第4話 必殺の雲隠れ技
ー本部作戦室ー
本部担当「本部長,麦国駐屯本部から通信がきています。スピーカーに流しなす」
麦国駐屯本部総長「わたしは麦国駐屯本部総長です。麦国の超高温兵器では,撃沈させることはできなかった。当国では,残念ながら,これ以上の協力は困難だ。これ以上,火力のレベルを引き上げると,地表の住民に甚大な被害が出てしまいます。それは,貴国も望まないことでしょう」
本部長「わかりました。これまでのご協力,感謝申し上げます」
本部担当は通信を切った。そして,本部長に今後の対応を聞いた。
本部担当「本部長,どうしますか?このまま,放置するのですか?」
本部長「首都防衛圏80kmを超えると,3発しかないが,超電磁砲が発射される。それが最後の切り札だ」
本部担当「治安維持の特殊部隊α隊に問い合わせてみるのはどうでしょう?千雪グループがからんでいるのであれば,なんらかの反応があるかと思いますが」
本部長「そうだな。よし,回線を繋げ」
本部担当は,α隊隊長に回線をつないだ。
本部長「α隊隊長,国防本部のホンゴウだ。急に電話してすまん。現在,首都防衛圏120km地点に,UFO,空飛ぶ帆船が高度1500m,時速100kmで首都圏に向かって運航中だ。これまで,地対空ミサイル,国産初のウルトラ・スーパー・ビーム砲,麦国の超高熱弾道弾,超電磁砲を試したが,撃沈には至っていない。このUFOは,魔法の力で稼働しているようだ。もしかすると,千雪グループが関与している可能性が高い。すまんが,千雪グループにコンタクトして,もし,関与していれば,即刻,運航の中止を依頼してくれ。もし,関与していない場合,撃沈できるならば,協力要請をお願いしたい」
α隊隊長「なるほど。了解した。千雪グループには,わがチームの隊員で10号が常勤している。至急,情報を取る。分かり次第,連絡する」
ー千雪御殿ー
茜は,隊長からの至急の連絡で,急ぎ千雪の部屋に出向いた。千雪は,ちょうど,長男を産んだばかりだ。この子に授乳している時だった。巨大な乳房をしているため,授乳も市販のミルクをまったく使う必要はない。長男は,知らず知らずのうちに,霊力を微量含んだミルクを飲まされてきた。そのため,赤ちゃんの時から,霊力を保持するための核ができてしまった。長男は,千雪の足元で遊んでいた。そして,茜をみると,母親の千雪を守るため,千雪の周囲に霊力の結界を張った。そのレベルは,まだ初級にも達していない弱弱しいものだったが,生後間もない赤ちゃんが,結界を張るなど,魔界でも前代未聞のことだ。
千雪「太一,この人は敵ではないのよ。結界を解除しなさい」
太一「うううう。ママー-」
太一は,千雪の言葉の意味を理解した。そして,弱弱しい結界を解いた。太一はあまりに早熟だった。
千雪「茜,何の用?」
茜「隊長から至急,確認してくれって。空飛ぶ帆船は,千雪さんが飛ばしているの?もし,そうなら,至急運航をやめって言ってた。もし,違うなら,帆船を撃沈するの手伝っていってた」
千雪「そうなの? どうするかなーー。YesともNoとも言えるなーー。リスベルがしていることだけど,彼に聞くわけにもいかないし,,,」
リスベルは,千雪の中にいるのに,彼に聞くこともできない,,,なんとも,奇妙な関係だ。
千雪「でも,帆船を攻撃すれば,その防御力が判明するわね。じゃあ,マリア,アイラ,リブレ,サルベラ,カロック,ホーカを至急呼んできて。作戦会議よ。
6名のウルトラ魔力持ちがすべて集合した。この連中が本気になれば,地球のすべての国は,彼らにひれ伏すことになる。
千雪は,集まった6名に状況を説明した。そして提案した。
千雪「この帆船を撃沈するのに協力するわ。われわれが撃沈できるくらいなら,魔法国や獣人国の上空を飛んでも,すぐに撃沈されてしまうわ」
サルベラ「それはいいとして,だれが撃沈しにいくの?風魔法で追い付くにしても,結構,大変よ」
アイラ「設計図があるけど,転送座標点が設置されているから,転送は可能よ」
