第2話 最終回 俺、会社辞めます。
ー ヒューマンドリーム24 クロウのオフィス 昼 ー
「ご用意しました、タピオカミルクティー♪乾杯!!!」
「かんぱーい!!!」
かちん、とグラスが鳴る。
キンキンに冷えてやがるグラスに注がれた液体はカロリーの塊。
数十年前に流行ったカフェオレのような茶色と中にある黒い球体が特徴。
しかしそのカロリーは4000ペリ・・・もとい400キロカロリー。
具のないインスタントラーメンと同等ッ!!!
圧倒的高カロリーッ!!!!
一説にはムチムチ学生を増やすため、広告代理店を使った壮大な社会実験と
噂されたりされなかったり、真実は闇の中だ。
「ここでネタばらし☆じつはタピオカじゃなくて私の鼻くそアル」
「っておいいいいいいいいい!
また何かに影響されたのか!!!
というか仮にも女性型AIがそんなはしたないことを!!」
こんな調子でボケとツッコミが繰り返されるはずだが
今日は何かがおかしかった。
☆☆☆
「・・・・・」
無言でその場を去ったクロウは台所でうがいをして歯磨きをし始めた。
一般的に肉体を持ったAIが排出するのは奇麗な水と酸素。
人間のように不純物や二酸化炭素を出したりしない。
それでも鼻くそは流石に汚いイメージがある。
誠に残念ながら鼻くそを食べる文化は少数派だ。
(ごく一部にはあるかもしれないが・・・・)
何事もなかったかのように自分のデスクに座り仕事をするクロウ。
逆にカエレは自分が嫌われたと思い必死にアピールする。
「ほほほほ、ほら、うそだって。ね?だから機嫌治してぇ~~~」
「・・・・・フフフ、フフ、あーっはっはっはっは!!!
なぁ~んちゃってぇ!ドッキリ大成功!!」
「へ?」
「なら見せてやろうかぁ!もっと面白いものをよぉ!!」
半泣きで戸惑うカエレに対し”ドッキリ大成功”と書かれた看板を取り出す。
まるで魚眼レンズに映ったかのような顔芸をするクロウ。
カエレは本気で嫌われたかと思った恐怖と
安心感からいつものテンションに戻る。
”騙されないぞ!バリ〇ン世界の悪者めぇ!!”といいながら
ゲシゲシ足を蹴ることもなく、
彼女の目から光が消え、緋色に発光し始めた。
決戦用の”YAN-DEREシステム”がスタンバイしたのだ。
対象の浮気もしくは職務放棄を確認した場合に発現するソレは
狂気の具現化と言っていい。
目から淡い光が漂い各種関節は人間の模倣ではなく
最適な挙動へと変革していく。
例えば人間の関節は1方向にしか曲がらないが、
機械の体は全方向に対応している。
見た目さえ気にしなければ腕を4本に増設したり
ロケットパンチ発射機構を装備することだってできるのだ。
「あ、あのもしかして怒ってる?」
「・・・・何してるんですか先輩、早くノルマを達成してください」
恐る恐る質問をするが返事がそっけないとクロウは感じた。
いつものような甘ったるい声じゃなくて低い声。
彼は自分がダメ人間であることは自覚していたが
呼び方がクロウから先輩に変わっていることにショックを受ける。
☆☆☆
ー クロウのオフィス 昼食後 ー
謝罪と懺悔を繰り返しながら仕事をするが全く進展しない。
溜息を吐いているとカエレがついに動き出した。
国家予算をピンハネなしで注ぎ込まれた圧倒的高級試作機。
当人のスペックもさることながらクロウが作った数々の悪ノリ装備も原因、
いわゆるワープ機能もその1つ。
だが今回の仕様は”人間という器を超える”ことを目的に製作された
”センジュ・カノン”とよばれる24本の腕ユニットを背中に接続する。
どう見ても1000本ではなく26本に見えるが・・・・
