第9話 獣人守護神

ー 魔界の獣人国 ー


 獣人国の国王は,気をもんでした。アイラとリブレが地球界に行って,すでに半年が経過した。女王祭が始まるまで,まだ1ヶ月あるにしても,やはり気が気でない。


 前国王は,すでに牢から出されており,国王のアドバイザーとして国王の近くの部屋が与えられていた。


 国王秘書は,国王に落ち着くように言い聞かせていた。


 国王秘書「国王。落ち着いてください。気ばかりあせっていても,どうなるものでもありません。アイラやリブレは,我が国でももっとも優秀な人材です。彼女らを信じましょう。私の胸でも触ってください。少しは気がまぎれるでしょう」


 国王秘書は,国王の手をとって,自分の胸に押し当てた。国王は,国王秘書の豊満な胸を服の上から少し揉みながらいった。


 国王「秘書よ。今は,そんな余裕はまったくない。もう1ヶ月しかないのだぞ。だれか,地球界に行って,状況を確認しに行けないのか?」


 国王秘書は,また国王の心配性が始まったと思った。


 国王秘書「また,魔法国の尊師とコンタクトを取れば可能ですけど。でも,誰がいくのですか?アイラやリブレ以上に優秀な人材は,もう国王か私くらいしかいませんよ。それに,月本語も必要ですよ。一から勉強したのでは,とても間に合いません。


 国王「確かにそうだな。月本語もできないようでは,行っても意味がないか」

 国王秘書「そうですよ。連絡を待ちましょう。まだ1ヶ月もあるのですから。国王,ベッドで少しお休みになられてはいかがですか?」

 国王「そうだな。そうさせてもらおう」


 国王は,隣の寝室に移動して,ベッドで休もうとした矢先だった。暗号通信部の担当者が急いで,国王の執務室に来た。そして,国王秘書に言った。


 暗号通信部担当者「国王は,どちらですか?」

 国王秘書「今,ベッドでお休みになられたわ。何か御用?」

 暗号通信部担当者「暗号が入ってきました。アイラからです」

 国王秘書「え!ほんとなの?」

 暗号通信部担当者「はい。間違いありません。通信内容を読み上げます。『本日,帆船で王宮に着く。アイラ』以上です」

 国王秘書「帆船って何?船?」

 暗号通信部担当者「さあ?ですが,今日,王宮に着くようです。出迎えの準備をしたほうがいいのではないでしょうか?」

 国王秘書「そうね。必要な部署に連絡してちょうだい。国王には,私から連絡するわ」

 暗号通信部担当者「わかりました。衛兵隊,国境警備隊,行政大臣には,急ぎ連絡しておきます」


 国王秘書は,隣の寝室に移動した。国王は,紅茶を飲んでいた。


 国王「何かあったのか?誰かと話していたようだが?」

 国王秘書「はい。うわさの人から連絡がありました」

 国王「アイラからか?リブレからか?」

 国王秘書「アイラが今日,王宮に戻るようです。帆船で王宮に来ると連絡があったようです」

 国王「帆船で?帆船でどうやって来るのだ?」

 国王秘書「わかりません。慌てて,間違って情報を流したのかもしれません」

 国王「でも半年ぶりに来た連絡だ。目的を達成してきたと信じよう。でも,よかった。よかった。これで女王祭には十分に間に合う」

 国王秘書「はい。では,アイラ達の出迎えの準備を整えます。国王も正装に着替えてください。着替え担当のものに連絡しておきます」


 国王秘書は,するべきことをテキパキと対応した。実質,この国は,この秘書が動かしているといっていい。国王は,ただ,国王秘書のいいなりになっているだけでよかった。国王のすることは,ただ,心配するだけだった。


 国王は,昔はそうではなかった。クーデーターを起こしてまで,政権を奪ったのだ。よりよい国にする,という正義感に溢れて政権を獲った。前国王の秘書には,1人の愛娘がいた。彼女の父親は前国王だ。だが,王妃とか妾という立場にはなれなかった。もし,その立場になると,公務を行うことができないからだ。彼女の父親はある有名な貴族ということにした。だが,それは公然の秘密だった。彼女が14歳の時だった。クーデーターが起きて,母親が国王秘書の座を追われた。その代わり,彼女が新国王の秘書の座に就いた。


 彼女が秘書になったことで,政権交代は意外にもスムーズに行われた。彼女は,前国王の秘書の娘であり,かつ前国王の娘でもあるのだ。彼女の言うことなら,反発心も少なく,スムーズに受け入れられた。


 新国王は,意外にもこの国王秘書が『使える』ことを知って,だんだんと仕事を任すようになった。暇になった時間で,妾候補をあさることに費した。


 彼女が16歳の頃だった。新国王は,ついに彼女に手を出した。彼女は,抵抗することはなかった。その頃からだ。新国王は,徐々に彼女に骨抜きにされた。自分で考えることを止めて,国王秘書にどうすべきかを聞くようになった。


