第10話 第一王子の死

 帆船千雪号の魔法攻撃から,なんとか逃げ切った隊員もいた。事居城の転送座標点に転移した衛兵隊長とゴーレムを操縦していた班長だ。彼らは,急ぎ天守閣にいる隊長と第一王子のもとに急いだ。


 班長「隊長,第一王子!! 敵の飛行物体にやられました。敵は,膨大な魔力を保持しています。このままでは,この城は陥落してしまいます。早く逃げてください!!」

 衛兵隊長「そうか,,,獣人守護神でも手に負えなかったか,,,状況は理解した」

 第一王子「我が方の犠牲者は,まだでていないな?」


 班長は,副隊長が率いる100名ほどの魔法部隊が全滅したことを知らなかった。


 班長「はい。副隊長からの報告では,第2撤退地点に全員転送したとのことです。そこから超遠距離攻撃を行っているはずです。ですが,敵の防御バリアに阻まれて,有効な攻撃手段になっていません」


 そんな折だった。緊急用通信魔法石が光った。監視隊員の弟バンデンから緊急連絡が入った。班長は,音声をオンにして起動した。


 班長「どうした?」

 弟バンデン「巨大ゴーレムが敵の手に落ちました。しかもその体が縮小してわれわれと変わらない大きさになりました。動きがとても機敏です!信じられないほどです!

 縮小したゴーレムは,外見はわれわれ人間と同じです。区別がつかないほどです。途中で,殺された仲間の服を奪い取って着ています。ですから,味方と誤解しないようにお願いします!!


 今,そちらの天守閣に向かっています。あっ,今,衛兵が殺されました。あっ,また殺されました。もうすぐ天守閣に着きます!!早く,逃げてください!!」


 この報告を聞いていた全員が,顔を真っ青にした。だが,今は,驚いている暇はない。班長が第一王子に進言した。



 班長「王子,すぐに転移で逃げましょう!」

 第一王子「いや,待て。ゴーレムは,本来,機敏な動きをするものではない」

 班長「というと?まさか,人間の霊体そのものを使っているというのですか? そんなばかな!!」

 第一王子「いや,十分にあり得る。つまり,われわれ人間と同じだ。話せばわかるかもしれん」

 班長「ですが,殺されては,元も子もないです。早く転移で撤退しましょう!」

 第一王子「では,いつでも転移で撤退できる準備をしなさい」


 班長は,魔法石を取り出して,いつでも術を展開できるようにした。


 ゴルージオは,天守閣の中に入った。要所要所で護衛する門兵と交戦し,彼らを一瞬で倒した。ゴルージオは10倍速で動くことができる。しかも,このゴーレムの体は強靱だ。人間の10倍ほどのパワーを持つ。


 ゴルージオは,S級剣士だ。それが10倍もの強靱な体を得た。SS級剣士を超えるほどのスピードと技を身につけたと言っても過言ではない。


 護衛らが構築する防御バリアは,まったく効果がないかのように,ゴルージオの斬撃によって,バリアもろとも一刀両断にされた。この戦いで,天守閣を護衛する5名が死亡した。


 第一王子の部屋には,モニターが数枚あった。そこに,ゴルージオと衛兵が戦う映像が映し出された。


 衛兵隊長「第一王子,見てください。衛兵の防御バリアをものともせず,一刀両断されています。あの剣技は超一流です。あんな剣技は見たこともありません。異常です!!」

 第一王子「こんなことを言っては不謹慎だが,敵ながら見事だ。獣人魂の剣の性能を充分に発揮させている」


 ダーーーン!


 第一王子のいるドアが破壊された。壊れたドアからひとりの剣士が部屋に入ってきた。ゴルージオだ。彼は,部屋の中に3名の敵を発見した。その内のひとりは,派手な軍服を着ていた。ゴルージアはその派手な軍服姿の男に向かって言った。


