっくりと上空に舞い上がった。上空20メートルほど上がったところで,停止した。そして,指輪を触って,亜空間領域を広げ,帆船千雪号をゆっくりと出現させた。
ゴゴゴゴゴゴゴーーー!!
「あれは,なんだ?」
「鳥だ!」
「船だ!」
「いや,空飛ぶ船だ!」
「船でも,帆があるぞ!帆船だ!」
「じゃあ,空飛ぶ帆船だ!」
ややしばらくして,帆船千雪号は,完全に姿を見せた。千雪は,ゆっくりと地上に降りた。
千雪は,メリー女帝に最後の分かれの言葉を言った。
千雪「出発する準備が整いました。龍子,メリー女帝になったのね。後は,よろしくね。まだ,政権が安定しないから,気を付けなさい。そして,マリア,龍子をよろしくね。アイラもリブレもいるし,ゴーレムのゴルージオもいるわ。あなたの安全は大丈夫だと思うけど,信頼できる自分の親衛隊を創っていきなさいね。では頑張って」
メリー女帝は,ここに来て,涙が少しこぼれた。疫病神の千雪が去るのは嬉しいことなのだが,でも,後ろ盾がいなくなるのは,やっぱり寂しかった。
メリー「千雪お姉さま,いろいろとありがとう。できるだけ早く,信頼できる親衛隊を組織するわ。千雪さん,精霊国に行っても私たちのこと見捨てないでね。たまには,遊びに来てね」
千雪「わかったわ。では,出発するね」
千雪は,人化した精霊さまに声をかけた。
千雪「精霊さま,転移で,あの帆船千雪号に移動します。茜の横に来てくださいますか?」
バーベナ「わかりました。よろしくお願いします」
バーベナは茜の横に並んだ。左から,千雪,茜,バーベナの3名が一列になった。
参列者は,何度目かの,感嘆の声を上げた。
オオオオー!!
「なんと,見事な!! まるで超美人3姉妹だな」
「うーーわ。これは,すべての女性を敵にまわすな」
「もっと,そばで見てみたいよーー」
参列者たちの浮ついた声が騒がしくなったころ,千雪は念話で帆船千雪号に転送するように命じた。
千雪たちの頭上に転送魔法陣が起動した。そして,千雪,
茜,バーベラ,そして2人の赤ちゃんは,参列者の前から消えた。
そして,上空で静止していた帆船千雪号は,ゆっくりと,さらに高度を上げて,魔法国の方向に飛んでいった。
「精霊さまが,いなくなったーー。もっと,見ていたかったなーー」
「われわれの眼の前に突如現れて,すぐにいなくなるんだもんなあ,寂しいなあ」
「あの,空飛ぶ帆船に,俺も乗りたかったなあ」
「ところで,メリー女帝って,子供産んでいるんだろう?夫って,誰だろうな?」
「だめだよ,そんなこと聞いては」
「でも,気になるじゃねーかよ」
ここで,国王秘書は,大きな声で,参列者に宣言した。
国王秘書「はーーい,皆さま,大変ご苦労さまでした。只今から,メリー女帝とお付きの方が退席されます。再度,メリー女帝に,最敬礼をお願いします」
参列者は,全員,私語を謹んで,メリー女帝に,片膝を地につける最敬礼をした。
メリー女帝は,参列者に向かって,一礼をして,退席した。彼女の後に,ゴルージオ,アイラ,リブレ,そして,メリー女帝の赤ちゃんを抱いたマリアも退席した。
国王秘書「メリー女帝が退席しました。これで,一連の式典を終了します。皆さま,散会してください」
参列者は,おのおの散会した。彼らは,面白い式典だったと,口々に言い合っていた。
ある一部の参列者は,こんな会話をしていた。
「ふふふ。せいぜい,今を楽しむんだな。後,2週間もすれば,,,,」
「シーー!そこまでにしておけ。誰かが聞いているかもしれん。それに,もうわれわれが関与することではない」
「そうでしたね。すいません。でも,2週間後が楽しみです」
ー---
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