第13話 メリー女帝の誕生

ー 国王の王宮,会議室 ー


 宴会の翌朝,千雪らは,国王らと会議を設けた。


 国王側の出席者は,国王,国王秘書,国王護衛隊長,第一王子護衛隊長,行政大臣,会計部長だ。


 一方,千雪側は宴会の出席者と同じだ。千雪,マリア,龍子,アイラ,リブラだ。相変わらず,茜とゴルージオは子守で留守番だ。


 茜とゴルージオは,指輪の亜空間領域に収納された帆船千雪号の中にいるので,どこかに行って行方不明になるという心配はない。


 茜は自分の赤ちゃんを子守するのはいいとして,ゴルージオは,千雪と龍子の赤ちゃん2人を面倒みている。戦闘に特化した体を与えられているのにもかかわらず,乳飲み子2人を面倒みるなど,宝の持ち腐れだ!!などと愚痴を言いたくもなった。でも,まあ,しょうがない。


 今回の会議の進行役は,国王秘書だ。国王秘書は,十数年ぶりに,マリアとその夫であった前国王が会うことになることもあり,気をきかした。


 国王秘書「マリアさん。前国王とは十数年ぶりの再会ですよね。別室を用意していますので,そちらでしばらく会談をされてはいかがでしょうか?前国王は,すでに別室でお待ちいただいています」

 マリア「気を使ってもらってありがとうございます。では,お言葉に甘えて,そうさせていただきます。龍子も連れていきます」

 国王秘書「構いません。では,どうぞこちらへ」


 国王秘書はマリアと龍子を前国王の待つ貴賓室に案内した。マリアは,この部屋で十数年ぶりに前国王に会った。


 マリア「国王!お元気でしたか?」

 前国王「私はもう国王ではないのだが。マリアの隣にいるのは,メリーか?」

 マリア「ええ,そうです。今は龍子と名前を変えています。龍子,少しは覚えているでしょう?あなたの父よ。本来なら,あなたは,この国の姫様なのよ。

龍子「当時は4歳だったから,ほとんど覚えていないわ。それに,姫様には興味ないわ。この国を脱出してよかったと思っているくらいよ。他では体験できないことがいろいろできたわ」

 前国王「そうか。でも,当時,クーデターの発生を未然に防げなかったのは,私の失策だ。許してくれ」

 マリア「もう,過ぎたことです。それに,クーデターを起こした側が悪いのよ」

 前国王「ところで,サリーはどうした?」


 サリーとは,龍子の姉である茜のことだ。マリアは,少し間を置いてから言葉を発した。


 マリア「この魔界を去って月本国に次元転移するときに離ればなれになってしまいました。今では,すっかり月本国の人間として過ごしています。後で,千雪様にお願いして引き合わせます。少々お待ちください」


 前国王「そうか。では,楽しみに待つとしよう」

 マリア「ところで,今の国王は,どうなのですか?悪政を敷いていませんか?」


 前国王「今の国王は,クーデターで政権を奪ったとはいえ,その後の国政運営では善政を敷いている。国民の受けもいい。私は,昔の遺恨を捨てて,今の国王を応援することにした」


 マリア「そうですか。ですが,私にとっては,私の護衛隊を全滅させた憎き反逆者です。とても協力する気には起きません」

 前国王「すでに,聞いていると思うが,その精霊の指輪をしているマリア,あなたが,あと数週間,この国に来るのが遅かったら,この国は,精霊国によって滅ぼされてしまうところだった」

 マリア「ふふ。でも,私たちを庇護してくれている千雪様でも,この国を一瞬で壊滅させることはできますよ。すでに聞いていると思いますが,行き違いがあって,第一王子の居城で,交戦がありました。私たちは無傷でしたが,敵の魔法士団は全滅しました。もっとも,私にとっては,とっても喜ばしいことですけれど,,,」