 宴会担当者「国王秘書,宴会の準備は進めております。前国王はもちろんですが,前王妃も参加する可能性がありますので,その対応もしております」

 国王秘書「確か,前王妃には,娘が2人いたはずだわ。彼女らも参加することで準備してちょうだい」

 宴会担当者「はい。それと,飛び入りの参加は,何名ほどにしておきましょうか?」

 国王秘書「そうね。10名くらいでいいと思うわ。よろしくね」

 宴会担当者「了解しました」


 国王の正装担当者「国王秘書,国王の正装は,どの形式にしましょうか?最重要レベルでいいでしょうか?」

 国王秘書「前国王の王妃が来る可能性が高いわ。われわれに敵意がないこと,そして最大限に歓迎しているポーズをする必要があるの。最重要レベルの正装でお願いします」

 国王の正装担当者「わかりました。そのように対応します」


 衛兵隊長「国王秘書,王宮の護衛レベルを引き上げました。帆船とは,どういう意味でしょう?帆船が地上を動いて来るのでしょうか?」

 国王秘書「それは分からないわ。でも,帆船らしいものが来たら,攻撃はやめてください。友好的に対応しないといけません。ですが,もし,攻撃された場合は,即座に対応できるようにしておいてください」

 衛兵隊長「任せてください。こちらからは攻撃しません。ですが,最大レベルの防御の準備はしておきます。衛兵500名体勢で万全の防衛体制を敷しておきます」

 国王秘書「はい。それでお願いします」


 行政大臣「国王秘書,前国王の王妃がもし来られた場合,報奨金は,金貨100枚程度でよろしいでしょうか?」

 国王秘書「そうね。それくらいでいいんじゃない?地球界で10年以上も生活してきたので,価値観も変わっているでしょう。前国王と寄りを戻すかどうかも怪しいわ。後のことは,実際に会ってから決めても遅くないでしょう」

 行政大臣「わかりました。では,そのようにさせていただきます。


ー----

 獣人国は,5年前に遷都していた。遷都前の城は,今は,第1皇子の居城となっていた。ある意味で,国王の王城よりも警備は厳重だ。第一王子には,将来的に魔法国に対応すべく,魔法開発と魔力鉱脈の発見と発掘の総指揮をしており,今回の前国王の王妃の帰還については,連絡を受けていなかった。


 このことは,誰が悪いという訳ではない。アイラからの連絡が,曖昧な表現であったこともあるし,急な連絡でもあったことから,国王秘書としても,別の都市にいて,大事な任務にあったている第一王子にまで連絡する必要はないと判断した。


 それは,特におかなしなことではなかった。本来なら,まったく問題にならないことだった。


ーーー

 標高1500mを維持して航海している帆船千雪号の搭乗員で,獣人国の領土に入ってから,興奮気味にコックピットから,地表を見ているのは,主にマリアだった。


 マリア「あらー-,懐かしいわ。獣人国だわ。あの川は,獣人国で一番大きな川なのよ。見てみて,標高3300mの山が東の方角に見えるでしょう。あれはね,白虎山っていうのよ。白い虎の生息地なのよ。ほら,西には,大きな湖があるでしょう。あれはね,,,,」


 マリアは,1人で騒いでいた。アイラやリブレは,百も知っている内容だ。千雪も外の景色など,まったく興味がない。龍子も母親が騒ぐので,付き合い程度に,一緒に見ている感じだ。


 茜も千雪同様,外の景色に興味はない。彼女の一番の関心事は,千雪の愛をどうやって取り戻すかということだけだ。そのために巨乳になったし,お尻も大きくした。AV女優になれという命令もすべて受け入れた。でも,未だに千雪の愛は戻って来ない。


 マリア「千雪様。もう少し進路を左方向に修正してください。速度は,もうちょっと遅くしてもらえるかしら。もっと景色を楽しみたいわ」

 千雪「りょうかーーい。帆船千雪号,マリアの言う通りに運行してちょうだい」


 千雪がすることは,これだけだ。でも,千雪以外に帆船千雪号に命令できる者はいない。だって,帆船千雪号の霊体は,もともと悪霊大魔王の一部だ。そして悪霊大魔王は千雪の奴隷であり,千雪の命令にしか従わない。


 千雪の曖昧な命令に,帆船千雪号が具体的に返事した。


 帆船千雪号「では,10度ほど左方向に進路を変更します。速度は,時速30kmほどに低下させます」 


 マリアは,10年以上も前の王都の場所しかしなない。そして,帆船千雪号は,かつての王城,現在の第一王子の居城へと向かっていた。


 アイラとリブレは,マリアが遷都の事実を知らないことなど,思ってもみなかった。当然,進路に口出しすることはなかった。そんなことよりも,龍子や茜の赤ちゃん相手に言葉を教えたり,一緒に遊んだりすることに忙しかった。



 獣人国は,昔は,魔法国の属国の立場だった。1人の領主がこの地域を支配していた。だが,種族が違うこともあり,自然と魔法国から疎まれて,独立した経緯がある。それは,今から100年も前のことだ。領主は,そのまま国王と名乗り,精霊の指輪は,そのまま引き継がれた。


