第3話 魔法陣帆船

 アイラとリブレは,翌日から,午後は,リスベルの仕事をして,夜は,リスベルと愛の行為と胸のS行為をするという日課になった。


 2日間で魔法石が埋設する山林を4ヵ所発見した。そして,大規模魔力抽出転送魔法陣のための核魔法陣を1kmごとに設置していく。一目につかないように,地表から10cmほど地中に設置する。この核魔法陣の構築方法もリスベルから指南されたものだ。


 1ヵ所の魔法石の山林で240ヵ所の核魔法陣を構築する必要がある。1ヵ所の核魔法陣の設置に1時間かかる。1人1日6ヵ所できるとして,24日間必要となる。休みも入れると約1ヶ月だ。魔法石の山林が4ヵ所あるから4ヵ月の大仕事だ。かつ,その合間に,リスベルの試作魔法陣のお付き合いをする。結構ハードな業務内容だ。


 だが,アイラとリブレは嬉しかった。仕事内容が,まったく新しい魔法の構築と設置だからだ。


 プライベートでも充実した。リスベルと愛の生活がある。しかも合体魔法を教えてもらった。合体した状態で愛の行為と胸へのS行為と回復魔法,,,快楽が2倍になった。彼女らにとっては,人生最高の日々だったと言えるかもしれない。


 ・・・

 1ヶ月が経過した。


 ちょうど,その頃は,アイラとリブレが,1ヵ所目の魔法石の山林で,240ヵ所の核魔法陣の設置が完了した頃だった。


 合体アイラとリブレが合体した体で,お楽しみ中のリスベルは,腹部に陣痛が走った。この陣痛で千雪は目を覚まして,千雪が自分の肉体を支配した。


 千雪「アイラ?リブラ?」


 千雪は,アイラとリブレの合体した体が,アイラなのか,リブレなのかわからなかった。でも,どちらかだろうと思った。今は,そんなことは考える時間はない。陣痛がきてしまった。


 千雪「悪いけど,陣痛が来たわ。この助産婦さんの番号に電話して,この部屋に来てもらうように言って」


 千雪は,要件だけ言った。アイラとリブレの合体は,このままでは効率が悪いと思い,合体を解除した。リブレは,千雪の言葉にすぐに返答した。


 リブレ「わかったわ。すぐ電話するわ」


 しばらくして,助産婦はやって来た。もう1名の助産婦も呼んで,2名体制で,千雪のお産に対応した。そして5時間後に無事に元気な男の子が生まれた。


 千雪2世の誕生だ。だが,奇妙なことにその子供は,男だった。千雪の卵細胞と精子には,Y遺伝子はないので,男が生まれるはずはない。しかし,,,男の子が生まれてしまった。


 千雪の肉体がいったい,どうなっているのか,もう誰もわからなかった。


 出産の疲れで,千雪は深い昏睡状態に入った。すると,リスベルが,千雪の肉体を支配した。リスベルは,千雪の子を見て,感慨無量だった。自分の子ではないにしても,あたかも自分の子供のような錯覚を覚えた。リスベルは思わず生まれたばかりの赤ちゃんに言葉をかけた。


 リスベル「生まれてくれて,ありがとう。ほんとうにありがとう。私の分まで生きるのよ。私のように愚かな人生を歩んではだめよ。決して霊力使いを性奴隷にしてはだめよ。人生の道を踏み外すからね」


 だが,この忠告は無駄かもしれない。どうも歴史は繰り返されるのだ。


 千雪2世は,暫定的に太一と名付けられた。変身自在のミサキが主に子守をさせられた。それにともない,ミサキが行っていた探偵業務は,しばらく中断することになった。


 千雪が太一を産んで2ヵ月が経過した。太一は,すべて母乳で育てた。充分な母乳があった。そして産褥期も終わり,体が元の状態に戻った時期でもあった。


 千雪が太一を産んで2ヵ月経過した時期は,まさにベビーラッシュの時だ。千雪のハーレム美女22名の妊婦が一斉に出産する。毎日一名,ひどい場合には一日3名が出産する場合もあった。


 だが,千雪は,”父親”を放棄しており,まったくの無関心だった。


 ------

 そんな頃,大規模魔力抽出転送魔法陣の2番目が完成した。これによって,大規模魔法を大幅に展開することが可能となる。


 どうせ7ヶ月後にはアイラたちを連れて魔界にもどらなければならない。それを考えると,いっそ,彼女らのために,空飛ぶ帆船を創って,魔界に帰ればいいと考えた。魔力はいくらでもある。ならば,超豪華な魔法陣帆船を作ろう!