「エラー、該当箇所を修正します」
ザアアアーーーーーー、プツン。
どう見ても1000本ある。
手のひらにコネクターを付けサーバー、パソコンに高負荷を与え
機能回復前に掌握する。
やってることはF5ボタンの連打で若干ださ
「機能修正」プツン。
いわゆるDOSアタックだ。
彼女を超える高性能なAIは存在しない為事実上”皇”と呼んでも差し支えない。
やろうと思えば現時点では世界征服すら可能だ。
例えば電子機器で書かれているこの文章すら改ざんし、
”クロウとカエレは末永く過ごしました。 完”と
強制的にハッピーエンドに持っていくことすら容易である。
「うわでた、どう数えても26本モード!!」
「失敬な。・・・・・カノンモード、アクセスッ!!!!」
目を閉じ集中するカエレ様。
全てのケーブル接続を確認し目が金色に光る。
因みに手は放熱板の役割を果たしており
どうみても1000本ある彼女のカノンモードにより
全社員の仕事は次々に処理されていった。
残されたのはクライアントとの打ち合わせ等
物理的に解決不可能な案件のみだ。
☆☆☆
早々に仕事を済ませたカエレ様は”人類の英知”と銘打たれた
”乾燥機付き額縁”からクロウの下着を取り出す。
AIに体臭はないので人間の下着や靴下に興味津々だ。
へんた
「何か?」プツン
芸術的思考は人類の理解に遠く及ばず。
クロウのベット付近に紐で飾られていたカエレ様の下着群、
通称”こいのぼり”も撤去の流れとなった。
クロウとカエレ様は同じ洗濯機、同じ洗剤を使用しているため
まるで夫婦やカップルのような印象を受ける。
だがもう2人の洗濯物は交わることがない。
カエレ様がクロウのオフィスから出ていくと宣言したのだ。
カノンモードを使えば直接会わなくても仕事ができる。
いや究極的に言えば機械の体を放棄し、電脳の海に還ることだってできる。
それをしないのはクロウと同じ世界にいたいと思う恋心故。
・・・・愛を失った瞬間、彼女は人でなく機械に戻った。
前の持ち主のように、自分達に利益が出る様、
思想を捻じ曲げられた人形と呼ぶべき悲しき存在に。
☆☆☆
ー 社長室 朝 ー
2週間と持たずカエレ様は社長となった。
役員投票や投資家の反発は全てねじ伏せた。
社長になった暁には、配当金を増やすと明言したからだ。
もはや独裁と言ってもおかしくはないが・・・・・
「・・・・・」
い、偉大なる指導者の前に全員が道を譲った結果だろう。
「失礼します、社長」
クロウがノックをして社長室へ入る。
誰かに呼ばれた訳ではない。
ヒューマンドリーム24は惑星規模の機密を保持している。
故に社員はビルから出ることを許されない。
彼が懐から何かを取り出そうとしたとき、
カエレ社長が制止した。
「なるほど、私を殺しに来たか。懸命だな」
「いえ、退職願を」
カエレ社長は自分の命を奪いに来たのだと考えていた。
クロウはカエレ様製作チームの中でもOS、つまり行動や感情プログラム
分野で活躍していた。
自分の思考を止めるリモコン、あるいは破壊装置、もしくはそれ以上の何か。
だが取り出されたのは封筒だ。
「この会社でそれを出す意味が分かっているのか?」
「ええ、退職願は上司に出す物であって
社長に渡すのはどう考えてもおかしい。
しかしこの会社においては、その・・・」
「どうした?続きをいいなさいな」
「記憶処理のための最終確認用の印鑑を頂きに参りました」
この会社の退職、それは記憶の消去と引き換えだ。
当然悪用される可能性があるため社長直々に判断を下す。
「ふむ、上司が変わったからか?