 独立後,獣人国は,富国強兵政策をとり,人口を増やして,強力な魔法士の育成に力を入れてきた。近年になって,やっと,魔法国並みの戦力を有するようになり,いずれは,魔法国を攻めて属国にするつもりだ。その先頭に立って指揮するのが第1王子だ。


 第一王子,名をハウラム,25歳。魔法の才能に恵まれ,SS級レベルだ。この日も超古代文字の魔法書の解読に時間を潰しており,召喚魔法の解読中だった。


 魔法国でもそうだが,召喚魔法は,ほとんど発達していなかった。尊師が契約獣のネズミを扱える程度であったり,千雪がたまたまゴールデンドラゴンや合体ドラゴンと契約できたりしたが,ほとんどの魔法士は,契約獣をもっていない。


 第一王子は,契約獣を大量に召喚できれば,大幅な戦力のアップになると考えており,その方面に特に力を入れていた。


 そんな折だった。この居城の衛兵隊長が,慌ててやってきた。


 衛兵隊長「第一王子。大変です。領空を侵犯して,この居城に向かって飛んでくる未確認飛行物体を発見しました。現在,監視隊員が,風魔法で遠くから平行して飛んでおり,状況を逐次連絡してくています。どうも空飛ぶ帆船のようです。大きさは,長さ20m,帆船のマストは4本の戦艦型の飛行物体のようです。急遽,迎撃態勢を至急構築しました。第一王子は,至急,高見やぐらに来ていただき,指揮をお願いします。


 第一王子「そうか。こんなところにも,未確認飛行物体が来るんだな。それは,魔法国のものか?」

 衛兵隊長「いえ,われわれの情報網では,魔法国には,あのような帆船型の飛行物体は作られたことはないと思います」


 そう言いながら,服装を整えて,剣を指輪の亜空間領域に収納して,外出する準備を整えた第一王子は,衛兵隊長と共に,急ぎ足で,この居城の門壁の上部に設けられた物見やぐらに急いだ。


 ー---

 物見やぐらでは,望遠鏡で帆船型飛行物体の動向を探っていた。それとは別に,風魔法使いの2名が,この飛行物体と平行して飛んで監視している。


 彼らは,監視するのが仕事だ。今回のような未確認飛行物体はもとより,敵と交戦状態になっても,彼らは,交戦に加わらず,遠くから,その戦況を監視する任務を負っている。


 風魔法使いのバンダンは,弟のバンデンに言った。


 バンダン「この飛行物体は,攻撃型魔法陣を何基も備えているようだ。このままでは,第一王子の居城に行ってしまう。通信魔法石で早く連絡しなさい。この飛行物体を早く撃沈させないと,かなりヤバい状況になるかもしれん」

 バンデン「兄さん,了解。すぐに連絡します」


 弟のバンデンは,通信魔法石で,衛兵隊長に状況を連絡した。衛兵隊長から,もう監視は不要なので,いったん,居城に戻るようにとの指示が出された。兄弟たちは,速度を上げて居城に戻った。


 バンデンは,衛兵隊長と第一王子に口頭で状況を説明した。30km先にゆっくりとしたスピードで,この居城に向かって攻撃兵器を装備した帆船型飛行船が向かっており,すぐに撃沈すべきとの提案だ。



 第一王子「わかった。では,衛兵隊長,指揮を頼む」

 衛兵隊長「了解しました。ただ,発砲の開始の指示は第一王子が行ってください。それと,万一のため,守護神を起動する準備をお願いできればと思います」

 第一王子「あの獣人守護神か?そこまで必要なのか?」

 衛兵隊長「万一のためです。魔法国でも作れないような飛行物体が飛んでいるのです。その魔法科学力は,かなりのレベルと思われます。ですから,我が国の最大武器をスタンバイしておくべきかと思います」

 第一王子「そうか。では,急ぎ,魔力の注入を始めよう」


 第一王子は,獣人守護神の管理担当者にいって,魔法石で魔力を注入するように命令した。この獣人守護神は,居城の横に大きな神殿があり,その中に安置されている守護神だ。全長10mもある大型のゴーレムと思えばよい。その体に頑丈な鎧を着せており,あらゆる物理攻撃を防御することができる。その鎧は,月本国の戦国時代の鎧や兜に似ていた。人を乗せて,操縦するタイプだ。そのため,操縦者のわずかな力で10倍ものパワーが出せるように設計されている。だが,鎧や兜を着ているため,結局は,そのキビキビとした動作が妨げられて,人並みの動作程度にしかならなかった。


 魔法攻撃に対する防御ついては,巨大な防御結界を構築できる。ただ,膨大な魔力を消費するため,大量の魔法石が必要だ。正直言って,第一王子としても,この巨大ゴーレムがどの程度,実用性があるのか不明だ。もっと効率の良い魔法石の使い道があるかもしれないと思っている。


 開発の方向性が正しいのか,間違っているのか彼自身でもよくわからない。今回の戦いでその答えがわかるかもしれないと彼は感じた。


 彼の思考は,衛兵隊長によって中断された。


 衛兵隊長「第一王子,SS級魔法士2名,S級魔法士10名,上級魔法士100名が準備につきました。いつでも攻撃OKです。すでに,飛行物体は,高度を下げて,地表20mの高度で,200m先までに接近しております。これ以上,接近を許せば,大変なことになります」