リブレ「でも,それはダメよ。実践ではそんなことはありえないわ。それを使わないで,内部に入るなら別だけどね」
この話を聞いて,ホーカが率先して手を挙げた。
ホーカ「それなら,私くらいしか適任者はいないわね。この体は,もともと人形なんだし,霊力を駆使して本物に近づいてはいるけどね。もし,反撃されて,この体を失っても,代わりの肉体を見つけることは容易だわ」
このホーカの提案に,千雪は同意した。
千雪「じゃあ,すぐに飛んでくれる? 内部に侵入できるかどうかがポイントよ。容易く内部に侵入を許すような帆船なんていらないわ。内部への侵入に成功したら,帆船の横帆が要の魔法陣よ。そこを焼けば撃沈するはず。これが帆船の位置を示す羅針盤よ。これを持って行って」
ホーカは,羅針盤を受け取って,ニコッと笑った。
ホーカ「じゃあ,出発しますね。後のことはよろしく!」
ホーカは千雪御殿の屋外に出て,風魔法で魔法陣帆船に向かって飛行した。茜は,急ぎ,α隊に状況を説明した。『千雪さんモドキが高速で空飛ぶ帆船を追撃開始し,撃沈する予定だ』と」
その情報は,すぐにα隊長経由,防衛本部作戦室に届いた。
本部作戦担当「本部長,千雪グループが撃沈に向かったそうです」
本部長「そうか。もうすぐ首都防衛圏の80kmに達する」
本部作戦担当「あ,映像見てください。超電磁砲2発が発射されました。標的に被弾。でも,バリアに防止されました。まったくの無傷です」
本部長「やはり,そうか。その都度,対策をとってくるようだな」
本部作戦担当「あ,見てください。人が飛んでいます。千雪グループの人だと思います。UFOとの距離1500mです。1400m,1300m,1200,1000mです。あ,UFOがバリアを張りました。人がさらにUFOに接近しています。あ,消えました。消えました。これはいったい??」
本部長「わからん。どういうことだ?」
本部作戦担当「あ,バリアが消えました。帆船の横帆が燃え出しました。あああーーー,帆船が薄くなりました。あああ,消えます。消えましたーーーーーーーー」
本部長「ふーー。今回は,千雪グループによって助かったか」
本部作戦担当「あの帆船は,千雪グループとは関係がないのですね」
本部長「表向きはそうだな。自作自演ということもありうる」
本部長は,今回の件では,十中八九,千雪グループが絡んでいると睨んでいた。
ー千雪御殿ー
茜「隊長から連絡があって,できれば,国防作戦本部で打ち合わせしたいって」
千雪「では,α隊支援要請に答えましょう。国防軍の状況もわかります。打ち合わせには,サルベラとカロックが,茜と一緒にいまからいってほしいわ。われわれは,いっさい,この帆船とは関係がない。そして全力で帆船を撃沈することに協力する,というポーズをとってね。
そうすれば,帆船は,その対策を織り込んで,ますます強固になるはず。まだまだ,赤ちゃんレベルの帆船ですから」
サルベラ「まあ,しょうがないわね。その帆船で魔法国や獣人国に乗り込むのですから,われわれが攻撃したくらいで撃沈されては困りますしね。
茜は,サルベラとカロックを連れて,国防作戦本部を訪問した。そこには,本部長のほかに,α隊隊長やピアロビ顧問もいた。
本部長「忙しいところ,ご足労をお願いして申し訳ない。現在の状況を説明します。
本部長は,これまでの経緯を説明した。空飛ぶ帆船がこれまで3回出現したこと。その都度,防御力をアップしてきて,この3回目ですでに,どの兵器でも撃沈することが困難になったことを説明した。今後,魔法力を有する千雪グループに依頼するしかない状況だ。この協力関係は,友好条約の範囲内だ。相互協力の一環だ。
ピアロビ顧問「この魔力で飛行する帆船ですが,かなりの高水準の魔法陣によるものです。膨大な魔力を常に供給されているはずです。われわれの高純度魔力結晶を使わないでの運航となると,われわれの知らない未知の方法が使われている可能性があります。大変興味深いですね。破壊するのはもったいない気もします」
本部長「興味を持つのは結構だが,首都防衛が最優先です。千雪グループの方々は協力いただける,という理解でよろしいのですか?」