 これは,リスベルの子供の頃の夢でもあった。ロマンだ。


 

 リスベルは,子供の頃,何度も何度も描いた帆船を大きな紙の上に描いていった。そして,内部構造を書き足した。それは,まぎれもなく,魔法陣帆船の設計図だ。


 外観は,マスト3本を有する全装帆船だ。全長80メートルほどの大きさだ。高さもマストのトップまで測れば100メートルにもなる。


 それぞれの横帆は,風を受けるだけでなく,魔法陣が描かれる。どの横帆にどの魔法陣を設置するかを考えた。


 それに,どうせ作るなら,最高レベルの攻撃魔法陣を作ってしまえ! 『究極火炎攻撃派』と『究極氷結攻撃派』の魔法陣も必須だ。その攻撃派を帆船の船首から前方へ伸びている棒,バウスプリットで混流して,『炎氷混竜激派』にするのだ。


 1門で足りない可能性がある。そこで,3本のバウスプリットを描いた。フォアマストには,6帆の横帆を描いた。3帆ずつ,究極火炎攻撃派と究極氷結攻撃派の魔法陣に割り当てた。これで,3本のバウスプリットから同時発射が可能となる。


 リスベルは,ニヤリと笑った。我ながらいい考えだ。


 次はメインマストの6つの横帆に,何を割り当てるかだ。帆船が浮く高さを制御する反重力魔法陣と前後左右に動かす風魔法陣は確定だ。さらにセンサー式魔法攻撃防御魔法陣とセンサー式物理攻撃防御魔法陣も必要だ。


 メインマストの天辺に,映像記録魔法陣を描いた。そして,位置特定魔法陣もその下に描いた。これらは大きな横帆を必要としない。


 リスベルは,肝心なことを忘れていた。月本国各地に設置した大規模魔力抽出転送魔法陣から転送される膨大な魔力を受け取る『魔力授受魔法陣の設置』だ。これは,後ろのマストであるミズンマストの第1と第2横帆に設置することにした。


 メインマストとミズンマストの第3から第6の横帆は,まだ未設定だ。


 リスベルは,最低,これだけあれば,国内の飛行では,なんとかなりそうだと考えた。そして,アイラ,リブレにこの図面を渡した。


 リスベル「アイラ,リブレ,よく聞いて。これは,最初の大規模な実験になるわ。明日,午後2時頃に,海岸近くで,人気のないところに行きなさい。そこで空中に魔力授受魔法陣と大規模立体構造生成魔法陣を構築するの。それぞれの魔法陣の設計図はこれよ。そして,この魔法陣帆船の設計図を核にして,大規模立体構造生成魔法陣を構築なさい。10分もあれば実物が構築されるはずです」


 アイラ「へー--。でも実物がでてきたら,どうやって制御するの?」

 リスベル「まだ考えていないの。自動運航できるプログラミング魔法陣は,これから準備するわ。とりあえず,あなたたちが乗り込んで,手動で作業してね。


 リスベルは,細かな手動の方法を彼女らに説明した。


 リスベル「魔法陣帆船の実物を生み出して,ある程度空中浮遊の運行が可能と判断したら,その場所から転移で,ここに戻りなさい。魔法陣帆船は,無人状態でそのまま運行させます」

 アイラ「どうして?」

 リスベル「この国では,未確認飛行物体になってしまうから,どのように扱われるかわからないわ。それを確認するのも,今回の目的よ」

 アイラ「わかったわ。ちゃんと私たちを愛してくれたら協力してあげる」

 リスベル「毎日,愛してあげているでしょう。それに,うまくいったら,この帆船であなた達の国にもいけるのよ」

 アイラ「えー-,そうなの?それはすごいわね」


 そうは言ったものの,アイラたちは,まだ実感がわいていなかった。



 ー---

 翌日の午後2時,アイラ,リブレは,リスベルに言われた通り,空中に魔力授受魔法陣を構築した。そして,地表の大規模魔力抽出転送魔法陣から膨大な魔力を魔力授受魔法陣に転送させた。次に,帆船の設計図を核にして,大規模立体構造生成魔法陣を構築し,得られた魔力をそこに抽入した。