 第一王子「よし,攻撃開始せよ」

 衛兵隊長「了解しました。全員,飛行物体に向けて,火炎攻撃開始!!」


 ババババババー---,ドドドドドドドドドー----,


 100名の上級魔法士は,10名で1組となり,そのチームのリーダーに魔力を提供する。リーダーは,10人分の魔力を得て,即席のS級魔法士となる。そして,飛行物体に向けて,S級レベルの火炎攻撃を火炎攻撃を行う。この戦法は魔法国の方法だ。第一王子は,いち早く,この戦法を取り入れて,戦力のアップを図った。


 だが,帆船千雪号は,まったくこれらの攻撃を問題にしなかった。接近戦対応の魔法攻撃防御結界と物理攻撃防御結界を3重に敷いている。もちろん,膨大な魔力を消費する。だが,充分にその魔力は蓄えている。これらは,もちろんセンサー式だ。接近戦の場合,センサーは,船体から5m先に構築される。かつ,映像解析により,敵が種々の攻撃をすると判明した場合は,センサーに頼らずに,即座にバリアを形成させるのだ。


 第一王子側からの先制攻撃は,魔法攻撃バリアによって,消散された。


 衛兵隊長は,帆船千雪号に魔法攻撃が効かないことは,充分に予想していた。そこで,すぐに,第一王子に,守護神の起動をお願いした。


 衛兵隊長「やはり,われわれの魔法攻撃では,効果ありません。守護神の出動をお願いします!!」

 第一王子「そうか。獣人守護神の出番か。やむをえまい。獣人守護神を起動せよ。操縦者は,班長に任す」


 傍に控えていた獣人守護神の班長は,ちょっとびっくりした。操縦が一番うまいのは,衛兵副隊長だ。この大事な戦では,当然,衛兵副隊長が操縦するものと思っていた。


 衛兵副隊長「第一王子,私が操縦しなくていいのですか?」

 第一王子「副隊長には別の仕事を任す。魔法部隊を現場で指揮してもらわないといけない」


 衛兵副隊長は,自分が重用されていることにちょっと感動した。


 衛兵副隊長「はい,ありがとうございます。では,獣人守護神のバックアップ体制を敷いて,援護することにします」

 第一王子「そうしてくれ」


 衛兵副隊長は,急いて獣人守護神のところにいって,班長に細かな指示をした。特に,いつでもすぐに転移で逃げれるようにすること,命が最重要であることを徹底させた。



 一方,帆船千雪号のコックピットでは,至極平和であった。帆船千雪号への絶対の信頼があった。多少どころか,どんな攻撃でも防御できるという安心感だ。特に,アイラやリブレは,リスベルと実際にこの帆船の製造に携わっており,その何重にも構成された防御機構には,感動すら覚えていた。


 だが,この船が撃されたことに対して,マリアは敏感に反応した。


 マリア「やっぱり,攻撃されたわ。私の帰国を快く思っていないのね。千雪さん,この国を転覆させてください。私たちが安心して住めるようにするっていう約束だったでしょう?」


 マリアのこの言葉に,千雪は,面倒くさそうに言った。


 千雪「そうね。でも,この帆船の攻撃力は半端じゃないから,あんなお城,一瞬で消し炭にしてあげるわ」


 その会話をたまたま聞いていたリブレは,アイラにいった。


 リブレ「アイラ,あなた,国王に事前に連絡しなかったの?」

 アイラ「連絡したわよ。帆船で帰るって」

 リブレ「帆船で帰る??それで理解できると思うの?アイラ,あなた,王城に転送して,攻撃を食い止めなさい」

 アイラ「えー?今,子供たちと遊んでいる最中よ。行くのいやだなあ」

 リブレ「いいから,すぐ転移しなさい」

 アイラ「はーーい」


 アイラは,しぶしぶ承諾した。


 アイラ「千雪さん,王城に転移して攻撃を止めてもらうようにします。すいませんけど,転移防止結界を一時的に解除してください」

 千雪「わかったわ。お願いねー」


 アイラは,千雪に,転移防止結界を一時的にキャンセルしてもらい,その場から,勝手知ったる王城の転送座標点に転送した。



 ー 王都にある王城 ー

 王城の転移ゲートに到着したアイラは,急いで攻撃しているはずの衛兵隊長を探した。だが,王城はすごく平和であった。アイラはなんか違和感を感じた。急いで,衛兵隊の詰所に駆け込んだ。