 前国王「その話はすでに聞いている。もうそれで,そなたの気が晴れたということにしてくれないか。そして,この国のために,協力をしてほしい」

 マリア「私もこの国が滅ぶのは望みません。ですが,今の国王に協力する気にはなれません。私の一言があれば,千雪様はこの国を,国王の一族を滅ぼすという同意を得ています。私は,この十数年,今の国王を仇として,ずーっと生きてきました。龍子もそうです。小さい頃から,この国,今の国王を滅ぼせるために,魔法の修行と呪詛を習わせてきました。私も魔法の修行を怠りませんでした。すべては,今の国王を滅ぼすためです!!」


 マリアは,自分の気持ちがだんだんと激高してきた。当時の自分の親衛隊が全滅したことをまざまざと思い出してきたのだ。そして,さらに言葉を続けた。


 マリア「私のこの体を見てください。龍子の体も見てください。私や龍子は,もともとこんな巨乳ではありません。千雪さんは,私の願いを叶える,という代償に,私と龍子にこのような体にさせられました。龍子の姉,茜も同様です。


 そして,毎日,私たちは,虐待を受けてきました。生半可な虐待ではありません。体中が食いちぎられてしまうのです。そして,千雪さんが男性の機能を具備してからは,特に,龍子と茜は,千雪様に何度も犯されてしまい,千雪様の子供を生むはめになりました。


 私たちの気持ちがわかりますか? 千雪様に虐待を受けるたびに,千雪様に犯されるたびに,今の国王への仇のことを強く思って耐えてきたのです!!」


 マリアは,激高して,半分真実,半分嘘のストーリーを作り上げた。表面的には嘘ではないのだが,仇のことは,まったく考えていなかった。前国王の顔を見て,十数年ぶりに思い出しただけだ。


 前国王「そうか。それほどの代償を払ってきたのか。それは悪かった」

 マリア「ええ,身も心も千雪様に汚されました。あなたと再会できたことは喜ばしいです。ですが,もうこの身では,あなたと再び生活を共にする資格はもうありません。すべては仇のために,この身を汚したのです。今の国王が,国王一族がいなくなれば,私の気持ちは少しは晴れると思います。


 新国王が誰になるのかは知りませんが,新国王になら,協力はしてもいいと思います。この精霊の指輪も返却に応じましょう」


 前国王「マリアの気持ちは理解した。だが,私には,今は何の権限もない。私たちの打合せはここまでだな。でも,よく生きていてくれた。よくその指輪を守ってくれた。よく,女王祭に間に合ってくれた。感謝する。ありがとう」


 マリア「そうですね。よく生きながらえたと今でも思います。魔法国の尊師に助けられたのが幸いしました。そうでなかったら,とっくに死んでしまったでしょう。精霊の指輪も盗まれたことでしょう。

 それに,月本国に行ってからですが,尊師の庇護の元で生活できたこと,さらに,その後は,千雪様の庇護を受けたことが幸いでした。千雪様は私たちを虐待したとはいえ,私たちの希望を叶えてくれるのですから」

 前国王「わかった。私たちの話し合いはここまでにしよう。国王との会議に臨もう」

 マリア「はい。そうしましょう」


 マリア,龍子そして前国王は,国王のいる会議室に移動した。


 国王秘書「マリアさん,龍子さん,そして前国王もそろいました。では,今から,会議を開きたいと思います。本来なら,友好的に会議を進めれたのですが,先日の突発的な事件が起こってしまいました。この事件について,どのように扱うのかを決めないといけません。私たち,国王側としても,まだ意見のすり合わせができておりません。私個人の暫定的な意見としては,この事件はなかったということにしてはいかがでしょうか?」


 衛兵隊長「個人の意見を言わせてもらえるのでしたら,言わせていただきます」

 国王秘書「構いません。どうぞおしゃってください」

 衛兵隊長「ありがとうございます。では,申し上げます。最初に領空侵犯を犯したのは,千雪さん側にあります。その点については,一言,謝罪があってもよいのではないでしょうか?」