 ドドドドーー


 大規模立体構造生成魔法陣から,3本のバウスプリットを持つ魔法陣帆船がゆっくりと出現した。


 アイラとリブレは,想像よりもかなりの大きさだったことにびっくりして,しばらく声が出なかった。10分ほど経過して,この帆船の全貌があきからとなった。長さ80m,幅20m,高さ100mの全装帆船だ。彼女らはやっと声を出した。


 アイラ「お姉ちゃん,これ,超すごいよ。設計図と実物って,こんなにも違うんだね」

 リブレ「ほんと,びっくり。超大きい! でも,感動している場合じゃないわ。アイラ,帆船に乗り込むよ。行くわよ」


 アイラとリブレは,風魔法で自分たちを浮遊させて,空中に堂々として浮かんでいる帆船に乗り込んだ。そして,この帆船を手動で動かしてみた。


 魔法陣帆船は,ゆっくりと上昇して,標高1000mで止まった。そして,ゆっくりと海岸沿いに沿って前方に進んでいった。


 魔法陣帆船が,順調に運航したことを確認した彼女らは,自分の部屋に転送して戻った。


 部屋には,魔法陣帆船に設置してある前後左右と上下にある外周部を映す6個所の映像魔法陣と,船首と船尾から船体を映す2カ所の映像魔法陣から映し出された8か所の映像を画像投影魔法石で見ることができた。


 アイラ「お姉ちゃん,見てみて,帆船からの景色が見えるよ。うわーーー,みんな小さく見える!!!」

 リブレ「ほんとだ!森や湖なんかもちっちゃーい」

 アイラ「帆船に乗って,旅したいなーー」


 そんな折,国防軍の最新鋭早期警戒機E-3Cが,いち早くこの空飛ぶ帆船を発見した。レーダーおよび映像解析担当が本部に至急連絡した。


 解析担当「UFO発見!UFO発見!空飛ぶ帆船です!標高1000m,時速100kmでわが軍の首都方面に向かって航行中。映像を送ります」

 本部担当「映像確認しました。有人か無人か,判別可能でしょうか?」

 解析担当「船内には,30℃以上の熱源反応はありません。無人と判断されます」

 本部担当「では,首都防衛規定に従い,首都防衛圏から100km以内に接近した場合,直ちに連絡ください。撃沈命令を発動します。この状況は,逐次,国防総長から大統領に報告します」


 解析担当「了解です。現在,首都防衛圏から150kmです。このままでは,30分後に首都防衛圏を超えます」

 本部担当「現在,短距離地対空ミサイル2発の発射を予定しています。万一,失敗した場合,わが国初の静止衛星軌道上に装備されたウルトラ・ハイパー・レーダー砲を稼働します。最初の運用となります。今回の試運転で,運用上問題なければ,今後は,麦国からいちいち大統領経由で発射依頼をする必要がなくなります。そちらは,標的UFOから1000m以上離れてください」

 解析担当「了解です。では,いったん,監視範囲から離脱します」


 E-3Cは,高度2000mまで上空に移動して,円を描くようにして,標的UFOの映像を本部に送った。


 解析担当「たった今,首都防衛圏100kmの範囲を超えました」


 その声は,本部の指揮管制部のスピーカーから流れた。


 本部長「よし,短距離地対空ミサイル発射せよ」

 本部担当「了解しました」


 本部担当は,ミサイル発射ボタンを押した。首都防衛圏100kmの地点で配備されている短距離地対空ミサイルが2発,同時に発射された。


 ピューーーー,ピューーーー!


 2発とも標的のUFOに命中して,爆破した。黒煙と白煙が入り混じったものが本部管制室のモニターに映し出された。


 その数秒後,標的UFOは,まったくの無傷で,その航行スピードを緩めることなく進んでいた。


 本部担当「失敗です。撃沈できません。ウルトラ・ハイパー・レーザー砲の準備はできています!」

 本部長「止むを得ん。レーザー砲発射!!」

 本部担当「了解ーー!」


 本部担当は,モバイル型のレーザー砲発射装置の蓋を開けて,発射ボタンを押した」


 静止衛星軌道上のウルトラ・ハイパー・レーザー砲は,ボワーッとにぶい光を放って,最高出力で発射した。それは,標的UFOを真上から直撃した。


 バババババババーーーー!