サルベラ「協力しましょう。政府との友好条約の範囲内です。今までの話を聞くに,首都防衛圏の100kmあたりを侵攻したら,その帆船を撃沈すればいいのですね?」
本部長「そうなります。お願いできますか?」
サルベラ「はい,頑張ってみます。ですが,たぶん,われわれ1人1人の力では,不足すると思います。ピアロビ顧問が扱っている高純度魔力結晶があれば,かなり善戦できるのですが」
本部長「わかっております。そこで,防衛本部の方で,かなりの量を購入する予定です。明日,午前10時ごろに来てていただければ,ピアロビ顧問が相当量の結晶を準備できるようです」
サルベラ「了解です。では,それを織り込んで,帆船を撃退できるような方法を考えてみます」
それからは,リスベルの改良と,その改良した帆船をサルベラ達が撃沈する,というシーソーゲームが始まった。
4度目の改良版は,転移防止魔法陣を組み込んだ。これにより,転移で船内に侵入されることはなくなった。しかし,マリア達の加重魔法と,上空から下側への強力な風魔法に耐えきれずに,地表に撃沈して大破した。帆船の反重力魔法陣と風魔法陣の出力がもともと不十分だった。
5度目の改良版は,船体から羽根を4枚取り付けた。外観が飛行機に近くなってきた。前側の2枚の羽根には反重力魔法陣,後ろの2枚には風魔法陣を設置した。
攻撃部隊は,マリアとその娘の龍子の2名にした。親子なら息ががぴったりで対応できるとの判断だ。
マリア達は,加重魔法と風魔法でも帆船の運航に影響しないことを確認すると,方針を変更した。有り余る高純度魔力結晶を使って,マリアは,究極火炎魔法陣を,龍子は究極氷結魔法陣を構築して,混合させて,炎氷混竜激派の5連発を発射した。つまり,5層の魔力攻撃バリアを破壊できるレベルだ。
だが,これは,すでに対策されていた。1層の魔法攻撃バリアが破壊されると同時に,超反射魔法陣によるバリアが2カ所に構築されて,その炎氷混竜激派は,捻じれた状態で90度の角度で2回屈折されて,天空へと放出された。
龍子「お母さん。この炎氷混竜激派でもだめだったよ。ほかに方法ないの?
マリア「そうね。われわれも魔法石の結晶があるから,いくらでも魔力を使えるわ。いっそ,巨大な氷の結晶を作って,風魔法で速度を増して,帆船にぶつけましょう。少なくとも運航を止めれるかもしれないわ。
龍子「了解」
マリアは,直径100mにおよぶ巨大な氷を構築した。一方,龍子は,巨大な竜巻を構築した。そして巨大な氷を竜巻の力で上空5000mにまで巻き上げて,そこから,加重魔法と風魔法で,一気に,帆船に衝突させた。
今回の帆船には,もう一つ改良がなされていた。自動判別バリアだ。バリアの順序を状況に応じて構築するのだ。
つまり,火炎バリアが3重の層で一番外側に構築され,その内側に魔法攻撃バリアが構築されたのだ。巨大な氷と3重の火炎バリアが衝突した。
ドドドドドドドドドーーーーーーー。
高度を落としつつも,氷の化け物を徐々に溶解させていった。だが,そのスピードは,さほど進まなかった。氷結エネルギーのほうが勝っていた。さらに,その衝突エネルギーを打ち消すことはできなかった。
火炎バリアで幾分かは弱められたが,マリアたちの力技による攻撃に対抗できず,地上に落とされた。
バーーーーン,ドーーーーーーン。
その夜,,,
リスベルは,今回の墜落の状況を見て頷いた。
リスベル「帆船型では,この辺が限界かもしれないな。無駄に大きいから,かえって小回りが効かなくなってしまう。
アイラ「もうすぐ第3と第4の大規模魔力抽出転送魔法陣が完成するわ。そしたら,もっと大量の魔力を補充できるよ。それで,戦艦なみに完全武装したら?」
リスベル「そうか。第3と第4がもうじき完成か。それはありがたい。じゃあ,魔力を蓄積する魔法陣を考えないといけないな。それに,すぐに発見されない工夫も必要だ。無人の森で,緑色の保護色で形成させて,しばらく魔力を充填させる必要がある。細かな部品は,全体を完成させてから,内部を構築させるかな?
