第12話 禁断のネックレス,霊媒師
ー 宴会会場 ー
宴会といっても,円卓を囲んでの食事会だ。千雪側は,千雪,マリア,龍子,アイラ,リブレだ。茜とゴルージオは,子守当番で帆船千雪号に残った。その帆船千雪号も,今は,千雪の指輪によって,亜空間領域に収納されていた。そんな奇跡的なことができるのも,千雪のしている指輪くらいなものだ。
国王側は,ミーナ第2王妃,国王秘書,第一王子衛兵隊長,行政大臣の4名だ。
各自が自己紹介を終えた後,口火を切ったのは,ミーナ第2王妃だ。彼女がこの宴会のホスト役をしないといけないからだ。
ミーナ「今回は,わざわざ遠くからお越しいただきて,ありがとうございます。少々,行き違いがあったようですが,今は,そのことは忘れて,食事を楽しんでください」
マリア「ありがとうございます。そうですね。昔の遺恨は,今は忘れましょう」
マリアは,昔,という言葉に,ことさら重点を置いた。
国王秘書「どうぞ,どうぞ,召し上がってください。明日は,国王との会議を朝から予定しています。硬い話は,明日でお願いします。今は,楽しく食事をしてくださいね」
千雪「では,そうさせていただきます」
それから,しばらく食事をしながら,談笑した。
国王秘書「ところで,ゴルージオさんは,今回は,参加されないのですか?」
千雪「はい。彼は,食事を取ることができないので,置いてきました」
国王秘書「え??食事が取れないって,体調でも悪いのですか?」
千雪「はい。体調が悪いので,休息させています」
千雪は,適当に口からでまかせをいった。
国王秘書「そうですか。それは残念ですね。他にも,宴会に参加していないメンバーはいるのですか?」
千雪「あと龍子の姉も参加していません。ゴルージオとともに子守をさせています」
国王秘書「そうでしたか。では,あとで,夜食にでも食べれるように,弁当を数人分準備しておきますね」
千雪「それはありがたいです。助かります」
国王秘書側は,乳飲み子とは,1人だけだと思った。だが,千雪側は,2人の乳飲み子がいる。このような些細な認識の違いはかわいいものだ。けっして交戦にまで拡大しないからだ。
国王秘書「ところで,話は変わるのですが,死んだ人を復活させる方法って,あると思いますか?私共は,大勢の魔法士を失いました。責任をそちらに求めることはしません。ですが,もし,復活できるような魔法のようなものがあればと思って聞いています」
千雪「そうですね,,,こちらもこのように交戦状態にあるのは,本意ではなかったのです。あの帆船は,攻撃を受けたら,反撃するように創られています。われわれも死にたくないですから」
千雪は,ちょっと,一呼吸を置いて言った。
千雪「死者を復活させる方法はありません。ですが,霊体を何か,別の体に入れて,霊体と会話するくらいなら,できるかもしれません」
国王秘書は,顔をほころばせた。
国王秘書「えーー? そんなことができるのですか?」
国王秘書と千雪の会話に,第一王子衛兵隊長が割り入った。
衛兵隊長「魔法国では,ゴーレムや死体に,霊体の抜け殻を使って,動かす魔法技術があります。その技術を応用すれば,霊体を使ってゴーレムや死体を動かせれるようにするのは,可能ではないでしょうか?事実,ゴーレムである獣人守護神は,ゴルージオという霊体によって支配されています。魔法国の魔法技術は,われわれよりも数段高いと言わざるを得ません」
このことを聞いて,千雪は少しリップサービスすることにした。
千雪「衛兵隊長さんは,博識なのですね。確かに,魔法国では,その技術は発達しています。ですが,霊体そのものを使うということは,霊体の本来の転生への道を閉ざしてしまう危険性もあります。魔法国では,それを可能にしているのは,ゴーレムの指輪と死霊の指輪の持ち主くらいだと思います」
千雪の言葉に,国王秘書は目を輝かせた。
国王秘書「そうですか。一度,ゴーレムの指輪,または死霊の指輪の持ち主と面談を持ったほうがいいかもしれませんね」
衛兵隊長「ですが,われわれの弱みを見せることになりますよ。得策とは思えませんが」
龍子が,会話に割り込んできた。
龍子「死者と会話するなら,降霊術を使う巫女さんを呼んできたらいいんじゃない?」
国王秘書「降霊術?」
龍子「そう。降霊術よ。この国には,そんなことできる人は,いないの?」