 ゴルージオ「そなたが,ここのトップか?」

 第一王子「そうだ。第一王子だ。この城の指揮をしている」

 ゴルージオ「了解した。では,お命頂戴する」

 第一王子「しばし待て。あなたの剣技はすばらしい。戦ってもわれわれは負ける。降参する」


 ゴルージオは,降伏するという言葉を聞いて調子が狂った。捕虜を捕まえるというのは,千雪のスタイルではない。


 ゴルージオ「残念ながら,われわれの帆船千雪号に攻撃をした以上,皆殺せよとの命令だ。降参しようが,首を跳ねさせてもらう」

 第一王子「そうか? では,われわれが転移して撤退した場合,もう追ってこれないと思うが,それでも皆殺しできるのかな? 」

 ゴルージオ「さて,どうでしょうか?そんなにあまくないですよ,われわれのリーダーは」


 その言葉を受けて,班長は周囲の魔法探知を行った。そして,彼の顔に観念したような顔つきになった。


 班長「隊長,第一王子,この部屋には,すでに転移防止結界が張られています。転移で撤退できなくなりました」

 第一王子「そうか,,,戦うしか道はないか,,,」


 第一王子は観念したように,ゴルージアに向かって言った。


 第一王子「もう逃げ道はないな。せめて,あなたの名前を教えてくれないか。私は,この国の第一王子のハウラムだ」

 ゴルージオ「ハウラム第一王子ですね。わかりました。その名前,覚えておきましょう。私は,ゴルージオといいます。魔法国出身です」

 第一王子「ゴルージオか。いい名前だ」


 第一王子と班長は剣を抜いてゴルージオと対峙した。このような状況では,魔法攻撃は意味がない。魔法攻撃の動作が行われる間に勝負がついてしまうからだ。接近戦では,剣技の技量で決まる。


 第一王子が衛兵隊長や班長も剣を抜いたのを見て,ゴルージオに勝負を待ってもらうようにお願いした。


 第一王子「ゴルージオ,この試合,ちょっと待ってほしい! ここでの戦闘の責任は私,ハウラム第1王子にある。わたしがあたなと戦うことで十分だろう。これ以上,死人を増やす必要もあるまい。せめて,衛兵隊長と班長を見逃してやってくれないか。国王への報告にいってもらいたい」


 この言葉にゴルージオが言葉を発する前に,衛兵隊長が第一王子に言った。


 衛兵隊長「王子,それはだめです。われわれも一緒に戦います! それに,王子は魔法士です。このような接近戦では,魔法士は不利です」


 そんなこと言われなくても,第一王子は百も承知だ。でも,引くに引けないときもある。


 ゴルージオは,第一王子の潔さに感銘し,彼の提案に同意した。


 ゴルージオ「では,その2名には手を出さないでおきます」

 第一王子「心遣い感謝する」


 第一王子は,指輪の亜空間領域から剣を取り出した。


 第一王子「では参る!」


 第一王子の持つ剣の刃に,5,6体の魔法陣が起動した。何の魔法陣かはわからない。それと同時に,第一王子の体を魔法攻撃防御結界が覆った。


 第一王子は,10m先にいるゴルージオに向かって剣を振るった。それと同時に剣に施された魔法陣も一緒にゴルージオに向かっていった。


 第一王子の剣は,ゴルージオの防御バリアに衝突した。その瞬間,剣に施された魔法陣が発動した。この魔法陣は,いずれも自爆魔法陣だった。


 ダーーーン,ダーーーン,ダーーーン!


 その爆発は,第一王子の剣を破壊した。だが,その破片は,ゴルージオの周囲に展開された防御バリアを貫通することができなかった。しかし,その爆発の勢いによって,ゴルージオを数歩退かせた。


 ゴルージオの体はゴーレムだ。これくらいの爆裂の勢いではビクともしない。第一王子は,すぐさま別の剣を亜空間領域から取り出し,防御が薄れたゴルージオを襲った。


 だが,ゴルージオの動きは,防御バリアに頼る必要はなかった。第一王子の剣を軽々と躱し,その勢いで,ゴルージオの獣人魂は,第一王子の体表にはりめぐらされた防御バリアを破壊して,彼の体を両断した。


 バシュウーー!!


 衛兵隊長「第一王子ー-!!」

 班長「第一王子ー-!!」


 衛兵隊長と班長は,声を挙げてその場で跪いた。


 ゴルージオ「第一王子を討ち取らせていただきました。約束通り,あなた方を見逃しましょう」


 ゴルージオは,死亡した第一王子に一礼をして,天守閣から出て,転移防止結界の外に出た。


 帆船千雪号は,コックピットでゴルージオの戦いの様子を見ていた。千雪が帆船千雪号になんら命令を与えないので,帆船千雪号は自らの判断で,転移防止結界を解除して,ゴルージオに連絡した。


 帆船千雪号「ゴルージオさん,船体の転移防止結界を解除しました。こちらに戻ってください。こちらの現在の転移座標点を送ります」

 

 ゴルージオは「了解」と返事した。


 ゴルージオは,届いた転移座標点を設定して,転移で帆船千雪号内に戻った。

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