第5話 霊珠の指輪,魔界への準備

 霊珠の指輪が千雪に,これまで千雪を助けたことへの見返りとして正式に依頼するのは始めてのことだ。間接的には尊師やリスベルからも聞いていたが,とうとう指輪は,正式に,千雪に依頼した。


 霊珠の指輪「千雪よ。我は,霊珠の指輪の精だ。われわれは,30年に一度,人型に変身できる。そして,精霊国に戻り,女王との交配争いに参戦するのが決まりだ。だが,15年前の魔法国の王によって,指輪を粉砕されて,噴水の池の中に捨てられた。


 だが,私は死んでいなかった。徐々に修復をしてきた。2年ほどかけて,やっとリングの形を取り戻した。そして,尊師に拾われたのだ。いや,尊師が噴水の傍を通ったとき,私が声をかけた,と言ったほうが正解だ。尊師は,私を拾い上げてくれた。ちょうど,尊師が辺境の討伐に行く前だった。その後のことは,尊師から聞いたことがあるだろう。


 私は,千雪を救った。魔法国に来てから4ヶ月目の最初のギルドでのパーティで参加した時だ。雷撃を受けて殺されるのを救った。


 その見返りを要求する訳ではないが,わたしの依頼を聞いてもらえると嬉しい」


 千雪に断る理由はない。命を救ってもらった礼だ。当然その依頼には答えるのが礼儀だ。


 千雪「もちろん,あなたのお願いをきくわ。なんでも言ってちょうだい」

 霊珠の指輪「それは,ありがたい。すでにリスベルには,それとなく啓示を与えて,精霊国にいくための船を準備させた。それに乗って,精霊国に向かってほしい。本来なら,私が人型に変身して,女王との交配争いに参戦するところだ。


 しかし,残念ながら,まだ,変身できるほど指輪が修復できていない。それで,私の指輪の複製体を準備する。それをはめて,私の名代として参戦してほしい。このオリジナルの指輪は,月本国に残る誰かに預ければいいだろう。


 これは,精霊国の民としての義務だ。参加しないと,民としての資格を失い,私の寿命は尽きてしまう」


 この説明は,あまりよくわからなかったが,要は,精霊国に行って暴れればいいということを理解した。


 千雪「わかったわ。要は,参戦して,人型になった指輪の精霊をやっつればいいのね?」

 霊珠の指輪「そうだ。だが,参戦といっても,すでに形的なものになっている。いまは,順番制で,誰が交配するかがきまっている。今回は,ちょうど私が交配する順番だ。だから,千雪よ。千雪は,男として参戦して,女王と交配してほしい。その巨大な胸は,リスベルの合併魔法で,小さくしなさい。千雪が参戦することで,もしかしたら,いろいろと文句がでるかもしれん。だがうまく躱してほしい。精霊国への道は,マリアがしている指輪の精が知っている。あと1ヵ月もすれば,複製体の指輪が人型に変身するはずだ。彼に聞いてほしい。あっ,そうか,彼は女体で出現するかもしれん。精霊は両性だから,どっちにも変身できるから」


 千雪「あら,そうなの?マリアの指輪も精霊の指輪なの?」

 霊珠の指輪「そうだ。獣人国で唯一の精霊の指輪だ。私とは仲のいい友人だ。もっとも他に友人はいないがな。ハハハ」

 千雪「あなたは友人がいないのね。可哀そう」

 霊獣「でも,千雪よりはましだ。千雪は1人の友人もいないのではないか?」

 千雪「昔はいたわ。それに,今は仲間がいるわ。ハーレムには,たくさんの子供だっているのよ。あなたより,よっぽどましよ」

 霊珠の指輪「千雪の仲間といっても,恐怖の支配だろう? 長続きせん。いずれ破綻する」

 千雪「そんなことないわ。太一には,また,どこかの国をプレゼントしてあげる予定よ。徹底的に恐怖で支配すると思うわ」

 霊珠の指輪「・・・,まあ好きにしなさい」


 霊珠の指輪は,その場で複製体の指輪を生成した。千雪は,複製体の指輪を中指にはめた。


 千雪「これが複製体の指輪ね? ちょっとだけ形が美しい感じだわ」

 霊珠の指輪「その複製体に,今あるすべてのパワーを送り込んだ。空間収納のパワーも,その中身も,その複製体の指輪に引き継いでいる」

 千雪「わかったわ。じゃあ,女王との交尾,任してちょうだい」


 千雪は,簡単に依頼を遂行できると思って,自信たっぷりだった。

 


 翌日,千雪は,千雪御殿に住む幹部連中全員を呼んで宣言した。


 集まったのは,魔界の魔法国出身のサルベラ,カロック,メーララ,魔界の獣人国出身のマリア,龍子とその赤ちゃん,茜とその赤ちゃん,アイラ,リブレ,千雪のラブドールを母体にしたホーカ,月本国の連中でいうと,男性自身を失ったままの霊力使いハルト,カロックを愛してしまったアカリとその赤ちゃん,AVやラブドール方面の金儲けを企んでいるリンリン,最後に,役立たずと噂されている秘書の香奈子だ。