などなど,リスベルは,楽しくてしょうがなかった。そして,帆船タイプをやめて,サメをモチーフにした,千雪シャーク号を完成させた。
サメの体の構造は,特徴的な第1背ビレがある。その後方に小さな第2背ビレがある。胸ビレが左右にあって,腹部後方に腹ビレがある。そして尾ビレだ。千雪シャーク号には,この胸ビレを羽根に見立てて,左右3枚ずつにした。そして,魔法陣,1つの大きさは,直径3mだ。それぞれの配置は,以下の通りとした。
第1背ビレは,片面3個で,両面6個の魔法陣となる。究極火炎攻撃派と究極氷結攻撃派の魔法陣を3個ずつとした。これは基本だ。そして,サメの頭部に3個の角が伸びており,そこから,炎氷混竜激派を発射する。
第2背ビレと腹ビレは,片面1個で両面で2個の魔法陣だ。すべて反射魔法陣だ。ひとつの反射魔法陣で,防御する範囲を4分の1ずつ担当する。
胸ビレは,左右に3枚ずつある。1枚の胸ビレは,片面2個で両面4個の魔法陣をもつ。左右の胸ビレは,同じ配列で,かつ上下ともに同じ魔法陣だ。第1胸ビレは風魔法陣と火炎攻撃魔法陣,第2胸ビレは爆裂魔法陣と電波吸収魔法陣,第3胸ビレは氷結魔法陣と保護色魔法陣だ。それぞれの魔法陣は,全体の4分の1ずつを担当する。
尾ビレは,片面2個で両面4個の魔力授受魔法陣だ。
頭部は,飛行機のようにコックピットになっており,ガラス張りだ。定員10名。胴体には,大量の魔力蓄積魔法陣の層がある。面積を多くとるため,胴体の7割部分を占める。残り2割は,センサー式物理攻撃バリア魔法陣が4基,センサー式魔法攻撃バリア魔法陣が4基,センサー式転移阻止魔法陣が4基,霊体のカスを核にした中央制御魔法陣が1基,同じく霊体のカスを核にした画像解析魔法陣が1基,航行制御魔法陣1基,攻撃制御魔法陣1基,バリア制御魔法陣が1基,自動実行魔法陣が1基を積み込んでいる。
さらに,胸部と腹部に3個の魔法陣が設置されており,反重力魔法陣が2基,魔力吸収魔法陣を1基もつ。
全長19m,高さについては,背ビレを除く胴体が5m,第1背ビレは6m,第2背ビレと腹ビレは3.5m,尾ビレは8mだ。幅は,一番太いところで6mだ。
帆船千雪号からみると,大きさは半分以下になり,コンパクトになった。
コックピットは,各魔法陣を手動で設定できるようにした。このあたりは,全体を構築してから,細部を構築する必要がある。
1週間で設計図を完成して,アイラ,リブレに人気のない森林に,シャーク千雪号を構築させて,保護色魔法陣を起動させた。そして,4基の魔力授受魔法陣も起動させて,大量の魔力を充電させた。
その後,毎日,リスベルはシャーク千雪号に乗り込んで,コックピットの細かな部分を構築していった。アイラとリブレは,リスベルについて回り,内容を理解した。
さらに1週間が経過して,コックピット部分も完成した。
アイラ「とうとう完成したね。これなら,有人飛行しても大丈夫だね」
リスベル「これくらいの大きさなら,いざというときでも,高機能収納指輪の亜空間領域に,ぎりぎり収納することも可能だから,運搬も楽だと思う」