 対物理攻撃バリアは,2秒間,この攻撃に耐えれたが,それ以上は無理だった。ビームは,このバリアを貫通して,魔法陣帆船に直撃して破壊した。


 バッカーーーン! ドドドドーー!


 魔法陣帆船は,船体が真っ二つに破壊され,そして,ゆっくりと消えるようにして消滅した。魔法陣帆船の初運航は,運航開始してわずか30分後に,ビーム砲によって撃沈された。



 ーアイラとリブレの部屋ー


 アイラとリブレは,上空を映した画面を見ていた。一瞬の閃光が走ったかと思ったら,船内を映す映像から,船体が真っ二つに破壊されたシーンが映し出された。そしてすべての映像がゆっくりと消滅していった。


 アイラとリブレは,呆然とした。リスベルがいみじくも言った言葉,この国の防衛力と科学力を侮ってはいけないという言葉を思い出していた。


 アイラ「お姉ちゃん,あの帆船に乗れるのは,いったいいつになるの?」

 リブレ「少なくとも,この国の防衛力に対抗できないと,どこにもいけないわよ。もっとリスベルに全面的に協力しましょう」

 アイラ「はいはーーい」


 翌日の夜,,,


 リスベルは,短距離地対空ミサイルはガードしたものの,魔法陣帆船がビーム砲によって破壊される映像を解析した。


 リスベル「なるほど,上空からの攻撃は,わずか2秒しかもちませんでしたか。かなりの高出力エネルギー砲ですね。この砲撃は,10秒持たせればいいかんじですね。ならば,砲撃を受けた時点で,即座に4重か5重の物理攻撃バリアを起動させればいいでしょう。そうなると,メインマストの6枚の横帆をすべてタイマー式物理攻撃バリア魔法陣にしてしまうのがいいでしょう。そして,ミズンマストには,反重力魔法陣,風魔法陣,魔法攻撃バリア魔法陣,魔力授受魔法陣を充てましょう。もし,これでもダメだったら,4番目のマストのジガーマストを考える必要がありますね。


 アイラ「私たちが帆船に乗り込まないでも,自動航行できるようにしてちょうだいよ。ちょっと危険を感じるわ」

 リスベル「それは,考えているの。今日の昼間も,ずーっと,そればかり考えていたのよ。中央制御するから,中央制御魔法陣を思いついたの。事前に設定した通り,自動運行するようにね。首都を無事に直進できれば,この国の防衛システムに対抗できたとみなせるわ」

 リブレ「あの天空から砲撃をすべて物理攻撃バリアでカバーするのは,ちょっと効率悪いんじゃない?もっと他に方法はないの?」

 リスベル「確かに,それはありますね。あの砲撃が10秒で終わるという保証もないし,,,」

 リブレ「攻撃の反射は?」

リスベル「そのまま反射することはできないわ。放射するものと,反射しようとするものとが衝突して大爆発を引き起こしてしまうわね。

 リブレ「獣人国では,反射魔法陣を45度に傾けたものを2枚設けて,相手に反射させる技術が発達していわたわよ。つまり,放射されたものを90度に2回屈折させて,相手にお返しするの」

 リスベル「なるほど,そうですか。そうなると,センサー式物理攻撃バリアの設置位置を船体から200mほども設けないといけなくなりますね。そして2重の反射魔法陣を150mの位置で設置し,10m間隔で5層のセンサー物理攻撃バリア魔法陣を構築させましょうか,,,」