 アイラ「衛兵隊長はどこ?」


 ここで言う衛兵隊長とは,当然,国王を守る衛兵隊長のことだ。第一王子を守る衛兵隊長とは異なる。


 衛兵「隊長は,国王秘書と一緒だよ。いろいろと準備をしているよ」

 アイラ「え??今。帆船が来ているでしょう?誰が攻撃しているの?」

 衛兵「何言っているの?帆船って何?船が地表でも走るの?」

 アイラ「ああ,もういいわ。国王秘書のところに行くわ」


 アイラは,国王秘書の部屋に急いだ。


 アイラは,自問自答した。


 アイラ「何かがおかしい。なんだろう?ここに帆船が来ていないようだわ。どうして??訳が分からない」                                      


 アイラは,国王秘書の部屋をノックして,返事を待たずに部屋に入った。


 アイラ「国王秘書,大変です。帆船が攻撃を受けています。急いで止めてください。


 国王秘書は衛兵隊長と一緒にいた。


 国王秘書「あらー-,アイラね。元気でよかったわ」

 衛兵隊長「帆船が攻撃されているって,どういうことだ?」

 アイラ「今,帆船が王城のすぐ近くに来て,衛兵隊から攻撃を受けています。

 衛兵隊長「何?帆船なんて,来ていないぞ?いったいどうやって帆船が来るんだ?まさか空でも飛ぶわけじゃないだろう?」

 アイラ「そのまさかです。帆船は空を飛ぶんです!!」

 衛兵隊長「何?帆船って,空を飛ぶのか?」

 アイラ「はい。そうです。今,衛兵隊に攻撃されています」

 衛兵隊長「何を寝ぼけたことを言っているんだ!どこに帆船が来ているんだ?」

 アイラ「そうなんですよね。ここに帆船は来ていないようなんですけど,今,ほんとうに攻撃されているんですよ,,,


 国王秘書は,ちょっと考えて,アイラに聞いた。


 国王秘書「その帆船って,誰が道案内したの?まさか,マリアじゃないでしょうね?

 アイラ「そうですよ。マリアが道案内していました」

 国王秘書「このばか! マリアは,遷都のこと,知らないのよ。マリアは,第一王子の居城,前国王の王城に向かったんだわ。あそこは,ここよりも兵力が倍以上もあるのよ。それに獣人守護神もあるわ。もしかしたら,それも起動されるわよ」

 アイラ「えー-??じゃあ,どうすればいいの?」

 国王秘書「今,転移魔法で移動するのは危険だわ。すでに戦場になっているでしょう。衛兵隊長,至急に通信魔法石で連絡しなさい。戦闘が始まったら,もう手遅れよ!」

 衛兵隊長「はい!至急に連絡します!」


 衛兵隊長は,第一王子側の衛兵隊長に通信文を送って,なおかつ,音声の呼び出しを行った。だが,まったく応答はなかった。すでに戦闘が始まったようだった。



 ー 第一王子の居城 ー


 魔法士たちは,門壁の上部に横広がりに構えている。逆鶴翼の陣に近い。厚さ5mほどもある分厚い門壁は,ちょっとやそっとの攻撃では,破壊することは困難だ。たとえSS級の爆裂攻撃を受けても,門壁中に埋め込まれている鋼鉄の柱が格子状に組み合わさっており,魔法士の得意な火炎攻撃や爆裂魔法では,効率よく破壊することはできないのだ。


 だが,現在の帆船千雪号は,試作品ではない。攻撃されたら,即座に反撃する体勢をとっている。破壊目標を門壁に設定した。そして,即座に有効な破壊方法を算出した。まず,爆裂魔法によって,門壁のコンクリートを破壊する。次に,露わになった骨格部分を氷結の矢で寸断していく。


 帆船千雪号を覆うバリアの外側に,無数の爆裂魔法陣が起動した。そして,そこから爆裂弾が生成されて,敵の門壁目掛けて発射された。


 ゴゴゴゴゴゴゴー----!シュパーー-,シュパーー--,!ドーーン,ドーーン,ドーーン!!


 無数の爆裂弾が門壁のコンクリートを粉々に粉砕していった。そして門壁の鋼鉄の躯体がむき出しになった。そこへ,無数の氷結の矢およびが形成されて,その躯体を貫いていった。


 ゴゴゴゴゴゴゴー--,ピュー,ピュー,ピュー,ピュー,ダン,ダン,ダン,ダンー--


 その威力は,SS級というレベルをはるかに超えるものだった。支えを無くした門壁は,粉々に砕かれてしまい,総崩れになった。


 バキャーー!!バキャーー!!バキャーー!!


 門壁の上部にいた魔法士たちは,即座に転移で居城の中庭に退避して,爆裂魔法の発動の準備をした。


 衛兵副隊長「とにかく,獣人守護神が起動するまで時間を稼ぐ。全員,鶴翼の陣をとり,爆裂弾を発射せよ!」

 隊員隊「了解しました!」


 隊員隊は,10名の上級魔法士で1チームとなり,そしてS級,SS級魔法士らが,鶴翼の陣形をとって,一斉に帆船に向かって,爆裂魔法陣から生成された爆裂弾が帆船を襲った。


 ドーーン,ドーーン,ドーーン!


