5 集落1
「東洋人かい?珍しいね」
小さな集落の入口についてすぐに、中年の女が声をかけてきた。五十才くらいだろうか。やや小太りで、真っ黒な肌に空色のTシャツを着ていた。首元にはたくさんのビーズのネックレスをつけており、その中のいくつかには小さな十字架がぶら下がっていた。
「綺麗な顔をしているね。紅海の売り子かい?」
女は興味深そうにテッサの顔を覗き込んだ。
「違うよ。僕らは旅をしているんだ」
マキは笑って応じた。
「ふうん……言葉は話せるみたいだね。あんた達どっから来た?それとも、誰かに置き去りにされたかい?」
「ずっと西から。乗ってた車が雨で壊れちゃってね」
マキが答えると、女は「あんたに聞いていないよ」と言ってジロリとマキを睨んだ。
「姉は、あまり言葉を喋れないんだ。だから僕が代わりに喋っているんだよ」
「ふうん。そうかい」
女は再びテッサを嘗め回すように見た。
「ねえ、この辺に泊まれる宿ってないかな。ずっと歩いてきて疲れちゃってさ」
「このご時世に兄弟で旅ね……。あんたらもしかして、悪魔かい?」
「ちがうよ」
「神に誓って?」
「僕はあなたの神様を知らないから、あなたの神様には誓えないけれど、僕は僕の神様に誓って、悪魔じゃない」
マキは女と目を合わせてゆっくりと答えた。女は少し考えるような仕草をした後、ニヤリと笑った。
「大丈夫そうだね。残念だけど、この村には宿はないよ。小さな雑貨屋が一つあるだけさ。向こうにエルザリオ行きの乗り合いがある。この辺じゃ一番大きい街だ。人も多いし何でも揃うし宿もある。明日か明後日には出るだろう。それでエルザリオに行くといい」
「ありがとう。行ってみるよ」
「それで、あんたら、今日はどこに泊まるつもりだい?」
「宿がなかったら、野宿をするつもりだったけど」
「食べ物は?」
「缶詰のパンくらいなら」
マキがそう答えると、女はふうっとため息をつき、腰に手を当てて言った。
「仕方ないね。今日は私のところに来なさい。ちょうど使ってない部屋がある」
女はセラと名乗った。集落には東西に走る土の道を挟んで三十軒ほどの家が連なっており、セラの家は道から少し離れた北の端にあった。
土壁にトタンを乗せただけの簡素な家は、四つの部屋に分かれていた。一つが竈のある調理場と洗面所、一つがダイニング、残りの二つは寝室で、それぞれに木製のベッドと小さな机と棚があった。
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