 リスベルは,船体を大きくしすぎたがために,防御魔法陣の有効範囲が広くなりすぎたことを反省した。


 リスベル「結局,躯体を大きくしすぎましたね。もう一回り小さい方が,小回りがききますし,防御効率もアップするでしょう」


 リスベルは,設計図の引き直しをした。そして,全長50メートル,幅12メートル,高さ50メートルの大きさに変大幅に変更した。


 アイラとルブレは,好き勝手にアイデアをどんどんと語った。


 アイラ「せっかく究極火炎魔法陣や究極氷結魔法陣があるんだから,バウスプリットを標的に向けて発射してもいいんじゃない?」

 リスベル「そうなんだけど,こんな空飛ぶ帆船を作れるのは千雪ぐらいしかいないって,すぐバレるわ。この国と正面切って攻撃するのはまずいわね」

 リブレ「じゃあ,天空からの砲撃を反射しても,その装置を壊さないの?」

 リスベル「壊さないで,反射するほうがいいわね。われわれは,どの方角にも反射できることをアピールできればいいわ。できるだけ敵対行動はしないことね」


 リスベルは,彼女らと会話する中で,アイデアをまとめて,試作2回目の魔法陣帆船の設計図を完成させた。フォアマストに変更なし。メインマストの6枚の横帆はすべてセンサー式物理攻撃魔法陣だ。ミズンマストには,第1と第2横帆が反射魔法陣,以下順に,反重力魔法陣,風魔法陣,魔力授受魔法陣,中央制御魔法陣とした。4番目のマスト,ジガーマストを新設して,4枚の横帆とし,第1,第2を魔法攻撃バリア魔法陣に充てた。第3,第4は未定とした。


 3日後,,,


 アイラとリブレは,前回と同様に,人気のない海岸近くで,試作2回目の魔法陣帆船を起動させた。今回は,すべて自動運航機能が装備されている。


 彼女らは,前回と同様の手順で,試作2回目の設計図を核にして,大規模立体構造生成魔法陣を構築した。


 ドドドドドドドーー


 前回と同様に,大規模立体構造生成魔法陣から,3本のバウスプリットを持つ魔法陣帆船がゆっくりと出現した。


 アイラ「お姉ちゃん,転送してもどりましょう。攻撃されるかもしれないわ。

 リブレ「わかったわ」


 アイラとリブレはまだ,完全な魔法陣帆船を見ることもなく,この場所を去った。


 一方,警戒を強めていた,国防軍の最新鋭早期警戒機E-3Cが,すぐに魔法陣帆船を発見した。


 解析担当「防衛本部,応答願います。十字の方向,高度100mで,未確認飛行物体発見。前回と同じ空飛ぶ帆船です。前回よりも半分程度の大きさです。30℃以上の温度反応はありません。無人と判断されます」

 本部担当「了解しました。こちらも映像で確認できました。本部長,指示お願いします」

 本部長「これは,わが国防軍への挑戦かもしれん。国防総長と大統領に映像を送れ。急ぎ,国防総長とビデオ通話を行う」


 本部長と国防総長は,ビデオ通話を行った。


 本部長「映像を送りましたが,前回と同じ空飛ぶ帆船が出現しました。まだ,首都防衛圏の100kmからさらに50kmほど離れていますが,事前に攻撃したほうがよいと判断いたします」

 国防総長「わかった。許可する。大統領には,連絡しておく」



 ー大統領府ー


 大統領執務室で,大統領秘書官が,映像を映し出して,大統領に報告した。


 秘書官「大統領,国防総長から連絡です。首都防衛圏から150km離れていますが,ウルトラ・ハイパー・レーザー砲を発射して破壊する命令を出しました。映像をご覧ください」

 大統領「大きさは小さいようだが,前回と同じ帆船だな。この帆船は,誰が作ったんだ?目的は?」

 秘書官「わかりません。ただ,レーザー砲での消滅のしかたから判断して,魔法科学による製造物と推定されます」

 大統領「そうか。千雪たちのグループの仕業か?」

 秘書官「その可能性は否定できません。ですが,もし,千雪さんがからんでいれば,破壊された時点で,われわれに文句をいいに来てもいいのですが,いっさいのコンタクトがありません。もしかしたら,千雪さんとは関係ないかもしれません」

 大統領「そうか。まあ,よい。もう一度,国産のウルトラ・ハイパー・レーザー砲の威力をみてみよう」


 本部担当「ウルトラ・ハイパー・レーザー砲の準備は,できています」

 本部長「よし,では,レーザー砲発射!!」

 本部担当「了解ーー!」


 本部担当は,再び,モバイル型のレーザー砲発射装置の蓋を開けて,発射ボタンを押した。


 静止衛星軌道上のウルトラ・ハイパー・レーザー砲は,前回と同様に,ボワーッとにぶい光を放ち,最高出力で発射した。標的UFOを真上から直撃した。


 バババババーーーー!


