ギルド追放④ いきなりネオ・イグドラシルへログイン


 これ、ネオ・イグドラシルどころの話じゃなく、ヤバいんじゃないか?

 


 そんなことを思ったのもつかの間。


 徐々に視界が明るくなり、周りが見えてくるようになる。


「ここは……」


 見渡す限りの大草原。


 それにしても、P○VRと比べてずいぶんと解像度が高いな。

 その違いたるや、モニターに例えると4Kと16K位の差がある。


 視界だけじゃない。

 風とそれに揺れる細葉の音、風の感触、草の匂い。

 草をむしって軽く舐めてみる。


「苦い……」


 五感全てが、今までのVRゲームを越える精度で実装されている。

 視界右上のレーダー表示がなければ、現実世界と錯覚してしまいそうだ。



 じゃあ、ここはどこだ?


 試しに、P○VRの要領でステータス表示を指定する。

 普通に同じUIが目の前に展開した。


 うん。やはり、ここはVR空間内だ。


 ステータスの中身を確認する。

 項目もP○VRと同じ。

 ただ、全てのステータスが初期状態の数値になっていた。


 スキルも基本技のみしか残っておらず、そのLvも1に戻されている。

 地味にショックだ……。


 ひょっとして、アイテムや装備は!?


 ストレージを見てみると、最後にもっていた構成のものがキチンと入っていた。

 武器のLvは1に戻されてるけど、復旧は難しくない。


 ……復旧か。

 なに考えてるんだろう。

 サ終したゲームの装備復旧なんてさ。意味ないのに。


 それに、装備できる武装はアバターの職業とステータス値に依存する。

 初期状態に戻されてるんだ。結局、ほとんどのものは装備しようがない。


 今のステータスでも大丈夫なものは……。


 アバターをカッコ良く見せるための見せ装備。

 それと、ギャグなどで使うネタ武器くらいなもんだろう。


 それにしても。

 P○VRのUIが表示されたということは、ここはP○VRのゲーム内なのか?


 サ終したシステムと同じサーバで、実はP○VR2でも作ってるとか……。

 いやそんな話、ウワサにも聞いてないな。

 第一、サービスの始まってないサーバにアクセスできるはずがない。


 そもそもこんなの1社が用意したサーバで実現できるような内容じゃない。

 いやそれ以前に、あきらかに従来のVRMMOのシステムを逸脱した実装だ。


 ……ていうか、ひょっとしたら。

 ここはすでに『ネオ・イグドラシル』のフィールドなんじゃないかな?


 でもたしか、条件を満たさないと入れないんじゃなかったか?


 なにはともあれ、情報が足りない。

 ここに人はいないんだろうか。あるいはフレンド……。


 そうだ、フレンドだ。


 スズカ……は確か連絡が取れない状況だったな。

 じゃあ、マシロか。


 通じれば良いんだけど……。

 よし、あった。


『メールの通り早速来てくれたんじゃな。総帥』


 フレンド欄のメニューを選択すると、早速返事の音声返ってきた。

 鈴のような声に反した年老いた口調。


「その懐かしいロリババア口調。

 間違いなく、マシロだな」


『ロリババアじゃないもん!

 これでも、お子様に見られないよう一所懸命やってるのっ、じゃ!』


 今まであからさまなロリババア体だった相手が、突然声相応の口調で怒鳴った。


 子供に見られないように、おばあさんっぽくしゃべる。

 ほどよくネジが緩んでる感じは、やっぱりマシロだ。


 それにしても、最後に声を聞いてから半年も経ってないのに、もはや懐かしい。

 涙が出そうだ。


『こほんっ。

 そ、それにしては、ずいぶんと早いの。

 まだ開始してから十分も経ってないのじゃ』


「やはり、ここはネオ・イグドラシルのフィールドなのか?」


『やはり、とはなんじゃ?

 総帥、自分の意思でログインしたわけじゃないの?』


「そうだな、お前には話してもいいだろう」


 ログインしてから今までのことを話してみる。


『ふむ。んーと、総帥の疑問に答えられることもあるけど……。

 もうすぐそんな余裕もなくなるんじゃないかな?

 とりあえず、今いる場所の特徴をくわしく語るのじゃ』


「特徴、か。遠くのほうまで草原しかみえない。

 遙か彼方には山が見えるが……」


『それは! ずいぶんと難儀な場所に現れたものじゃ』


「難儀な場所? それに余裕がなくなるとは、どういうことだ?」


『まあ、あとで話すの。

 もうそろそろ『天の声』が聞こえるじゃろうから、耳を傾けてね』


 『天の声』とは。

 VRMMOのワールド内で運営が全員に音声でアナウンスする放送の俗称だ。

 どのゲームにもだいたいそういう感じのものが実装されている。


 でも、それがあるということは。

 つまり『ネオ・イグドラシル』運営組織の存在を意味するわけだが……。


 いや、まあ、こんな大がかりなゲームがそれなしで成り立つわけがない。

 いて当然なんだけど、だれも正体を知らないというのはどういうことだろう?


 色々聞きたいことはあったが、


『管理者からの連絡です』


 マシロの言うとおり、どこからともなく『天の声』が響いてくる。


『ただ今から30分間、ラッシュの第1Waveが発生します。

 プレイヤーは安全な場所に避難いただくか、迎撃準備をしてください』


「マシロ!」


『ああ、言わなくてもわかってるよ。

 簡単に説明すると、今から総帥の周りに無双系ゲーム並みに敵が大量に湧くの。

 それをかわすなり迎撃するなりして、30分間耐える。そういう話なのじゃ』


「……マジ?」


 思わず素になってしまう。


『大マジじゃ。

 まあ、敵を一定数倒すとドロップがあるの。

 それで有益なアイテムが出ることをいのるのじゃ』


 そこで、フレンドチャットが一方的に切られた。


 いや、これはシステム側で不通になったようだ。

 ……なるほど、つまりラッシュ中はフレンド間の通信を許さないということか。


 なんにしてもここが『ネオ・イグドラシル』のフィールドなのがわかった。


 そしてじきにラッシュという状態になり、敵が大量に湧く。

 乗り越えるには敵を倒して効果の高いドロップ品を期待するしかない。

 そういうことか。


 その辺りがわかっただけでも収穫かな。

 なんにしても、今はそのラッシュとやらを乗り切るのが先だ。


 とにかく武器を装備しよう。

 ていうか、P○VRの武装なんて、使えるのか?


 そんなことを考えていると。

 今までなにもなかった草原に、突如モヤのようなものがいくつも湧く。

 そしてそれがなにかにスッと実体化した。


 モンスターだ。

 なるほど、確かにここはP○VRの世界じゃないね。

 あのゲームじゃあ、ゴブリンなんて魔物はいないんだから。


 それにしても、ずいぶんと自然な動きをしてるな。

 見た目の精巧さとあわせて、まるでホントに生きているように思える。

 多分どのゲームでもここまでの動きは見せないだろう。


 だけどそれだけに、そのモンスターがボクに放つ殺気まで感じさせる。


 そうだ! 武器。


 アイテムストレージを漁り、使える武器がないか確認していく。

 予想通りと言うべきか、強力なものはLv1のステータスでは装備できず。


 こうしている間にも敵はじりじりと近づいてくる。


 レーダーを見る限り、今のところ周りにいるのは8体。

 一斉に襲いかかられたら、さすがにダメージは免れないだろう。


 そして未知の敵だけに、どれくらいのダメージを与えてくるか見当もつかない。

 ひょっとしたら命すら失うかもしれない。


 ホントに武器はないのか?

 Lv1でも装備できる……。



 ……あった! これなら。

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