 SART(特殊攻撃機動隊)出身の美月,美桜,美沙の3名は,メーララが教祖を務める教団の幹部をしているので,この会議には参加していない。成美博士は弟子たちを連れて,一旦,警視庁に戻っていた。

 

 千雪「千雪は,明日,この世界を去ります。そして,魔法国,獣人国そして精霊国にいきます。一緒に行くのは,マリア,茜,龍子,そして,アイラ,リブレになります。太一は連れていきます。母親の義務ってやつね。帰ってくるのは,,,そうね,,,3ヶ月後くらいでしょうか?」


 千雪に帰る予定などわかるはずもない。適当に3ヶ月と言ったまでだ。


 千雪「それで,一緒に魔界に行きたい人は手を挙げなさい」


 この言葉に,真っ先に反応したのはアカリだ。彼女はすぐにカロックの膝をつねった。その意味は,決して手を挙げるなという意味だ。カロックとアカリの反応を見たサルベラも,魔界に行かないことにした。今,サルベラとカロックは,ちょっといい関係になっている。うまく,アカリの目を盗んで逢い引きできるかどうかの瀬戸際だ。


 メーララは,魔界などに何の未練もない。今は,うまく教祖として軌道に乗っている時期だ。それに,以前,リスベルに何度も犯された時に,体内に残されたリスベルの魔法因子を使って,妊娠させたばかりだ。今が大事な時期だ。大事を取って,大人しくするに限る。


 そうなると,魔界に行くメンバーは,自ずと決まってくる。必ず行かなくてはならないメンバーは,千雪と長男の太一,マリア,茜とその赤ちゃん,龍子とその赤ちゃん,そして,アイラ,リブレだ。でも,千雪は,太一の子守がほしかった。そこで,千雪は,香奈子に命じた。


 千雪「香奈子,お前も一緒に行くのよ」


 香奈子にとっては,青天の霹靂だった。


 香奈子「えーー?ど,どうしてわたしなんかが行くんですか?魔界語だって分からないし,何の力もありません!」

 千雪「これは,決定事項です」


 千雪は,太一に向かって言った。


 千雪「太一,あのお姉ちゃんが,あなたの世話をするわよ。これから,寝る時も,お姉ちゃんと寝るのよ」

 太一「あーーい」


 太一は,生まれたばかりなのに,千雪の言葉を理解して返事した。千雪は,授乳を済ませた太一を香奈子に投げるように渡した。


 千雪「香奈子,お前の仕事は,太一の世話よ。それくらい頑張りなさい!」


 香奈子に拒否権はない。


 香奈子「・・・,はい,,,」


 太一の件を片付けた千雪は,霊珠の指輪のオリジナルをホーカに渡した。


 千雪「この霊珠の指輪のオリジナルは,ホーカに預けます。よろしくね」

 ホーカ「それくらい,ぜんぜん問題ないわ」


 その後,いくつかの引き継ぎ事項を説明していった。引き継ぎと言っても,実質,サルベラたちが残るので,まったく問題ないし,サルベラたちにとっても,千雪がいないほうがせいせいするし,世の中,より平和になる。

 

 

 翌日,出発する時が来た。


 改めて魔界に行く人員は,千雪と長男の太一,太一の世話係の香奈子,マリア,茜とその赤ちゃん,龍子とその赤ちゃん,アイラ,リブレだ。アイラとリブレは,妊娠している可能性はあるものの,まだはっきりしていない。お腹の膨らみはまだない。


 千雪だけが男の子の赤ちゃんで,龍子と茜の赤ちゃんは,女の子だった。千雪の子供は,本来,女の子しか生まれないはずだ。その意味では,千雪が男の子を産んだのは,まったく異常だ。でも,そのことに対して,疑問を感じる千雪ではない。


 千雪の複製体である霊珠の指輪の亜空間領域には,シャーク千雪号と帆船千雪号の2艘が収納されてある。どちらも,魔力満タンな状態で,魔力の供給がなくても1ヶ月ほどは運行可能だ。


 千雪は,魔界に行く前に,自分の超巨大なおっぱいを小さくすることにした。同時に,マリアたちにもそれを強いることにした。魔界にいけば,戦闘の連続だと予想されるからだ。


 千雪は,リスベルから教えてもらった変形合体魔法陣で,巨乳内の細胞を融合させることで,おっぱいをEカップレベルにまで小さくした。また,千雪の男性自身も通常サイズに戻した。お尻の大きさも動きやすい大きさに戻した。


 魔法国にいくには,アイラが持つ時空亀裂魔法石を使うという方法もあるが,千雪は,指輪にお願いすることにした。そのほうが安心できるからだ。それに,指輪の依頼で魔法国に行くからだ。


 千雪「指輪さん。では,まだ少々時間がありますが,一足先に魔法国に行きたいと思います。精霊国に行く前にいろいろと準備がありますので。私たち7名と3人の子供たちを連れていきます。


 全員一緒に魔法国に連れて行ってください。場所は,前回と同じ,尊師のいた道場です。よろしくお願いします」


 指輪は,ボーっと光を放った。そして,7名とその子供たちは,捻じれた空間に引き込まれて,魔法国の尊師の道場に時空転送された。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る