リブレ「なるほどね。確かにそうだわ」
リスベル「では,有人で運航するわよ。出発ー---」
リスベルは,アイラとリスベルを乗せて,シャーク千雪号を稼働させた。保護色魔法陣のほかに,電波吸収魔法陣も稼働させて,レーダーに映らないようにした。
完全にステルス仕様だ。かつ,各種センサー類は,本体の中心部から半径1kmの円球部分に張り巡らせている。さまざまな攻撃に対しては自動防御システムを構築済だ。高度1.5kmからの水平移動で,速度はマッハ4だ。風魔法陣が4基もあるため,高速運航が可能だ。
何度も首都圏を貫通したが,発見されなかった。そこで,翌日の午後2時に,ステルス機能を切って,ゆっくりと首都圏に向かう,という情報を流した。
ー国防作戦本部ー
本部作戦担当「α隊の10号からの情報です。明日の午後2時に,新型のUFOが出現するようです。迎撃準備しますか?」
本部長「そうか。千雪グループは,いったいどっから情報を入手するのかな?まあいい。われわれのできることは前回と同じだ。有効性は低いが攻撃せざるを得まい。
では,首都防衛100km地点で,地対空ミサイル2発とウルトラ・スーパー・ビーム砲,かつ麦国の超高温兵器搭載ミサイルを同時攻撃する。もし,そのまま運航すれば,首都防衛80km地点で,超電磁砲を10発発射することになる。首都防衛70kmの時点で,千雪グループによる魔法攻撃を行ってもらう」
一方,シャーク千雪号のコックピットは,モニター画面だらけだ。ガラス面の上部に,前後左右上下の6画面があり,さらに,予備として,同じく前後左右上下の予備の6画面がその上部にある。今回の飛行は,有人飛行だ。
アイラとリブレが乗り込んでいる。どうしても安全を保てない場合は,自分たちだけは,30秒間だけだが,『次元亜空間領域』に逃げることが可能だ。これは,最近,リスベルが解読した超古代魔法陣のひとつだ。必殺の雲隠れ技といえよう。これがあるからこそ,有人飛行というリスクが負える。
もしシャーク千雪号の破損がたいしたことがなければ,それを亜空間収納領域に回収するという手はずだ。
シャーク千雪号の体色は,自由に変化させれる。アイラの趣味で,ピンクと白の色合いとした。ピンクバージョンのシャーク千雪号だ。各種のセンサー類は,船体の中心点から半径1000mの球形状に配備しており,かつ,ビーム砲については,ほぼ光速での攻撃のため,船体の上空40mの部分に,常に物理攻撃バリアが稼働している。省エネタイプだ。攻撃を受けると同時に魔力エネルギーの補充が増す。また,同時に45度の傾きをもつ反射鏡が2セット出現する仕組みだ。その他のバリアは,この船体の中心点から100m離れた地点で構築が開始される。何層にもなる場合は,3mおきに張られる。
高度1500m,時速100kmで,首都方面に航行中だ。そして,首都防衛100kmの地点を通過した。
地対空ミサイル2発,超高温兵器搭載ミサイル1発そしてウルトラ・ハイパー・ビーム砲が同時にシャーク千雪号を襲った。
ヒューーーー,ヒューーーー,ヒューーーー,ドドドドドドドドドーーーー!
