ギルド追放③ ネオ・イグドラシルへの招待

 スズカが行方不明?


 ずいぶんとオーバーな物言いだなと思った。

 ていうか、単にPCが壊れたか、急用が入っただけなんじゃないか、とも思う。


 そういえばマシロ、ボクほどじゃないけど発言がかなり芝居がかっていたな。

 今回も単にそういうことかもしれない。


 けど。


 その為だけにわざわざ、こんなメールを送ってくるだろうか。

 しかも、ゲームじゃ使っていないメアドを調べてまで。


 ボクは、その『ネオ・イグドラシル』とかいう世界のことを調べ始めた。




 それがネット上で騒がれ始めたのは一ヶ月程前。


 5つの各ゲームのVRフィールド内にいた多数のアバターが、突如消えた。

 そして十数時間後に強制ログアウトするという事件が発生。


 その被害者は全VRゲームプレイヤーの1割。

 約10000人を超えたと言われている。

 

 被害者は消失していた間、共通してある世界に転移していたと証言。

 彼らによると、そこでは各VRゲームの要素が全て実装されていたという。


 それがVRワールド『ネオ・イグドラシル』。


 その後4回ほどゲーム内転移が発生。

 徐々に実態が明らかになりつつはあるけど、やはり大部分は依然として不明。


 公式では、サーバと接続不通になってからログアウトするまでの間に見た幻覚。

 もしくは夢とされてるようだ。


 これらを受けてVRMMO有害論が持ち上がっているが、まだ私論の範囲。



 それにしても、ホントなら信じられない話だ。


 5つのゲームはイグドラシルを元にしているとはいえ、形態は大きく異なる。


 かたや正統派RPGが展開しているサービス。

 そして銃を撃ち合うFPSもあり。

 さらには巨大ロボットを操縦できるゲームまである。


 同時に成り立たせようとすれば、サーバにとてつもない負担がかかるはず。

 細かい部分でアバターデータの互換性の問題もあるだろう。


 そんな酔狂なことを実現できる会社は一体どこだというのか。


 ネットを検索したが、どうやら明確に名乗り出ているメーカーは存在せず。

 運営元もサーバの場所も不明だというのだ。


 その世界はまるで最初からあったかのように存在し、他ゲームと繋がっている。


 やはり眉唾ものの都市伝説。公式の言うとおり夢か幻覚だろう。

 と本来一笑するところだ。


 もしこれがマシロからのメールでなければ。


 その内容には、彼女が見た世界の詳細な様子が記載されていた。

 またリアルで面識のある友人と転移、同体験を共有しゲーム外で確認しあった。

 ともある。


 妄想を超えたなにかを感じさせる。


 メールの最後には、ログインの決意ができたら返信をいれるよう書かれている。

 ボクはその指示にしたがった。




 その週の土曜夜8時。


 ボクは自分の部屋で、VR世界に入るためのヘッドセットを手にしていた。

 その手が少し震えている。


 正直P○VRでのあの出来事はトラウマに近い形でボクの心に刻まれている。

 そうでなくても、通常のVRゲームと比べてリスクがあるわけで。



 情報だと、まず一度転移したら制限時間まで自分でやめることができない。

 時間がくれば強制的にログアウトされるそうだ。


 そしてその制限時間がさらに問題。

 土曜の夜8時~日曜朝8時の12時間となる。


 しかもゲーム内では時間が60倍に圧縮。

 つまり体感一ヶ月、ネオ・イグドラシルの世界から出てこれなくなるのだ。


 通常のゲームは制限時間が最大4時間で4倍圧縮の体感16時間。

 もちろんいつでもログインでき、制限時間内でいつでもログアウト可能。

 それと比べると、とんでもない話だ。


 しかも、制限時間中Hpが0になったアバターはネオ・イグドラシルから消失。

 その後、他のVRゲームなどに再びログインした形跡はなし。

 連絡がつかない状況になっているという話だ。


 ネットじゃHp0の彼らが今どうなってるか、様々なウワサが飛び交っている。


 心臓マヒを起こして死亡、とか。

 意識不明のまま植物人間状態になっている、とか。

 現世を離脱し新人類として覚醒、とか。


 だが、今のところハッキリしていない。



 正直怖くないと言えばウソになる。


 けど……。


『大体、私はあなたのロールプレイ……ですか?

 それに憧れてこのゲームの、このギルドに入ってきたのです』


 彼女の言葉が思い出される。




 ボクはヘッドセットを被り、電源を入れた。


「おもしろい。覇道を歩むにはこれくらいの余興がなくては」


 ボクの口から、そんな言葉が漏れた。




 通常、電源をいれると各VRゲーム共通のUIが展開される。


 当たり前だけど、起動してもP○VRのサービスには繋がらない。

 多分共通のストアに飛ばされるだろうからそこでゲームを購入すればいい。


 とりあえずアバターにレベルがない、○NVRあたりが妥当か。

 そんなことを思いながら目の前にゲームストアが展開するのを待つ。



 マシロによると『ネオ・イグドラシル』に全員が入れるわけじゃなく。

 既存のVRゲームで特定の条件をクリアしないといけないようだ。


 その内容は各ゲームによって異なるが、最初に条件が提示されるらしく。

 『総帥の腕ならどうとでもクリアできる』とマシロは書いていた。


 行き当たりばったりになるが、まあ彼女が言うなら大丈夫なんだろう。




 なんてことを考えながら待機しているが、景色は一向に真っ暗なまま。


 なんだろう。

 OSのアップデートでもやってるんだろうか。

 けど、昔じゃあるまいし、数分もかかるものじゃあ……。




 さらに五分ほど待って、気がつく。


 いや、これ、もうすでにゲームフィールド上にいるんじゃないか?

 手を握ったり開いたりしようとすると、ゆびを動かしている感覚がする。


 ストアが展開しないんじゃない。

 目が見えてないんだ。あるいは真っ暗な場所にいるか。


 どういうことだろう、故障?

 今まで体験したことのない現象だ。バグかもしれない。


 ……これ、ネオ・イグドラシルどころの話じゃなく、ヤバいんじゃないか?

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