 アイラ「私は,事前に通信魔法石で連絡しました。その連絡が第一王子側に伝わらなったことが原因だと思います」

 衛兵隊長「それを言うなら,きちんと,第一王子の居城に着くとか,明確に連絡をよこすべきだったのではないですか?」

 アイラ「だって,帆船のナビをしたのは,マリアさんよ。まさか第一王子の居城に行くなんてわかるわけないでしょう!」

 衛兵隊長「そちらにも意思疎通が悪いようですね」

 アイラ「隊長,あなた,やる気?ケンカなら受けてたつわよ。千雪さん側とケンカし て勝てる訳がないでしょ!!」

 衛兵隊長「アイラさんは,いったいどっちの味方なか?何か,千雪さん側についているように聞こえますけど?」

 アイラ「そうよ。千雪さん側よ。この世の中,強いものが正しいのよ。弱いものは,いくら正当な理由があってもだめ。力にねじ伏せされるわ。これまでの歴史が証明しているわ!」


 アイラと第一王子衛兵隊長との口げんかに国王秘書が間に入った。


 国王秘書「ここは,議論する場であって,お互いを非難する場ではないわ。でも,アイラの言い分は一理あるわ。強者に対しては,弱者のわれわれは,どんな理由があれ,謝罪をする立場だわ。国王,この考えでいかがでしょうか?」

 国王「私も,その考えに同意する。では,この国を代表して,私が千雪さんに謝罪する」


 国王は,座っている椅子から立ち上がった。そして,千雪さん側の座っている側に歩み寄って,膝をついた。そして,謝罪の言葉を述べた。


 国王「この度は,私どもの連絡不十分により,第一王子側に必要な情報の共有ができておらず,千雪さんの帆船を敵とみなして,攻撃をしてしましました。このことについては,この国の代表である国王として,この場で正式に謝罪を申し上げます。誠に,誠に申し訳ありませんでした」


 国王は,頭を床につけて,このように謝罪の弁を述べたのだった。


 この謝罪には,千雪はもちろんのこと,国王を忌み嫌うマリアもびっくりした。まさかあの国王が,クーデターを引き起こして,我が物顔に振舞っていたと認識していた,あの国王が,このように,土下座までして謝ったのだ。マリアは,国王に対する認識を改めなければならないと感じた。


 千雪「国王,もういいです。お立ちください。実質,われわれの損害は何もありませんでした。ですから,前日の件については,国王からの謝罪を受け入れます。もうこれ以上,この件については,触れる必要はありません。これからのことを議論していきましょう」


 国王「謝罪を受け入れて,ありがとうございます。では,この件については,これで終わりとし,千雪さんの言葉通り,今後のことについて,話を進めさせていただきたい」


 国王は立ち上がり自分の席に戻った。国王護衛隊長や第一王子衛兵隊長は少し涙した。国王に,ここまでさせてしまったことの原因が,国力の非力さにあること,つまりは,自分たちの非力さにあることを痛感した。悔しかった。自分たちの非力さに腹が立った。


 国王が自分の席に戻った。国王秘書は,国王に軽く会釈をしてから,口火を切った。


 国王秘書「はい,では,この第一王子の居城襲撃事件は,ここまでとします。では,これからのことを話し合いたいと思います。もともと,アイラとリブレを月本国に派遣したのは,マリアさんたちをこの獣人国に呼び戻すことでした。その目的は,マリアさんがしていた精霊の指輪を国王もしくは王族に返してもらうためです。そして,晴れて,王族が管理する精霊の指輪が,来る女王祭に参加していただくことにあります。


 そこで,マリアさんにお聞きします。マリアさんが管理している精霊の指輪を,今の国王に提供いただけるでしょうか?