これらの攻撃は,同時であったため,センサー中央制御魔法陣の処理が間に合わなかった。だから,最強の防御結界を構築した。3層の物理攻撃バリア,3層の火炎バリア,3層の氷結バリアだ。それとは別に,船体上部に物理攻撃バリアと反射鏡がある。
地対空ミサイルの攻撃は,1層の物理攻撃バリアで防いだ。超高温兵器搭載ミサイルは,1層の物理攻撃バリアで爆破して,その場で超高熱を発した。その高熱は,物理攻撃バリアを素通りしたが,3層の火炎バリアに阻まれ,氷結バリアに届く頃には,すでに超高熱ではなくなっていた。
ウルトラ・ハイパー・ビーム砲は,1層の物理攻撃バリアを2秒で破壊した。だが,その間に出現した反射鏡によって,天空に反射された。
シャーク千雪号は,3種類の同時攻撃をなんとか防いだ。そのまま,首都防衛80km地点に到達した。その間,各種バリアへの魔力補充が完了した。このことにより,1000m先のセンサーが反応すると,選択することなく,最強の防御結界を構築する。3層の物理攻撃バリア,3層の火炎バリア,3層の氷結バリアだ。
シューーーーン,シューーーーーン,シューーーーーン,シューーーーーン,シューーーーーン,シューーーーン,シューーーーーン,シューーーーーン,シューーーーーン,シューーーーーン。
10発の連続した超電磁砲がシャーク千雪号に向けて発射された。今回は,同じ装置からの一点攻撃狙いだ。
前回では,バリアが構成される前に通過して撃破できた。だが,今回は,対策されるだろうと判断して,一点突破とした。
シャーク千雪号が展開した3層の物理攻撃バリアは,6発の鋼鉄の矢によって破壊された。次の火炎バリアは素通りした。さらに,3層の氷結バリアを3発の鋼鉄の矢で破壊した。そして,6発の鋼鉄の矢の内,1発だけが,シャーク千雪号の船体に命中して先端部が突き刺さった。
だが,その鉄鋼の矢は,転移魔法によって,すぐに1km先の空中に放り出された。
ー兵器開発部ー
研究者「やりました。1発が敵のバリアを抜けて本体を貫通しました」
部長「そうか。本体の中にいるときに,爆破させれば最高だったのだ,少々残念だ。
研究者「ですが,そのタイミングを取るのは至極困難かと思います」
部長「今後の検討課題だな」
ーシャーク千雪号の船内ー
アイラ「あ,一発,被弾したようだわ」
リブレ「でも,幸い,船体内の魔法陣には,被弾しなかったわね。ちょうど,魔法陣と魔法陣の隙間を通過したので,助かったようだわ」
アイラ「でも,この国の防衛力はほんとすごいね。ここまでの防御力をもってしても,鉄鋼の矢が船体を突き破ってきたわ。幸い,動きを止めた鉄鋼の矢は,自動式転移魔法によって,船外に排出されたから,爆破を免れたわ」
リブレ「でも,このシャーク千雪号は,かなりの高機能の設計だわ。これなら,魔界だって,獣人国だって,その空を飛べそうよ」
アイラ「でも,これから,マリアたちと魔法対決が始まるわ」
リブレ「そうね。全力でマリア達の攻撃を阻止するわよ!」
アイラ「了解ーー」
シャーク千雪号は,船体に穴が空いている状態だが,特に実害はない。万全の状態だ。また,すでに各種バリアへの魔力補充ができており,各魔法攻撃魔法陣への魔力供給もすでにできている。いつでもマリア達の攻撃に対処可能だ。
マリアと龍子が上空1500m地点,前方1200m付近に出現した。彼女らは,定番通り,上空から下方への風魔法と加重魔法で,船体を墜落させる方針だ。だが,船体が軽くなったうえに,反重力魔法陣が2基セットしている。さらに,こちらは,風魔法陣が4基もある。船体の高度が下がることはなかった。
龍子「お母さん,船体はぜんぜんびくともしないよ」
マリア「じゃあ,電撃による攻撃をしてちょうだい。ママは,巨大な氷塊を作っているから」
龍子は,電撃で船体を攻撃した。だが,当然,センサーにひっかかり,3重の魔法攻撃バリアに阻まれた。それは織り込み済みだ。時間かせぎだ。マリアは,前回と同様に,直径100mの巨大な氷塊がまもなく完成しそうだった。
だが,船体には,映像魔法陣が装備されている。氷塊を認識すると,左右の第2胸ビレに設置された爆裂魔法陣から爆裂弾が発射された。そして,直径100mの巨大な氷塊は,バラバラに粉砕された。
マリア「今度の船体は,攻撃もできるのね」
龍子「じゃあ,転送して,船体の上に着陸してみるわ」
龍子は転送して船体の上に着陸しようとした。だが,船体のセンサーにひっかり,転送阻止バリアが発動した。
キャーーーー!