 それらは,船体の周囲に張られた魔法攻撃防御バリアによって,ことごとく阻止された。そのバリアの上部に新しく火炎魔法陣が無数に出現した。それを見た衛兵副隊長がすぐに反応した。


 衛兵副隊長「やばい!全員,至急退避!!」

 衛兵隊「了解!」


 無数の火炎魔法陣から火炎が衛兵隊に向かって発射された。それらの火炎は,まさに衛兵隊の残像を貫いた。そうなのだ。衛兵隊は,強力な火炎攻撃が当たる前に,転移で逃げることができたのだ。


 帆船千雪号は,このバトルをしている間に,徐々に高度を下げて,地表に着地した。そして,いつでも炎氷混竜激派が発射できる体勢を整えた。


 一方,衛兵隊長は,獣人守護神を起動するのに忙しかった。魔力を備蓄するノウハウがなく,そのまま魔法石を守護神の体内に入れ込む作業に忙しかった。


 衛兵隊長「班長,あとは私がやるから,早く,操縦席に乗り込みなさい」

 班長「はい。では後,お願いします」


 班長は,獣人守護神の操縦席に乗り込んだ。この獣人守護神は,有人による操作だ。無人でも可能なのだが,核となる霊体の抜け殻では,細かな動作を制御することが困難だ。もう少し,自動制御魔法陣の開発が必要だ。操縦席は,胴体部にある。


 自分の体を操作魔法陣と一体にして,この獣人守護神である巨大ゴーレムを動かす。物理攻撃を防御する鎧と兜,そして,魔法攻撃を防御する魔法攻撃防御魔法陣は,いつでも構築可能だ。


 この獣人守護神の武器は,長さ1m50cmほどの片刃の剛剣だ。何重もの硬化魔法によって,ダイヤモンドよりも3倍ほど硬い硬度を有している。その硬さは,獣人守護神を覆う鎧や兜にも使用されている。200名以上もの魔法士が,何年もかけて硬度を硬くしてきたのだ。ちょっとやそっとの魔法攻撃や物理攻撃ではびくともしない。獣人国の誇りの結晶だ。実践での使用は今回が始めてだ。                               


 班長「隊長,こちらは準備OKです」

 衛兵隊長「こちらもOKだ。充分に魔法石を詰め込んだ。だが,魔力は無駄使いするな。もし,鎧や兜が破壊されたら,すぐ転移で逃げなさい。命を最優先で守りなさい」

 班長「了解です。敵が降参の合図を出したら,攻撃を中止していいですね?」

 衛兵隊長「これは戦争だ。相手の素性は不明だ。そうである以上,攻撃の中止はないものと考えなさい」

 班長「確かにそうですね。了解です!」

 衛兵隊長「よし,では出撃せよ。帆船を破壊せよ!」

 班長「了解ーー!」


 班長は,獣人守護神を起動させた。獣人国の魔法士達が精魂込めて作り上げた獣人国最高の武力だ。これで負けたのでは,もう獣人国は陥落したも同然だ。獣人守護神は,ゆっくりと居城の中庭を通過して,破壊された門壁の残骸を踏みつぶして,居城の敷地を出た。敵の帆船は,200m先に停止していた。


 班長は,獣人守護神の体表に魔法攻撃防御結界を起動させて,駆け足で,帆船に向かった。帆船まで,2分もあれば着く距離だ。


 帆船は,すでに映像魔法陣で敵を認識した。獣人守護神が100mまで接近したところで,帆船千雪号の最大の武器である炎氷混竜激派が1発発射された。


 ドーーーン!


 その炎氷混竜激派は,獣人守護神の魔法攻撃防御バリアに衝突した。


 バババババ!!!


 炎氷混竜激派は,魔法攻撃防御バリアを破壊した。そして,火炎の部分は,完全に打ち消されたものの,氷結の弾丸は,このバリアを突破して,獣人守護神の鎧に直撃した。


 ドドドドドドドドド!!!


 獣人守護神の鎧は,氷結の弾丸をすべて跳ね返した。まったくの無傷だった。炎氷混竜激派をもってしても,獣人守護神を倒すことはできなかった。この時,始めて,帆船千雪号のコックピットで,アラートがなった。


 帆船千雪号「敵が攻めてきます。炎氷混竜激派でも倒すことはできません。最大の物理攻撃防御バリアを3重に張ります。ですが,万一のため緊急回避を行います」


 帆船千雪号は,ゆっくりと地表から離れ始めた。地表から3mほど上昇したところで,獣人守護神に追い付かれた。獣人守護神は,上段の構えから,剣(獣人魂)を真上から船体を切りつけた。


 ダーーーン!


 獣人守護神は,第1層の物理攻撃防御バリアを破壊した。その勢いは止まらず,第2層の物理攻撃防御バリアをも破壊した。


 バリーン!バリーン!