 マリアはどう返事すべきか,しばし考えた。だが,考えがまとまらない。あの国王の謝罪の様子を見て,自分の考えがまとまらくなってしまったのだ。


 マリア「今は,ちょっと頭が混乱しています。この獣人国の全国民のことを考えると,精霊の指輪を国王に渡すべきでしょう。ですが,私がこの国を追われた際,当時の私の親衛隊は,今の国王の兵によって殺されてしまいました。今でもトラウマになっています。今の国王がいる限り,精霊の指輪は返さないつもりでした」


 マリアは,ここで,言葉が詰まった。龍子は,母親であるマリアの気持ちが痛いほどわかった。龍子はマリアの手を握っていった。


 龍子「お母さん,もう意地を張るのは止めにしましょう。私たちは,この獣人国に戻ったのよ。返すべきものは返しましょう。私たちはもう王族ではないのですから。後のことは,それから考えましょう。もし,住むところがなかったら,また,月本国にでももどりましょう」

 マリア「龍子,そうね。もう少し,駄々をこねるつもりだったけど,龍子の言うとおりだわ」


 マリアは,一呼吸を置いた。その時,国王がマリアの言葉を遮った。


 国王「マリアさん。まず,当時のクーデターを起こしたことを謝罪させてほしい。

 私がクーデターを起こして,マリアさんを追跡して,無理やり,指輪を奪おうとしたこと,そして,多くの死人を出してしましった。ほんとうにすまないと思っている。申し訳なかった」


 国王は,また,椅子から立ち上がり,マリアさんに向かって,深々と一礼した。そして,座り直して話を続けた。


 国王「マリアさんにとって,この謝罪でも許すことはしないと思う。私は,これを機に国王を辞任する。本来,指輪の所有者が国王であるという基本理念がある。次期国王に,マリアさんの持っている指輪を渡してほしい」


 この話に,皆,びっくりして国王を見た。だが,国王は,すでにこのことを決めていたようだ。


 国王「次期国王を誰にするか,皆が決めてほしい。私には,もう発言権はない。申し訳ないが,もう数日,国王の部屋を使わせていただきたい。次期国王が決まったら,その部屋を明け渡そう。最後まで,責任をまっとうできず申し訳ない。では,私は失礼する」


 国王は,そう宣言して,この会議室から出て行こうとした。皆,突然のことで呆然とした。


 国王秘書「国王!急に,どうしたのですか?」


 国王秘書は,国王を追って,会議室から出て行った。千雪はポカンとして独り言のように言った。


 千雪「国王は気でも触れてしまったの?」

 マリア「さあ?でも,私がちょっとプレッシャーを与え過ぎたのかもしれないわ」

 龍子「私たちで次期国王を決めていいって言っていたわよね。私が国王でもいいの?」

 千雪「そうなるわね。あなたは前国王の娘なんだから,その資格は充分にあるわよ。茜もその権利はあるけど,獣人国にはなんの未練もないし,そんなつもりは毛頭ないでしょう」

 龍子「ふふふ,じゃあ,立候補しようかな??」


 一方,国王秘書は,廊下で国王を捕まえた。


 国王秘書「国王,なんですか?あれは?やっと,ここまでうまくいっていたのに。急に,国王を辞めるなんて言い出して!」

 国王「私はもう疲れた。富国強兵を掲げて,頑張ってきたが,帆船一艘も倒すことができなかった。大事な第一王子を死なせてしまった。私の国王としては失格だった。国王秘書よ。あとのことはよろしく頼む」

 国王秘書「気弱になってはだめです。まだ,第一王子の居城の後始末とか,亡くなられた兵士たちへの対応など,すべきことが山ほどあります。今,責任放棄するのはずるいです!卑怯です!弱虫です!」


 国王秘書は,ある意味,尊敬していた国王が,こんな形で国王を辞めるなんて耐えられなかった。いくら国王秘書が実質,仕切っているとはいえ,彼女は国王を尊敬していた。


 彼女は,とんでもない行動に出た。


 パッチーン!!