龍子は,バリアに衝突して墜落した。マリアは慌てて,風魔法を駆使して,龍子を地表にゆっくりと着地させた。
マリア「龍子,大丈夫?」
龍子「頭,思いっきりぶっちゃった」
本来なら,転移失敗は,肉体が粉々になるところだ。幸いにも,転移失敗しても,肉体の再形成だけは,しっかりとできるように,予備の再構成魔法陣を展開していたため,一命をとりとめることができた。
マリア「あの船体は,武装攻撃できるようになってしまったわ。私たちができることは,あとは,,,高純度魔力結晶を使って攻撃することくらいしかないわ」
龍子「じゃあ,爆裂魔法陣の超でかいのを転送であの船体にぶつけてみたら?」
マリア「残りの高純度魔力結晶を用いて,最大級の爆裂魔法陣をあの船体に転送でぶつけてあげましょう」
マリアは,残りの高純度魔力結晶を核にして爆裂魔法陣を構築した。龍子は,すぐに転移魔法陣を構築して,その爆裂魔法陣を船体に向けて転送した。そして,それはセンサーにひっかかり,船体の中心部から50m離れた場所に構築された転移防止バリアに衝突した。
ドドドドドドドドドーーーーン!
巨大な爆風は,転移防止バリアを容易に破壊して,その勢いはほとんど衰えず,船体を真っ二つに割った。そして,船内にあった膨大な蓄積された魔力蓄積魔法陣を誘発させた。
ピカーーー-ーー-!!!ボボボボボボーー----ン!!!
上空1500mで,そのシャーク千雪号は,大爆発を起こし,その閃光は,眩い光を放った。
その誘発された爆破はすさまじく,地表にいるマリアや龍子も思わず,強力な魔法攻撃バリアを構築して防ぐほどだった。
アイラとリブレは,最初の爆発で,すぐに次元亜空間領域に逃げ込んだ。30秒間だけしか効果はない。だが,それで十分だった。
龍子は,膨大な閃光を放って,消滅した船体の後をぼーっと眺めて,マリアに言った。
龍子「あの船体は,有人飛行だったのかもね」
マリア「どうかしら? たぶん,無人だと思うわ。転移防止結界があるから,転移では逃げることはできないからね。 爆弾を転送するという攻撃に弱い,という欠陥があってよかったわ」
龍子「ということは,次回の改良版で完成形になるんだね?」
マリア「そうなるかしら? でも,獣人国に帰る日が近いのは事実よ」
その夜,,,
リスベルは,シャーク千雪号が爆破される映像を見て,びっくりした。まったく,盲点だった。でも,口元は楽しそうだった。
リスベル「なるほど,そんな手段があったのねーー。その方法は,いろいろと応用のきく攻撃方法になりそうだわ。ふふふ」
この転送爆弾を回避するため,転送阻止バリアを,他のバリアの外側に設置するという対策を取った。そして,リスベルは,1週間後に,シャーク千雪2号を完成して,精霊の指輪の中に格納した。
精霊の指輪は,優秀な収納指輪の機能を持つ。おまけに,異常なことに,人体まで収納可能だ。こんなことができるのは,この千雪の持っている精霊の指輪だけだ。この能力こそ,千雪がしている霊力の指輪が持つ最大の奥義だ。
リスベルは,日中に千雪がこのシャーク千雪2号に乗り込んでもらうようにアイラに依頼した。
そして,翌日の朝,アイラはリスベルに言われた通り,千雪にリスベルの依頼を伝えた。
アイラ「千雪さん,リスベルがね,千雪さんにお願いしたいんだって。今回のシャーク千雪2号が完成形だから,それに乗ってほしいって。
千雪は,シャーク千雪2号の設計図を見て,ブスっとした顔をした。そして,指輪を触って,亜空間収納に入り,実物を見た。そして,すぐにまたそこから出てきた。