 対物理攻撃バリアは,前回同様に2秒間,この攻撃に耐えた。その間に,超反射鏡魔法陣によるバリアが2カ所出現した。放射されたビームエネルギーは,物理攻撃バリアを破壊した。そして,超反射鏡バリアに衝突した。このビームエネルギーは,90度に屈折されて,50m先のもう一つの超反射鏡バリアに衝突した。そこで,さらに90度に屈折されて,真上に向かって,放出された。そのビームエネルギーは,静止衛星軌道上のレーザー砲発射装置のすぐ横をすり抜けて,見果てぬ宇宙へと消えていった。



 ー本部管制室ー


 本部担当「本部長,ウルトラ・ハイパー・レーザー砲が,反射されました。標的UFOは無傷です」

 本部長「ううう,まさか,数日でウルトラ・ハイパー・レーザー砲に対応してくるとは,,,,,」


 本部長は,信じられないという顔をして机を叩いた。


 ダン,ダン,ダン。


 本部長には,同期で防衛兵器開発部の部長,マナベがいる。彼は,急いでマナベに電話した。


 本部長「マナベか?実は,ウルトラ・ハイパー・レーザー砲が効かないUFOが首都圏に迫っている。現在開発中の超電磁砲は,使えるか?」

 マナベ「ほほーー,それはおもしろい。夢の兵器,レーザー砲が効果ないとは恐れ入った。それじゃあ,超電磁砲も効果がでるとは思えない。でも,5発程度なら,発射することは可能だよ」

 本部長「ああ,わかっている。通常の火薬では効果ない。今,唯一可能性があるとすれば,鋼鉄の槍を超高速のマッハ30で飛ばす超電磁砲(レールガン)にかけるしかない。使用許可は,私のほうでする。そちらは,急ぎ,発射準備にかかってくれ」

 マナベ「了解だ。こちらは,実験の一環として対応する。20分ほどで準備を整える」

 本部長「では,お願いする」


 本部長は,防衛総長から超電磁砲の使用許諾を得た。首都防衛のためだ。誰もノーとは言えない。


 魔法陣帆船は,何事もないかのように,高度1000mを維持して,時速100kmで海外沿いに北上して,首都圏へと向かっていた。


 首都圏から100kmの範囲を最重要防衛範囲としている。UFOについては,この範囲に入ると,無人UFOとわかれば,攻撃されるのは必須だ。有人の場合,武装の有無で適宜判断する。これまで,麦国の核兵器の庇護下にあったため,UFOがこの範囲を侵入する例はなかった。この魔法陣帆船が始めてだ。



 ー本部作戦室ー


 本部作戦室は慌ただしかった。いままでにない脅威が迫っていたからだ。


 本部担当「首都圏100kmを突破しました」

 本部長「まだだ。超電磁砲の射程距離まで,あと20kmだ。もう少し待て」

 本部担当「超電磁砲が効果なかった場合は,どうしますか?」

 本部長「麦国の超小型超高熱兵器をお願いすることになる。すでに,対応済だ。麦国駐在本部も独自に,哨戒機で情報を収集済みだ。いつでも発射可能になっている。首都圏70kmを侵入すれば,発射される予定だ。しかし,なんとか自国の防衛システムで対応したいものだ」


 魔法陣帆船は,ゆっくりと首都圏80kmを超えた。それと同時に,超電磁砲が発射された。長さ1mの鋼鉄の槍だ。柄の部分の直径は,50cmに及ぶ。さらに,内部には,火薬が仕込まれていて,衝撃では起爆せず,無線スイッチで起爆させる。


 マッハ30の超高速で発射された5発の鋼鉄の矢は,一瞬にして,センサー式物理攻撃バリアに衝突した。センサー式物理バリアのセンサーに反応して,実際に物理攻撃バリアが起動するまで,一瞬の時差がある。その時差をこの鋼鉄の矢は突いてきたのだ。つまり,バリアが起動する前に,帆船の本体に直撃したのだ。