 そこでやっと勢いが弱くなり,第3層の物理攻撃防御バリアで食い止められた。獣人守護神の攻撃は,残念ながら,ここまでだった。さらに上昇を続ける帆船千雪号を見上げる以外に何もできなかった。


 帆船千雪号は,上昇と同時に,爆裂魔法陣を起動して,爆裂弾を獣人守護神に向けて発射した。


 だが,爆裂弾は,魔法攻撃防御バリアによって防御された。爆裂魔法陣から発射される爆裂弾は,10秒程度の間隔をおいて継続的に発射された。明らかに持久戦ねらいの戦法だ。帆船千雪号の魔力攻撃と獣人守護神の魔力攻撃防御バリアのどちらが持続するのかという戦いだ。


 この答えは明らかだった。圧倒的に帆船千雪号に軍配があった。獣人守護神の魔力攻撃防御バリアは,3分と持たなかった。もともと,1,2分持てばよいという設計だ。その間に敵を倒せばいいだけのことだ。


 帆船千雪号は,獣人守護神の魔力攻撃防御バリアの消失を見て,すぐに再度,炎氷混竜激派を発射した。


 ドーーーン!


 その炎氷混竜激派は,獣人守護神の鎧をたやすく破壊した。


 ババーーン!


 さらに,獣人守護神の本体までが一部にヒビが入ってしまったのだ。操縦席の班長はここであきらめた。すぐに転移して,獣人守護神をそのまま放置して逃げた。


 ズドーーーン!!!


 獣人守護神は制御を失って,その場に倒れた。


 獣人守護神を倒した帆船千雪号は,その報告をした。


 帆船千雪号「敵の巨大ゴーレムを倒しました。操縦者は転移で逃走しました。敵の巨大ゴーレムは,今,操縦者がいない状況です。ゴーレムの制御魔法陣を書き換えれば,われわれの味方にすることもできます。どうしますか?」


 千雪やマリアや龍子は,外で行われている戦闘にはあまり感心がなかった。この帆船は,絶対に負ける訳がないと高を括っていた。


 事実そうだった。千雪は,コックピットから外を眺めて,地表に倒れている巨大なゴーレムを見て,一言いった。


 千雪「あのゴーレムを1m80cmくらいの高さにしてよ。それだったら,味方にしてもいいわ」


 帆船千雪号「了解しました。合体魔法を起動して縮小させましょう。ですが,ゴーレムを支配するのに霊体の抜け殻が必要です。提供お願いします」


 千雪は,霊体の抜け殻を入れた青色の瓶を取り出した。でも,ちょっと考えて止めた。千雪は悪霊大魔王に命じた。


 千雪「大魔王,男で剣技に達者な霊体を選んでちょうだい。ゴーレムを操作するためよ」

 悪霊大魔王「お安いご用です」


 暫く経ってから,悪霊大魔王から返事があった。


 悪霊大魔王「千雪様,選定が終わりました。その者は名をゴルージオと言います。剣士としても魔法士としてもS級レベルの優秀な戦士でした。でも,なぜか運が非常に悪い男でした。千雪様との戦闘でも,千雪様と正式に戦って死んだのなら本望だったでしょう。でも,戦いの前日に食べた食事に当たってしまい,下痢になってしまいました。


 戦闘中に,急遽トイレに向かったのですが,運悪く味方が放った爆裂魔法に当たってしまい,その場で死亡しました。


 当然,無念を抱えてしまい,霊体輪廻から外れてしまいました。その後,いろいろあって,悪霊大魔王の一部になってしまった訳です。そんな彼でも,千雪様のお役に立てるのであれば,心機一転,心を入れ替えて全力でことにあたりたいとのことです」


 千雪「ふふふ。悪い運は使い果たしたようね。じゃあ,今回は,いい運だけしか残っていないと思うわ。じゃあ,そのまま指輪の中で待機してちょうだい。準備ができたら,また連絡するわ」


 千雪は帆船千雪号に返事した。


 千雪「帆船千雪号,霊体の抜け殻じゃなくて,霊体そのものを準備したわよ」

 帆船千雪号「わかりました。では,リスベル様から,いろいろな魔法を教えていただきましたので,それを発動させます」


 帆船千雪号から,合体魔法陣が起動されて,巨大ゴーレムに発射された。そして,巨大ゴーレムは縮小していき,大きさが1m80㎝のゴーレムに変形した。ゴーレムといえど,外見は人間そのものだった。顔もハンサムは男性の顔だ。しかし,残念なことに,髪がなく丸坊主だった。


 帆船千雪号「千雪様,身長1m80mのゴーレムにしました。あとは,胸の部分にある霊体収納核に,霊体をはめてください」

 千雪「えーー?それって,わたしが船から出ていって,ゴーレムのところに行けってこと?」

 帆船千雪号「はい,そうです」

 千雪「・・・」


 確かに,この仕事は千雪にしかできなかった。


 千雪「じゃあ,行くことにするけど,わたしが攻撃されないようにしてね?」

 帆船千雪号「はい,今なら,ゴーレムの周囲に誰もいませんので攻撃されないと思います」

 千雪「わかったわ。転移防止結界を解除してちょうだい」

 帆船千雪号「了解です」


 転移防止結界が解除されたのを確認した千雪は,転移で縮小したゴーレムのところに出現した。そして,千雪のしている指輪を,ゴーレムの胸の部分に当てた。そして,指輪の中で待機している霊体のゴルージオに命じた。


 千雪「ゴルージオ,この胸の部分にある霊体収納核の中に入りなさい。後は,自分でなんとかしなさい」

 ゴルージオ「千雪様,了解しました。千雪様のために,全身全霊をかけて頑張りたいと思います」

 千雪「ふふふ。期待しているわよ」

 

 ボァーー!