千雪「アイラさん。よくここまで頑張ったと思うわ。性能もかなりのものでしょう。でも,決定的にダメな部分があるの」
アイラ「え?それは何?」
千雪「可愛くない!ぜんぜん可愛くないわ!!」
アイラ「これは,魔界の魔法国や獣人国の上空を安全に飛ぶための船よ。可愛い,なんて,どうでもいいでしょう」
千雪「可愛さはすべてに優先するわ。それに,この国の過剰な防衛力に対抗できたって,魔法国や獣人国では無用の長物よ」
アイラ「・・・」
アイラは,返す言葉を失った。千雪は,さらに言葉を続けた。
千雪「リスベルに言ってちょうだい。帆船だったら,まだ許せるわ。サメはダメ!」
アイラは,こころの中でつぶやいた。『あーあ,いつになったら獣人国にいけるのかなあ??』
その夜,アイラはリスベルに千雪からの返答を伝えた。それに対してリスベルは,大きな溜息をついた。
リスベル「あのバカ!! 何考えているのよ。もう。せっかくここまで仕上げたのに。誰のためにしていると思っているの,もおーー」
アイラ「そうよ,そうよ!!」
リブレ「確かにそうだけど,,,千雪さんがそういう以上,サメの形をモデルにするのは没だわねーー」
リスベル「今のサメの大きさをベースにして,帆船に変更してみるか。さほど,大きな変更にはならないと思う」
そこで,シャーク千雪2号の第1,2背ビレと尾ヒレの設置した12個の魔法陣を3本マストにして,1本のマストに4枚の横帆に割り当てることで,対応することにした。コックピットは,船体の頭部に設置した。その他の部分は,踏襲した。全長も20mとした。だが,1本のマストに設置する横帆が4枚になるので,マストの長さは,15mにもなってしまった。やむをえまい。
帆船は目立つので,人気のない森林で,生成後,すぐに保護色魔法陣を起動した。そして,4基の魔力授受魔法陣で,大量の魔力の充電を開始した。それから,船体内部やコックピットの製造を行った。アイラやリブレもリスベルと一緒になって作業した。彼女らも,リスベルと一緒に物作りをするのは楽しかった。
千雪のわがままで帆船になってしまったが,帆船とサメ型の船を見比べると,やはり帆船のほうに乗りたい気がした。
アイラ達は,尊師から入手した時空亀裂転移魔法石を持っている。それをリスベルに渡した。リスベルは,その魔法石に刻まれた時空亀裂転移魔法陣を容易に解析できた。
リスベル「なるほど,よくできている。亀裂させる空間を大きくさせればいいのね。それに,今回は帆船だから標高2000m程度の場所に転移できればいいわ。細かな地点設定は不要だし,魔法国や獣人国でさえあればいいからね」
アイラ「じゃあ,完成なの?」
リスベル「そう,完成だわ」
リブレ「やっと帰れるのね。マリアたちを連れて帰れるわ」
リスベル「そうなるかな?」
リスベルは,自分のしている指輪に向かっていった」
リスベル「霊珠の指輪さん,やっと精霊国に行ける準備が整ったわよ。戦いは,私は不得意だから,千雪にお願いしてね。千雪も2世を産んだから,心置きなく戦えると思うわ」
霊珠の指輪,これが千雪のしている指輪の正式名称だ。霊力の指輪とか呼ばれることもあるが,この指輪にとっては,霊力の指輪と呼ばれたほうがしっくりきた。
霊珠の指輪は,ボッ,ボッと光った。たぶん,了解した,という意味だ。リスベルは,この小型帆船を,千雪帆船号と命名した。特に凝った名前ではない。そして,指輪を触って,亜空間領域を開き,千雪帆船号を収納した。
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