 なんと,彼女は,国王の顔を引っぱたいた。国王は,歩みを止めた。だが,たたかれても,あまり意外な感じはしなかった。国王としての終わり方としては,あまり望ましくはないかもしれない。でも,クーデターで獲った政権だ。意外とよい終わり方なのかもしれないと感じた。


 国王秘書「国王!!しっかりしてください。そんな弱々しい国王なんて,見たくありません!!」

 国王「国王秘書から見れば,私はそのように見えるのか?だが,私にとっては,国王を続けるよりも,国王を辞めるほうが勇気がいる行為なのだ。わかってくれ。マリアさんや龍子さん,そして千雪さんたちのことを考えると,私が国王でいると,いろいろと支障がでてくる。私の最後のわがままだ。許してくれ。そして,私のこの”勇気”ある行動を理解してくれ」


 国王は,国王秘書に背を向けて,去っていった。


 国王秘書は,去りゆく国王を見つめた。尊敬していた国王がこのように中途半端な状況で,その地位を捨てるのは,やはり許せなかった。だが,国王の気持ちも少しは理解した。国王がこのまま国王として居続ける限り,マリアたちの協力を得ることは困難であるというのも事実だ。国王がいみじくも言った,”国王を辞める勇気”,確かにそうなのかもしれないと感じた。


 国王秘書は会議室に戻った。会議室では,国王の仕事がとても大変だという話で盛り上がっていた。


 行政大臣「国王の仕事は,国民の生活を守るために,国力を上げていく必要があります。行政,経済,税制,法律,工業,農業など,多方面でいろいろと勉強しないといけません。少なくともルーズな性格の人は向かない仕事です。普通の人なら,なりたくない仕事のナンバーワンに入るかもしれません。

 

 龍子「えー-?そうなの?ただ,報告を受けて,はいはい,と返事するだけではだめなの?時間のあるときは,おいしいものを食べて,好きなところに旅行できて,ハーレムを創って,というイメージがあったのですけど。千雪さんみたいに,,,


 千雪「ハーレム創るなら,国王よりも金持ちになる方がいいわね。世の中,金よ金。金があれば,国王だって,動かせるわよ」


 龍子「そっかー-。じゃあ,国王に立候補するのは,止めにするわ。なんか,メリットが感じられなくなったわ」


 その時,国王秘書が入ってきた。


 国王秘書「あら?龍子さんは,国王に立候補するつもりだったの?」

 龍子「そうよ。優雅に贅沢に暮らせると思ったのだけど,全然そうじゃないとわかったわ」

 国王秘書「でも,自分で仕事しなければいいのよ。だれか有能な大臣に仕事させればいいのよ。贅沢もできるし,旅行だって,たくさんできるわよ。たから,龍子さんが国王になるなら,応援するわよ。前国王の娘さんだし,反対する人は,少ないと思うわ」

 龍子「ほんと?贅沢できるの?じゃあ,しようかな?」


 前国王「私は,発言する権利はないかもしれんが,国王の仕事をなめてはいかん。全国民の生命を預かるのだ。自分の楽しみは,全国民が幸せになってから考えるべきだ。


 千雪「それは,ちょっと言い過ぎだと思うわ。今の国王は,クーデターで政権をとったのでしょう?つまり,力で政権をとったのよ。自分のエゴ,欲望,自分の楽しみを優先して政権をとったのよ。国王は,自分の楽しみを最優先にしていいのよ」


 国王秘書は,ちょっと,雰囲気が悪くなったので,仲裁に入った。


 国王秘書「ちょっと待って。ここでは,次期国王を誰にするかであって,国王とは,どうあるべきかを考える場ではないわ。仮に,龍子さんが国になってもらって,もしいやになったら,次の国王を選べばいいだけよ。今の国政の体制では,国王の権限は,そんなに強くないわ。魔法国の体制をほぼ踏襲しているから,国王は,外交と治安に注力すればいいのよ」