 指輪の中からゴルージオの霊体が出現し,ゴーレムの胸の中に入っていった。その霊体収納核にぴったりと収まるかどうかは不明だ。でも,悪霊大魔王として揉まれた霊体は,すべからくどのような形状の霊体収納核に適合できる能力を持っている。千雪があれこれサポートする必要はない。


 そうこうしている間,帆船千雪号は,ゴーレムの背面に,魔力授受魔法陣を刻み込んだ。これによって,船体から魔力をゴーレムに供給できるようにした。


 作業を終えた千雪が,船内に転移で戻ってきた。それと同時に,帆船千雪号が千雪に作業終了の報告をした。


 帆船千雪号「ゴーレムの改良を完了しました。ゴーレムへの命令をお願いします。千雪様の命令は,わたしから魔力供給魔法陣から提供される魔力に,千雪様の命令を載せて伝えることができます。

 また,ゴーレムには,カメラ映像魔法陣も設置していますので,ゴーレム目線で,コックピットのモニターに映像を映し出せます」


 千雪「あらら,最先端のゴーレムって感じね。いいわーー。全裸なところもいいわ。セクシーだしね」


 一方,霊体のゴルージオは,久しぶりに自分の自由意志で動く体を手に入れた。魔力は,船体からいくらでも供給される。これなら,SS級以上の剣技を振ることも,SS級の魔法攻撃を行使することも可能だ。しかも,人間の動きの10倍高速に動かせることもできた。


 これは,獣人国が長年研究してきた成果といえよう。体全体が高速に動けるように各部分の動作魔法陣に,改良に改良を重ねてきた結果だ。もともと人間が操縦するという前提で設計するため,その改良は比較的に短期間にできた。


 ゴルージアは,さすがに全裸では恰好が悪いと思ったので,千雪に服を提供してもらうように念話で連絡しようした。しかし,念話が届く距離ではなかった。


 すると,帆船千雪号から命令が届いた。


 帆船千雪号「千雪様の命令を伝えます。城内の衛兵をすべて倒しなさい」


 この命令に対して,「了解」と返事しようとしたが,念話以外に千雪や帆船千雪号に伝える手段はなかった。


 ゴルージオは,足元に横たわっていた剣の『獣人魂』を持ち上げで,しばし,眺めて独り言をつぶやいた。


 ゴルージオ「これはいい剣だ。長年鍛え上げてきた技ものといえる」


 ゴルージオの支配したゴーレムの体には,全身に魔力攻撃無効化結界が発動している。魔力がいくらでも供給されるので節約する必要はない。


 ゴルージオは,天守閣のほうに向かった。一方,帆船千雪号は,熱探知魔法を広範囲に展開して,敵の所在を追跡中だった。


 帆船千雪号「敵の魔法士約100名の居場所を特定しました。天守閣の南側300メートルほどの広場に退避したようです。これ以上,転移で逃げれないように,その周囲に転移防止結界を構築します。その後,爆裂弾,火炎攻撃,氷結攻撃を断続的に実施します」


 帆船千雪号が発見した100名ほどの魔法士は,衛兵副隊長が率いる魔法部隊だった。転移で退避したので,ひとまずは危険が去ったと一安心しているところだった。だが,その一安心が命取りだった。

 

 帆船千雪号は,千雪の承諾を得ずに魔法を展開した。


 ピューン!ピューン!ピューン!ピューン!


 約100名の魔法士の周囲に,四角い箱が覆うように,側面の4面と天井面に転移防止結界が瞬時に構築された。瞬時に構築するには,SS級魔法士レベル,もしくはそれ以上の魔法士が,少なくとも5名必要だ。しかし,帆船千雪号にとっては,まったく歯牙にもかけないレベルだ。


 ダーン,ダーン,ダーン,ダーン!


 転移防止結界が構築された直後,強力な爆裂弾,火炎そして氷結の矢が結界内に閉じ込められた約100名の魔法士を襲った。


 彼らは,魔法攻撃防御結界でこれらの攻撃を防いだ。だが,起動できてもせいぜい3分が限界だ。おまけに非力な防御結界では,すぐに突破されてしまった。


 帆船千雪号の攻撃魔法は,SS級魔法士のレベルを超えるものだ。SS級魔法士が何人もいたとしても,すでに死刑を待つ囚人と化した。


 ギャアーー,ギャーーーー,ギャーーーーーーーーー,ウワーー!!


 次から次へと犠牲者が増えていった。そして,,,死体の山がそこに残った。



 帆船千雪号のコックピットにはリブレもいる。彼女は何かおかしいと感じた。アイラが転送して時間が経つのに,もうそろそろ何らかの反応があっていいはずだ。リブレは通信魔法石を見たが,そこには何の連絡もなかった。


 リブレはだめもとでアイラに一通のメールを送った。「どこで何しているの?」という内容だ。


 傍から見ると,まったく意思疎通の悪い状況が続いていた。戦わなくていい戦いが継続していた。


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