国王秘書は衛兵隊長の顔を見た。しかし,彼もちんぷんかんぷんだった。
国王秘書「聞いたことないわ」
龍子「国王秘書さんの周囲に,数人の霊体が来ているわよ。霊体をある人の体に憑依させる術が降霊術というの。簡単でしょう?きっと,この国にもできる人がいると思うわ」
そう言われて国王秘書は第一王子衛兵隊長に尋ねた。
国王秘書「隊長,そのようなことできる人を探せれますか?」
衛兵隊長「探そうと思えば,時間はかかりますが,できるかもしれません」
国王秘書「じゃあ,探してちょうだい」
衛兵隊長「わかりました。では,早速,連絡をとります」
衛兵隊長は,この場を離れて廊下に出た。そして,通信魔法石で,副隊長に降霊術のできるものを探すように命じた。また,千雪側の情報として,マリアはSS級,龍子はS級,千雪は化け物級であることも伝えた。ほかに,宴会には出席していないが,子守をしているゴルージオと龍子の姉もいることを連絡した。
副隊長は,この情報を受けて,急ぎ,降霊術のできる人物を探すアレンジをした。最優先事項だ。国内の統治者から,あらゆる組織のトップへ連絡がいって,それらしい人物を第一王子の居城に来るように連絡した。
1日後にはさっそく10名ほどが集まった。副隊長のマルベロは,部下のガリッタと一緒に面接に臨んだ。
1人目は,中年のおっさんだ。
副隊長のマルベロ「君は,何ができのかね?」
中年のおっさん「はい,私は,霊体と会話ができます」
副隊長のマルベロ「では,実演してくれないか?」
中年のおっさん「はい。では,実演します」
中年のおっさんは,その場で,両手を合わせて,つぶやいた。
中年のおっさん「なむなむなむなむー--。はー--!!!はー--!!!はー--!!!」
両手を合わせた手のひらは,小刻みに震えだした。
中年のおっさんは,その場でしゃがみ込んで,犬のような恰好をして,吠えだした。
ウオオオオオオーーーン!!!
副隊長のマルベロは,部下のガリッタに目くばせをした。ガリッタは,頷いて,中年のおっさんをこの会議室から放り出した。
2人目は若い女性だ。彼女の実演はこうだった。
若い女性「私は,霊体が見えます。そして,その霊体と会話することができます。では,実演します」
若い女性は,両手を広げて,ブツブツと言い出して,それから自分の胸を服の上からもみだして,何か,自慰しているかのような行動をした。この女性が,もっと美人だったら,それでも見る価値はあったのかもしれない。
副隊長のマルベロは,即座に,部下Bのガリッタに目くばせをした。ガリッタは,頷いて,中年のおっさんと同じように彼女をこの会議室から放り出した。
部下のガリッタ「なかなかいないもんですね」
副隊長のマルベロ「地道に探すしかあるまい」
3人目は,初老の女性だ。
初老の女性「私は,霊体を自分の体にも他人の体にも入れさせることができます。もちろん,霊体を認識することもできます」
副隊長のマルベロ「では,実演してください」
初老の女性「わかりました。では,あなたの傍にいる霊体の1つを私の体に憑依してもらいます」
初老の女性は,マルベロの傍によって,そっと優しく,何かを手のひらに乗せるようなしぐさをした。そして,その手のひらにやさしく語りかけた」
初老の女性「今から,あなたは,私の体に憑依してください。5分間だけ,あなたに体を明け渡します。その後は,申し訳ありませんが,強制的にあなたを体の外に出します。それでよかったら,この体を使ってください。よろしいですか?」
初老の女性は,頷いて,その手のひらを自分の眉間に近づけた。そして,目をつむって1分後,その女性は目を開けた。
初老の女性「ふー,やっと話せる状態になった。私は,第一王子,ハウラムだ。まだ,どうもこの世に未練があるらしい。転生できないようだ」
副隊長のマルベロ「え?ほんとうに,第一王子,ハウラム様ですか?それを証明することはできますか?」
初老の女性「そうだな。私を倒したのは,ゴルージオというものだ。見事に一刀両断にされてしまった」
この事実を知ることは,この初老の女性には絶対に無理だ。副隊長のマルベロは,彼女に憑依しているのは,間違いなく,ハウラム第1王子であると確信した。
副隊長のマルベロ「ハウラム様,ほんとうに,第一王子のハウラム様なのですね? ほんとうに降霊術ができる人がいたんですね。よかったー-」
