4 砂漠の廃墟
岩山の教会を発って五日目、一行は砂に埋もれた町を見つけた。
黄土色の煉瓦とトタンを組み合わせて作られた家々が、規則正しく立ち並び、その壁が砂漠の浸食で半分くらい埋まっていた。狭い道の左右には、焼けた砂の中から、電線が外された木製の電柱が無数に突き出ていた。
マキの持つ古い地図には載っていない、大災厄の後に作られた町だった。数十年ほど前まで千人は住んでいただろう大きな町の、静かなメインストリートを、二人と一匹は歩いていった。
町の中央部に二階建てのコンクリートの建物があった。通りに掲げられた看板から、建物は役所などが入った行政の施設であることが分かった。入口の扉は半分ほど砂で埋まっており、マキは窓ガラスを割って中に入った。内部は荒れていたが、ほとんど砂は入っておらず、床には沢山の書類やゴミが散乱していた。事務室に残されていた帳簿や記録によると、この町の住民は、砂漠化の進行と近くの鉱山の鉱脈の枯渇により、四十年前程に別の場所に移動したことが分かった。
建物内を探索すると、職員用のロッカー室で白いシャツとジーンズと靴下を見つけた。長く過酷な旅の中で、二人が着ていた服はボロボロになっていた。テッサに新しい服に着替えてもらい、他に着れそうな服はハールに飲み込ませておいた。マキの体に合う服は見つからなかった。
その日はそこで一晩を過ごした。給湯室で、備蓄用のボトルに入った水と缶詰めの食料を見つけ、マキとテッサは数か月ぶりに食事を摂ることができた。
廃墟の町を出てから、さらに三日間歩き、長い砂漠地帯が終わり、砂の隙間から硬い地面が現れるようになった頃、灰色の空からようやく雨が降った。乾季の終わりの四カ月ぶりの雨だった。
雨は四日間降り続き、その間は近くの岩山に洞穴を見つけて休んだ。
服が雨に濡れ、砂だらけになっていたので、岩の窪みに溜まった雨水で服を洗った。焚き火で服を乾かしている間、マキは持っていた拳銃の手入れをした。アメリカ製の古い自動拳銃。ずっと前にオーストラリア大陸で手に入れたものだった。ずいぶん長い間所持しているが、実際に使ったことは数えるほどしかなく、普段は銃弾と共に密閉パックに入れて、バッグの底に詰め込んでいた。
この先に進んで、もし街が無かったとしても、海まで出て海岸線を北上すればいつかは港街にたどり着く。大陸の東の沿岸部は比較的治安が良い街が多いが、それでも、東洋人の女子供だけで街を歩き回れば、何が起きてもおかしくはない。
マキとテッサは過去に何度もそういう目には合っており、銃を見せるだけでは済まなかったこともあった。
長い雨がやんでから、二人と一匹は誰もいない荒野を歩いた。廃墟の町で手に入れた新しい地図によれば、近くの町まであと少しだった。そろそろ整備された道や畑や民家が現れる頃だった。
やがて大きな川に突き当たった。川には土手があり、人の手が入っている跡があったが、雨の後の増水の為、水面が土手のぎりぎりまで迫っていた。地図にある町に行く為には川を渡る必要があった為、橋を探して川に沿って歩いた。
しばらく歩くと、土の道を見つけた。車輪の跡があり、まだ使われているようだった。その道を辿り歩いていくと、道沿いに小さな畑の跡や崩れかけた廃屋が現れ始めた。
道の十字路に差し掛かったところで、車の火内燃機関のエンジン音が聞こえた。周囲を見渡すと、西の方角のずっと遠くから、沢山の荷物を載せたトラックが走ってきて、猛スピードで目の前を通り過ぎていった
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