 龍子「そうなの?じゃあ,国王になっても,贅沢はできそうね。じゃあ,国王に立候補するわ」

 国王秘書「わかりました。では,他の方々,例えば,国王の第2王子が立候補する意思があるかも確認しますね。もし,2名以上が立候補の意思がある場合は,各候補者が,大臣,官僚達の前で,選挙演説をしてもらいます。そして,投票によって,国王が決まります。このルールは,以前,国王が次期国王の選定基準を決めたものです」


 千雪「なんか,ずるいわね。自分はクーデターで国王になったけど,次期国王は選挙でするの?ちょっと,おかしいんじゃない?」

 国王秘書「そう言われると,身も蓋もありません。ですが,数年前に,そのように決まりました」

 千雪「気に食わないわね。龍子を国王にしないと,私がクーデターを起こすわよ。こんな国,すぐにでも滅ぼしてしまうわよ」


 一瞬,周りの空気が硬くなった。


 国王秘書は,やむなく千雪の言うとおりにした。


 国王秘書「そうですか。まだ,国王の王子達の意見を聞いていませんが,立候補しないように説得します。あと3日ほど時間ください」


 千雪「龍子,よかったね。次期国王になれるわよ。せいぜい贅沢しなさい。あっ,そうそう,茜とゴルージオも連れてくるわね」


 千雪は,そう言って,少しスペースのある場所に移動して,そこで消えた。指輪の亜空間領域の中に消えた。


 国王秘書「え?千雪さんが消えてしまったわ? 転移でもないわ。どうして??」


 この反応に,マリアが答えた。


 マリア「千雪さんのしている精霊の指輪は特殊で,人間さえも収納できてしまうんです。たぶん,数ある精霊の指輪の中でも,最強に近い能力でしょう」

 

 しばらくして,千雪は,2人の赤子を抱いたゴルージオと,自分の赤子を抱いた茜と一緒に出現した。龍子はすぐにゴルージオから自分の赤子を受け取ってあやした。千雪の赤子は,すでに十分な知性があり,ゴルージオの抱かれるままにされていた。

 

 マリアが,茜とゴルージオに,これまでの経緯を簡単に説明したあと,マリアは前国王に茜を紹介した。


 マリア「王様,彼女がメリーの姉,サリーです。今は茜と名乗っています」

 前国王「おお,そうか,,,でも,,,なんとも,,,巨大な,,,」


 前国王は,『巨大なおっぱい』と言いたかったが,この場にふさわしくないので,言うのをやめた。


 茜を巨大なおっぱいにしたのは千雪だ。リスベルの性奴隷であった時のトラウマで,愛する女性には巨乳にしてしまうという性癖が千雪に生じたと勝手に思っている。


 巨乳にしたのが千雪だという話にまで発展したくないので,千雪は,次期国王の新しい護衛隊長の話を切り出した。


 千雪「ゴルージオ,あなたは,龍子,つまり次期国王の護衛隊長になりなさい」


 急に,話が振られたゴルージオは,でも,自分にちゃんとした役目が与えられるのは嬉しかった。


 ゴルージオ「わたしに何ら異存はございません。このような重大な役目を仰せつかって光栄の至りです」


千雪「アイラ,リブレ。あなた方は,龍子の補佐をしなさい。国王秘書と協力して,龍子の負担も軽くなるようにしなさい」

 龍子「それはいいわ。アイラ,リブレ。協力してくれる?」

 アイラ「了解でーす。いくらでも協力させていただきまーす」

 リブレ「私も同じ意見です。その場合,龍子さんは,以前の名前にもどしたほうがいいかと思います」

 龍子「そうね。マリア,もとの名前に戻していい?」

 マリア「いいわよ。そうしなさい」

 龍子「では,私はメリーと名乗ることにするわ」


 国王秘書は,何度か溜息をついて言った。


 国王秘書「なんか,もう次期国王様,いや,次期女帝様が決まったようね。内部の調整で,2,3日いただいて,戴冠式は,1週間後くらいで行うことにしましょう。精霊の指輪は,マリアさんから受け継いで,メリー女帝が管理することになるわ。当分の間,皆さんは,貴賓用の部屋を用意しますので,そこでお休みください。