 ドーーーン,ドーーーン,ドーーーン,ドーーーン,ドーーーン


 防衛開発部担当「超電磁砲は有効です。UFO本体に衝突しましたーー」

 マナベ部長「よし,鋼鉄の矢を爆破せよ!」

 防衛開発部担当「ラジャー!!」


 防衛開発部担当は,起爆装置ボタンを押した。


 ボーーーン,ボーーーン,ボーーーン,ボーーーン,ボーーーン


 本体に突き刺さった鋼鉄の矢は,その場所で爆発した。黒煙と白煙が5カ所から立ち昇った。瀕死の状態になった帆船だが,反重力魔法陣と風魔法陣はまったくの無傷だ。そのまま運航を続けて首都防衛圏70kmを超えた。



 麦国が実践配備した兵器の中で,もっとも火力のあるものだ。爆破地点での熱温度は,100万度を超える。超小型超高熱兵器搭載ミサイルが発射された。


 ピューーーーーーーン,ドドドドドーーーーン。


 そのミサイルは,センサー式物理攻撃バリアに衝突して爆破した。そして,限定的にその地点から半径100mの範囲を超高熱が覆った。その超高熱は,1000m離れた地表部では,すでにほとんど体感することができないほどになっていた。だから,上空で超高熱兵器が使われたことなど,地表の人は知る由もなかった。


 その高熱に耐えるように設計されていない魔法陣帆船は,まず横帆が一瞬で焦げ落ち,一切の魔力を発揮することもなく,静かに消滅していった。



 その日の夜,,,


 アイラとリブレは,リスベルと共に,再度,魔法陣帆船が破壊される映像を見ていた。そして,アイラは,得意げにリスベルに解説した。


 アイラ「ほら,ここよ。超高速で鉄の矢が5カ所刺さったのよ。センサー式物理攻撃バリアがまったく反応できない速度よ。そして,見てみて,今度は,超高温のミサイル攻撃よ。最初のバリアを通過して2番目のバリアで衝突したように見えるわ。おまけにこの超高温!いやーー,ほんと,この国の防衛力はすごいわね。魔法国や獣人国なんかの防衛力とは訳が違うわね。ハハハ」


 アイラは,もう笑うしかなかった。


 リブレ「確かに,この国の防衛力はすごいわね。これは,ちょっとやそっとの改良では対応できそうもない感じね」


 リスベルは,高速に頭を回転させた。そして,導き出した答えは,単純なものだった。フォアマストの魔法陣をすべて防御に廻す,というものだ。究極火炎魔法陣を,火炎バリアにして,究極氷結魔法陣を氷結バリアに転送する。これで,超高熱攻撃にはなんとか対応できそうだ。


 マッハ30での攻撃には,対応困難だ。そこで,センサーの位置を船体から1kmの範囲の円球に設置した。それに伴って,帆船の移動高度を1.5kmとした。基本設計は,前回と変わらない。少々,ソフトウエアを変更するだけだ。


 早速,翌日の午後2時,同じ場所の標高1.5kmに,試作3回目の魔法陣帆船が出現した。それと同時に,国防軍の最新鋭早期警戒機E-3Cの解析官が,その情報を本部に伝達した。本部は,すぐに,麦国駐在本部へ連絡し,超高熱兵器による攻撃を依頼した。


 運航し始めて,5分もせずに,超高熱兵器搭載ミサイルが襲撃してきた。今回は,センサー部が本体から1kmも離れた位置だ。通常のミサイルの速度は,マッハ5。この速度でも充分に早い。センサー感知後に,本体から100m離れた場所に最初の物理攻撃バリアが構築された。そして,それと同時に,3mおきに,5層の物理攻撃バリアと3層の円球の火炎バリアと氷結バリアが船体を覆った。


 ピューーーーーーーン,ドドドドドーーーーン。


 超高熱によるエネルギーをもってしても,5層の物理攻撃バリアと3層の円球の火炎バリアと氷結バリアのすべてを破壊することはできなかった。氷結バリアに到達する前に消滅した。


 試作3号の魔法陣帆船は,麦国の超高温兵器を見事に防いだ。そして何事もないかもしように,悠然として首都圏に向かって航行した。


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