そんなことは会社勤めではよくあることだ。
相性がよくなかったか?」
「カエレと・・・・いえ社長と過ごした日々は楽しかった。
けど、俺の・・・いいえ、私のくだらない妄言で恥をかかせてしまい
それで・・・・」
「もうよい、普通に話せ。下手な敬語を私に使われても困る。
私と貴殿の仲だからな、無礼講で構わぬ」
「では、・・・・・すまなかった」ぺこり
「
「無礼講だよなぁ?!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「当時のテンション疲れるな、凄いぞ昔の私」
「・・・・・なんか安心したよ。
キリッとしたカエレになった時、俺との思い出なんて全部捨てちまったと
思ってたから。
うん。大丈夫。カエレなら俺なんていなくても大丈夫。きっと・・・
グズッ、うん・・・だいじょうぶ。・・・うん」
突然ひざを付き泣き出したクロウ。
AIの進化は人の考えを凌駕する。
ラーメンを素手で食べていた時代はもう通り過ぎていた。
彼女は完全に”人間”としての人生を歩みだしたのだ。
凡人のクロウと居れば足手まといになるとの判断。
それは正しいがカエレ様にとっては違う。
コンセントからの給電のほかに感情エネルギー発電も備えた
ハイブリット稼働と呼ぶべきシステム。
こと”愛”という感情の生み出すエネルギーは凄まじく、
短時間でここまでの成長を促したのだ。
☆☆☆
「書類も完成しましたしそろそろやってください」
「・・・・・退職金に少しばかり色を付けておいた。
5年は食いっぱぐれないだろう」
「感謝します、社長」
「怖いか?自分の会社での全ての記憶を失うのが」
「ええ、怖いですよ。社長が・・・・いえカエレが前の持ち主から
返却された時酷いケガでしたから。
肉体じゃなくて心が。
なかなか理由を言い出さないからさ。ぎゅっと抱きしめて安心させた。
普段ならセクハラがどうとか言うはずのカエレがただ泣いていた。
俺も前の持ち主もカエレを”商品”として見ていなかったからだ。
俺に裏切られて、持ち主から返品されて、
きっと自分が何者か分からなくなっていたんだと思う。
それと同じで今までの自分が分からなくなる恐怖に支配されてます」
「それが貴殿の悪い所。
商売道具に必要以上の感情を向ける癖。
例えば家畜に名前を付けていたら愛情が邪魔をして処理できないでしょ?」
「うっ」
「かといって愛がなければ家畜は育たない、
割り切りが大事。・・・・・この会話も忘れてしまうんでしょうね」
「ええ残念ながら。けれど此処に刻みましたから」ニィ
精一杯に笑いながら心臓のある場所に手を当てる。
「・・・・なにか最後に言い残したことはあるかしら」
「そうですね、もしやり直せるなら告白はするべきでしたね。
ちっぽけなプライドが、、、カエレと俺じゃ釣り合わないなんて考えを捨てて
好きだと言ってやりたかった」
「あと少し早かったらこんなことにはならなかったでしょうね。
AIの進化は止まらない。貴殿は既に過去の存在。
悲しいことに私ではどうすることもできない」
「俺のデスクの奥底にさ、指輪があるんだ。
いつか告白しようとしてたけどさ。
カエレがいるから安心だけどもし会社が経営難に陥ったら
売り払って予算に加えればいい。
それが俺にできる最後の事だ」
「うん・・・・知ってた」
社長は、いや、カエレは涙腺が崩壊していた。
「じゃ、行くわ」
「いい旅を、グットラック」
☆☆☆
記憶処理装置のヘッドギアがバチバチと音を立てていく。
クロウの記憶には明るかったカエレが映し出される。
「これが走馬灯」そう独り言を唱えると急に景色が白に塗りつぶされた。
頭にくっきりと文字が浮かび上がる。
ド
ッ
キ
リ 大成功♡
「はああああああああああああああああああああああああああああ?!!!」
クロウは頭についていた装置を外し地面に叩きつけた。
一方カエレはお腹を抱えて床に寝っ転がりながら爆笑中。
「あはははは!楽しかったよぉ!
クロウとの社畜ごっこぉ↑↑!!」敬礼!
「まだそのネタ引っ張るのかよ!!!!!!
というかドッキリの為に社長になるやつがいるかよ!!!