では,会議はここまでにしましょう。国王護衛隊長,第一王子衛兵隊長そして行政大臣は,このまま残ってください。メリー女帝を擁立するための準備会議をしたいと思います」


 千雪らが去ったあと,残った4名でさらに打ち合わせが行われた。


 ーーー

 国王秘書「皆さんは,メリーさんが女帝になるのは,賛成しますか?」

 国王護衛隊長「賛成もなにも,千雪さんがいる限り,反対しても意味がないでしょう」

 国王秘書「そうね。ただ,千雪さんは,もうすぐいなくなるわ。女王祭に参加するそうよ。そうなったとき,メリー女帝に反対する勢力がどう出てくるかだわ」


 第一王子衛兵隊長「第一王子が殺されていますからね。実質,クーデターで女帝になったという感じで受け取られてしまうでしょう。そして,後ろ盾の千雪さんがいなくなったら,表立って,反発してくる可能性もあります。私もできれば反発したい気持ちですけど」


 国王秘書「その可能性が高いわね。何とか,そうならないようにしたいわ」

 行政大臣「基本的には,前国王のお嬢様ですから,反発はさほど強くないと思います。それに,精霊の指輪をこれまで所有してきたという事実を踏まえて,国王がメリーさんを次期女帝に指名したということにすれば,一応は大義名分が立つと思います。一番反発が予想されるのは。第一王子側の衛兵部隊です。魔法士はほぼ全滅させられましたけど,剣士は,他の仕事の都合で,当時は居城にいなかったと聞いています。彼らの反発は相当なものがあるはずです」


 国王秘書「確かにそうね。第一王子衛兵隊長!一番危ないのは,あなたの部隊だわ。なんとか,あなたの力で抑えてもらいたい」

 第一王子衛兵隊長「そうしたいところですが,何らかのポーズというか,セレモニーをしてほしいところです。例えば,亡くなられた魔法士に対して,合同慰霊祭の主賓として,メリー女帝がそれなりの態度を示すとかですかね?」


 国王秘書「それくらいは必要ね。行政大臣,戴冠式は,2週間後くらい後に行ってちょうだい。その後1,2週間後くらいに,亡くなられた魔法士,第一王子への合同慰霊祭を準備してください。国王護衛隊長と第一王子衛兵隊長は,部隊の内部をこれまで以上に統制してください。私は明日から,王族,貴族達を訪問して回ります。国王護衛隊長と第一王子衛兵隊長にも同行してもらいます。よろしくお願いします」


 行政大臣「千雪さん側も同行してもらったほうがいいのではないですか?どうせなら,メリー女帝も同席すれば,スムーズかもしれません」

 国王秘書「そうですね。それは気がつきませんでした。千雪さんと相談してみます。では,みなさん。あまりよからぬことを考えないようにお願いします。下手すれば,相互安全保障契約違反することになり,大変なことになります」


 国王衛兵隊長,第一王子衛兵隊長そして行政大臣もその辺はよくわきまえていた。そしてその抜け道も含めて。特に,国王護衛隊長は,今回の結果を詳しく副隊長に報告した。


 副隊長は,この情報から,今回の事件で亡くなられた魔法士達,第一王子の合同慰霊祭が開催されること,そして,メリー女帝も参加することを知った。


 ー--

 ー 第一王子の居城 ー


 国王護衛副隊長「国王が退位するようだ。そして,次期国王,いや女帝は,前国王の愛娘であるメリーさんがなるそうだ。そして,亡くなられた魔法士達と第一王子の合同慰霊祭に,メリー女帝が参加することになる」

 隊員A「そうですか。では,メリー女帝を使って,ゴルージオに一泡吹かせられますね」

 国王護衛副隊長「それをわれわれが言ってはいかん。粛々と準備をしておくだけでよい」

 隊員A「はい,了解です」


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