初老の女性「どうやら,あなた方は,私の復讐を企んでいるようだな。それがダメとはいわん。だが,もしするなら,慎重にしてくれ。私としては,別にゴルージオを恨んではいない。戦いとはそういうものだ。私の希望は,自分のまだ小さい乳飲み子が一人前に育ってほしいという願いだけだ。それと,最後に妻に,一言,別れの言葉を伝えたかった」
副隊長のマルベロ「では,今,言っていただけますか?その言葉は,そのまま奥様に伝えておき来ます」
初老の女性「では,次の言葉を私の妻に伝えてもらいたい。
『妻のカルリーナよ。こんなに早く,この世を去ることを許しておくれ。第一王子の身分としては,やむをえない場合もある。すまんが,我が子をなんとか成人まで,育てておくれ。それと,私のことは,なるべく早く忘れなさい。もし,いい人に巡り会えたら,私に遠慮しないで,自分の幸福を求めなさい。妻よ。いや,もうそう呼ばないほうがいいだろう。あなたは,まだ若い。自分の人生の幸せを見出しなさい』
以上だ。簡単な内容だが,よろしく頼む」
副隊長のマルベロは,半分,涙を流しながした。
副隊長のマルベロ「わかりました。間違いなく伝えます。どうぞ,安心してください」
初老の女性「ありがとう。これで,思い残すことはない。転生できそうだ」
初老の女性の体が金色に薄く光った。それは,オーラを認識できる人にしかわからない現象だった。だが,副隊長のマルベロも部下のガリッタも,金色のオーラが見える気がした。
初老の女性は,ガクッと,体に地に倒れた。副隊長のマルベロも部下のガリッタも,初老の女性をそのままにした。変に助けないほうがいいと判断したからだ。
10分ほど経過した。初老の女性は目を開けて,ゆっくりと立ち上がった。
初老の女性「私に憑依したのは,第一王子様だったのですね。通りで,霊体が気高い感じがしました。幸いにも,転生への道を歩み始めたようです。もうこの世界に第一王子様の霊体はいなくなりました」
副隊長マルベロ「そうか。わかった。あなたには,第一王子に変わって,感謝申し上げる」
副隊長マルベロと部下のガリッタは,起立して,その初老の女性に深々と頭を下げた。
初老の女性「そんな,恐れおおいこと。私はただ,自分の体をかしただけです。何も感謝されることはありません」
副隊長マルベロ「あなたの名前を教えていただきたい」
初老の女性「レイジラと申します」
副隊長マルベロ「レイジラさん。申し訳ないが,当分の間,私たちと協力してほしいことがある。お願いできるかな?」
初老の女性のレイジラ「はい。そのためにここに来ました。私でできることがあれば,何でもいたします」
副隊長マルベロ「レイジラさんは,魔法士としてのレベルは,いかほどですか?」
レイジラ「はい。上級レベルです」
副隊長マルベロ「では,早速で悪いが,部下をひとり紹介する。彼から,特別な呪詛魔法陣を急いで習得してほしい。詳しいことは,その部下から聞いてくれ」
レイジラ「はい,わかりました」
レイジラは,別室に通されて,その部下から特別な呪詛魔法陣を習得することになった。
副隊長のマルベロと部下のガリッタは,残りの7人と面談したが,残念ながらすべて眉唾ものだった。
その後,彼らは,第一王子の妻が住む,この居城の奥の院に出向いた。第一王子の遺言を伝えるためだ。
彼らは,第一王子の妻,カルリーナに会った。彼女は,乳飲み子を抱えてドアを開けた。
副隊長マルベロ「カルリーナ様ですね。私,国王護衛隊のものです。実は,任務で,第一王子の霊体を呼び出すことに成功しました。その際に,あなたへの遺言を預かりました。ここに,その際の映像魔法石があります。見ていただければと思います」
カルリーナ「わかりました。では,中にお入りください」
副隊長マルベロと部下のガリッタは部屋に通された。部屋には,第一王子,カルリーナそして愛娘の3名が一緒に映っている写真が飾ってあった。
カルリーナ「では,映像を見せていただけますか?」
部下のガリッタは映像を準備した。
部下Bのガリッタ「はい,準備ができました。この女性が,第一王子の霊体を自分の体に憑依させてくれました。どうぞ,ご覧ください」
映像魔法石から,その映像と音声が流れ始めた。そして,カルリーナは,横長の8インチ程度の画面を食い入るように眺めた。