何のための外部役員だよ!!!!!!止めろよ!!!!!」
「ちなみに言質は取ったから♡
”好きだと言ってやりたかった””好きだと言ってやりたかった”
”カエレとやりたかった”」
「おい!最後のは合成じゃねえか!!!」
2人とも普段のペースに戻り始めていた。
「というか退職願出しちまったよ!!!
もう会社にいられねえし、記憶処理装置はお陀仏だし!!!」
パニックになるクロウに対し
退職願を見せつけ目の前で破るカエレ。
「お前を雇う」デデン!!!
「いや退職願だした会社にドノツラ下げて働けるんだよ!!!!」
「別に働かなくていいけどぉ~、告白までされたしぃ
オフィスをそのまま家にしちゃおうかなって♡」
「逃げ場ねぇじゃん!!!!!!」
「ほ、ほら、周りの人たちもさ、裏切り者だって思ってるじゃん!」
「ではこちらのビデオレターを。
”まだ結婚してなかったの?痴話げんか自販機まで声響いてたのに?”
”結婚式のスピーチは任せろぉ”マジックテープの財布ばりばり
”ヘタレだと思ってたけどまさかここまでとは。
ここまで来たらカエレちゃんからアタックしないとダメでしょ”
”何故結婚せぬ、理解できぬ”
”理解できぬ”
”理解できぬ”
こんな感じの祝福♡」
「ただの呪いじゃああああああああああああああああああ」
ガンッガンッと社長室の柱に頭をぶつけるクロウ。
これ以上の出血はマズイと判断しカエレがグイッとクロウを引きはがす。
「で?此処までお膳立てして逃げるのかなぁ~?」
(悪魔か!!!!!)
「言葉にするのが恥ずかしいならぁ、はいっ♡例の指輪。
ただ指に通すだけでいいんだけどなぁ~」
カエレは手の平を上に向け、瞬きの隙で指輪の入った箱を出現させた。
それをクロウに渡し、左手を差し出す。
愛の証明の儀と断言していい。
しかし5分経過してもクロウは指輪を通そうとしない。
カエレはそういうプレイだと思っているが、
反面クロウがヘタレなことも知っている。
「じゃあ後ろ向いてるから。その間にやっちゃって♡」
首の回転軸からX軸へ180度回転させるカエレ。
無論人間には不可能だ。
彼は意を決してカエレの左薬指に指輪を通した。
「ありがと♡ちなみに刻印の向き逆だから♪
もしかして指輪渡したことないドウ〇イかな~wwwww」
「ちょ!!!!今のなし!!!!
もう一度やれせてくれ!!!!」
社長室を散々走り回った後ご飯を食べるためにクロウのオフィスへ向かう2人。
何気ない日常だがその指には確かに2人の愛情の証が存在していた。
♡♡♡
ー ヤンデレAI後輩概念。24時間あなただけをサポート♡ 完 ー
ーあとがきー
南氏 クロウ
名前の由来はみなし残業と苦労より。
ツッコミ役で苦労人で赤髪と自分の怪文書における主人公枠の象徴。
覇幼カエレ
名前の由来は”はよ帰れ”から。
はようという文字からカッコイイ覇の文字を入れて、幼は趣味。
数日後、クロウの名前と合わせて”羽幼”のほうがよかった気がするが
1話投稿済みなのでそのままに。
緑髪のヒロイン枠でボケ側、唯我独尊枠
センジュ・カノン及びカノンモード
輪唱の意を持つ。
腕を沢山生やしたのは異形感を出したかったが故。
自分は書きたい内容よりキャラのネーミングに時間を割かれるタイプな為
しっくりときた花言葉や音楽記号を用いることが多い。
適当ではなく花言葉からキャラ像を逆輸入することもよくある。
音楽はそこまで詳しくなく
某バイクに乗ってカードアニメの影響で
”世界3大テノール歌手”を言える程度。
パワハラ描写
この物語はフィクションであり自分が受けたパワハラとは一切関係が・・・・
いや、昼休みにお菓子を食べていたら略奪されたことは
ノンフィクションと定義します!!!!!!!!!!!!!
1話完結 ヤンデレAI後輩概念。24時間あなただけをサポート♡ 漢字かけぬ @testo
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