サバイバー① 新世界の洗礼
P○VRではメインとサブ、2つの職業を持つことができる。
そして基本的にはメイン職の使用可能武器種のみを装備可能。
ちなみに自分がサ終直前にセットしていた職業は
メイン:テクニシャン
サブ :ゴースト
という選択だった。
テクニシャンの装備可能武器種は『ウォンド』と『タリスマン』。
残念ながらどちらもにLv1で扱えるようなものはなかった。
けど例外的に、職業と関係なく装備できる武装がある。
しかもそれがメインやサブ職の使用可能武器種なら必殺技が使えるのだ。
ちなみにゴーストの使用可能武器は3種あり、その一つは『刀』。
そしてボクはLv1のステータスでも装備できる刀を1本持ち歩いていた。
これで、なんとか最低限の武装を確保できたかな。
基本的に自分のアバターの動作は、もっている武器の種類に依存する。
刀を持ったときのゴーストはつかみどころのない動きが特徴。
敵の正面にいると思ったら、背後へ回り裂く。
滑るように敵集団のど真ん中に割りこみ、移動しながら後方を切りつける。
地面すれすれをまるで滑るように浮遊し、読めない太刀筋で敵をさばく。
まさに、ゴーストという名にふさわしい、変幻自在の動き。
数体いたゴブリンはそのHpをあっというまに失い、一度に消失。
黒煙となって消えた。
ボクの振るう刀『ハリセン』によって。
「なんでやねん!!!」
バシッ!!!!
思わず地面にツッコミを入れてしまった。
『ハリセン』はP○VRに実装されていた刀。
名前で想像できるとおり、ハリセンの形をしてる。ネタ武器だ。
でも低Lvで使える武器としてはそこそこの威力があり。
ゲームを始めたばかりの人に取ってはありがたいものではある。
さて30分どころか、5分もかからずに敵を全滅させてしまった。
これで終わり……なんてはずはないだろうな。
ゴブリンを全滅させると、予想通り周辺に霧のようなものが現れ、形を成した。
今度は巨大な芋虫のような敵が数十体あまり。
レーダーを見ると、ボクの周囲に数え切れない大量の敵反応が渦巻いている。
ゴブリンと比べて比較にならない匹数いるのは間違いない。
こう隙間なく周囲を囲まれると、さっきのように敵を翻弄する隙がないな。
なにか、他に使えそうな武器は……。
正面の敵に手間取ってるうちに、周囲を5体の芋虫に周りを塞がれてしまった。
一般的に4人以上で囲むと、相手に効果的な攻撃ができないと言われている。
けど、それはあくまでも人間がかこむ場合だ。
触覚を前に真っ直ぐに突き出してくるような攻撃はなかなかにキツい。
四方八方から触手がのび、ボクのHpを削っていく。
1/3ほど持っていかれた。
それでも、どうにかゴーストのスキルを使って敵の囲いを突破。
だが、一時ピンチを脱しただけ。少し先にも魔物の集団が待ち構えている。
だけど、ボクに取っては大切な隙間時間。
なんとかストレージを再び開いて、使えそうな武器がないか確認してみる。
だけど、探してもみあたらない。
そうこうしているうちに3方から敵が接近。
ボクはゴースト特有のステップによって、そのうちの2体の間に入る。
そして左右交互に切りつけ両方を殺消。
さらに前遠方にいる敵に向かって斬撃を飛ばす。
威力はそこそこだが、コイツにはスタン(金縛り)効果もある。
攻撃を受けずに間合いに入るのに都合がいい。
その直後。
レーダーがワームの後方に出現した別の存在を捉えた。
肉眼じゃあどんな敵か把握できない。
けど、レーダーに映ったそれはボクへの包囲を着実に狭めている。
ワームと同じ位の数。しかも、より速い動きで。
こちらの対応より早く状況が進行してる……。
こいつはいよいよヤバい……。
こういう場合、ボクはとにかく無心で目についた敵から倒すことにしている。
なにも考えず、今まで自分が培ってきた感覚で動く。
そのほうがうまく転がる場合が少なくない。
今は、間合いを詰めようとしてくるあのワームたちを倒す。速攻で。
それに全神経を集中する。
1対1なら、ハッキリ言って敵じゃない。
動きの止まったワームの懐に入り、一閃でそいつを撃破。
次は――
そんなボクの目についたのは、敵じゃなくそのドロップだった。
「これは!」
待望の武器。それは『ライフル』の一種。
ゴーストは刀の他に2種類の武器が使用可能だ。ライフルはそのうちの1つ。
刀と銃器なんて色々な意味でちぐはぐだと思う。
けど、そういうB級作品的なんでもあり感がP○VRの魅力でもあった。
ゴーストの場合、ライフルなら範囲攻撃と強力な1点集中攻撃がおこなえる。
包囲を突破するという意味じゃあ刀より期待できるだろう。
しかもこれは今の自分で使える全職用ライフルの中でもかなり強力なもの。
『花嫁のブーケに銃を仕込んだ暗殺武器』という設定のものだ。
……なんで、こう、ネタ武器がまた。
まあとにかく、早速それを装備。
まず、一点集中攻撃で前方の囲いに穴を開けた。
そして範囲攻撃をしながらそこを突破して後ろに回る。
これにより、なんとか包囲の外側から敵の背後を突く配置につけた。
そこから範囲攻撃で強襲。
芋虫の集団が半壊し、残りは瀕死の状態になりながらも特攻をかけてきた。
ボクは武器をハリセンに持ち帰ると、その集団に突っ込む。
そしてまとめて全滅。
芋虫の集団の外から迫ってきていた敵がいよいよ姿を現わす。
それは大型犬を思わせる大きさのジャイアントスパイダー。
大きさのわりに動きがトリッキーで速い。
だけど、やることはさっきと大して変わらない。
1点集中で開いた包囲の穴に――
そんな感じで。
ただ無我夢中で敵を倒して倒して倒しまくってるうちにラッシュが終了した。
それにしても連絡が取れたのは幸いだったな。
情報自体の価値は大した事ないかもしれない。
でも、知り合いからラッシュの情報が聞けただけで、心に多少の余裕が出た。
ただあれでも情報屋だからな。
おそらくサービスで教えてくれたということはないだろう。
それでもゲーム内通貨で要求されるなら出世払いでなんとかできる。
けど、もしP○VRと同じ報酬を要求されたら……。
正直ちょっと恥ずかしい。
まあなにはともあれ、なんとか乗り切った。
ただ、疲れがたまってるのか、めまいが……。
いや、これは……VR酔い?
こんなのP○VRで一回かかって……から……なん……年……ぶり……だ?
いつのまにか。
自分が真っ暗などこかにいることに気がつく。
ああ、そういえば、ラッシュとかいう敵の攻撃にさらされて倒れたんだっけ。
Hpが0になったわけではないけど。
やはり戦闘不能とみなされてしまうのかな……。
何も見えないけど、触感はある。
どうやら何かに座っているようだ。
何か時折地面が振動している。
その震動で、自分の姿勢が崩れ、横に倒れるのを感じる。
とっさに何かをつかもうとした手が、自分の思ったとおりに動くのを感じる。
どうやら、少しづつからだが動くようになってきているようだ。
それにしても、指の開閉が上手く行かない。
何かウエイトがかかっているというか、柔らかい風船をつかんでいる感じだ。
やがて目の前の暗闇が薄れ、明るい光にあふれ始める。
ここは元の『ネオ・イグドラシル』の世界?
それとも……。
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