『ふー,やっと話せる状態になった。私は,第一王子,カラレッドだ。まだ,どうもこの世に未練があるらしい。転生できないようだ。
・・・・
私を倒したのは,ゴルージオというものだ。見事に一刀両断にされてしまった。
・・・・
最後に妻に,一言,別れの言葉を伝えたかった。
・・・・
では,次の言葉を私の妻に伝えてください。
・・・・
妻のカルリーナよ。こんなに早く,この世を去ることを許しておくれ。第一王子の身分としては,やむをえない場合もあるのだ。すまんが,我が子をなんとか成人まで,育てておくれ。それと,私のことは,なるべく早く忘れなさい。もし,いい人に巡り会えたら,私に遠慮しないで,自分の幸福を求めなさい。妻よ。いや,もうそう呼ばないほうがいいだろう。あなたは,まだ若い。自分の人生の幸せを見出しなさい。
以上だ。簡単な内容だが,よろしく頼む。』
映像は,その後,初老の女性が倒れて,しばらく動かない映像が続いた。妻のカルリーナは,なんと,オーラを少しだけ見ることができた。この女性のオーラは,夫のオーラだった。そして,妻への遺言を言い終わった後,全身が黄金に輝き,そしてゆっくりと消えていった。
妻のカルリーナは,それを見て,夫が行くべき世界に行ったのだと悟った。
妻のカルリーナ「夫は,,,夫は,行くべき世界にいけたのですね。この女性に感謝の言葉を伝えてください。夫とは,あまり長い時間を過ごせれませんでした。ですが,夫の遺言を聞けることができて私は幸せでした。この言葉があれば,私のこれからの人生を生きていく自信ができそうです。ほんとうにありがとうございます。ほんとうに,ほんとうに,ありがとうございます」
妻のカルリーナは,最後のところは,涙声になった。これから1人で生きていく,いや,忘れ形見の愛娘と共に生きていく,その覚悟が、そして,自信ができつつあった。
副隊長のマルベロ「では,私共は,これで失礼させていただきます」
カルリーナ「わざわざご足労いただいて,ありがとうございます。あの,少々,待っていただけますか?」
カルリーナは,隣の部屋に行き,あるネックレスを持ってきた。
カルリーナ「どうぞ,このネックレスをお受け取りください。主人が大事な時にしていたものです。ですが,亡くなった日にはしていませんでした。魔力を調整する役割をするとか,言っていましたが,私には無用の長物です。どうか,何かの役に立ててください。
副隊長のマルベロは,そのネックレスを受けとった。
副隊長のマルベロ「わかりました。では,大事に使わせていただきます」
部下のガリッタ「この映像魔法石は,どうぞ,お受け取りください」
妻のカルリーナ「ありがとうございます。娘が大きくなったときに,見せてあげたいと思います」
副隊長のマルベロ「では,改めてこれで失礼させていただきます」
副隊長のマルベロと部下のガリッタは,カルリーナの部屋を後にした。
部下のガリッタ「カルリーナ様は,1人でやっていけますかね?」
副隊長のマルベロ「愛娘がいるから大丈夫だろう。それに,あれだけ美人だ。いずれ,どこかの貴族がプロポーズするだろうよ」
部下のガリッタ「まあ,そうでしょうね。ところで,いただいたネックレスは,どんな力があるのでしょうかね?」
副隊長のマルベロ「これか? これは,魔力を数倍に増幅するネックレスだ。禁断のネックレスだ。国王が第一王子に譲ったものだ」
部下のガリッタ「え?魔力が数倍に増幅されるなら,すごくいいじゃないですか。どうして禁断のネックレスなんですか?」
副隊長のマルベロ「何事も都合の良いことばかりではない。寿命が削られてしまうんだ」
部下のガリッタ「なんと,,,それではなかなか使う気にはなれませんね」
副隊長のマルベロ「結局,国王も持て余してしまい,第一王子に渡して,寿命を削られない方法を探すようにと命じられたものだ。残念ながら,第一王子は,生前にこの研究をする時間がなかったようだ。残念だよ」
部下のガリッタ「でも,このネックレス,何かに使えませんかね? すごい武器になりますよ」
副隊長のマルベロ「あるにはある」
部下のガリッタ「え?ほんとうですか??教えてください!」
副隊長のマルベロ「ふふふ。乞うご期待だ」
副隊長のマルベロは,意味深長な薄笑いをした。
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