第8話 8月に見た除霊の夢(ホラー?ギャグ?)

これは自分が数年前くらい、そして当時、ほぼ会っていない状態だった祖母がまだ存命だった頃に見た夢の話。

 自分は布団で隣で母と寝ていたはずだった。夏はリビングに近い畳の間が一番涼しいと言うことで、揃って寝ることはよくあることだった。

 普通なら母の寝息なりいびきなりが聞こえるが、目を瞑っていた私の耳が拾ったものは。


「〇〇……〇〇……。」


 いないはずの祖母の声だった。母方の実家に行った時よく聞いていた人の声を間違えるわけがない。しかしどうして祖母がここに、しかも滅多に来ない我が家にいるのだろうか。何よりこの時祖母は生きている状態だが1人で外に出るのは困難な状態だったと聞いたばかりだ。

 それなのにだ、老人が彷徨っているにはおかしい時間に老人の声が隣で聞こえている。母の名前を呼んでいる。


「〇〇どこ、どこおおお。」


 あ、これは夢か、夢だと認識するにはあまりにもわかりやすすぎた。いつものあれだ、夢の中で除霊無双しろということかと悟った。(今思えばどうしてこの思考に辿り着いたかもわからない。)


「〇〇ううううぅどこおおぉおおおおおおお。」


 大声にびっくりして私は隣の布団を跳ね除け飛び起きた。大声もそうだが、その「どこおおおおお」と叫ぶそれが、突然知っている祖母の声じゃなくなったらそりゃ驚く。隣の布団は空、母はいない。そこはほっとした。

 しかしいるのは全身真っ黒で顔も見えない、そして四つん這いでひたすら母の寝ていたはずの布団を這い回る、誰だこいつ状態のナニカだった。

 声も、祖母の声と、ギュルギュルと音声テープを巻き戻すようなノイズが混じった『明らかに祖母と断定できない声』となっていた。(テープの巻き戻し音がわからない方は検索すると出ると思われるので一度聞いて見てほしい)。


 こんな姿のモノを見た自分の第一印象は「なんだこのキモいの。」だ。

 だって想像して欲しい、音声のおかしい黒い人間形の物体が四つん這いで這い回る姿はGだ。それと一対一のタイマンを張れと言うのかと、素手で。そう思うと展開の理不尽さに私は怒りを覚えた。その勢いで横っ腹を思い切り蹴っ飛ばした自分は悪くないと思う。距離を稼ぐためと怯ませるための行為とはいえ、思いっきり力が入りやすい左側へヤクザキックすると、なんか柔らかい綿を蹴飛ばした感覚がした。影は痛かったようでしばらく悲鳴をあげてのたうち回っていた。


 悲しきことに夢の中の自分は創造力が謎に豊かだった。


「そうだ、押入れの中に盛り塩が入ってたはずだ!!」


 なお現実の押入れに盛り塩はない。自分の服が入っていたためそんなものはない。

 そもそも皿の盛り塩なんて箪笥の中に入れたら絶対ヤバいことになるだろ落ち着けよあるわけねーんだよ、などと現実思考的な自分が考えたが、夢の中の自分は自信満々に押し入れを開けた。

 いつもなら服が入っているはずなのに、なんと盛り塩がきちんと皿にあった。

 それも金色に輝いてひとつまみどころか『一掴み』できるほどの量の塩が。果たして本当にそれは塩だったのかと今でも疑問である。

 だが夢の中の私は思った。「勝った!!」と。


 塩(金)を左手でわし掴み、先ほどのヤクザキックで痛いところに入ったのかぐるぐると回っている黒い物体に目掛けて投げた。


「喰らえ黄金の左手による不動明王浄化の塩!!」


 的なことを叫んで、だ。何故叫んだかすらももうわからない。

 そして金色の塩は見事黒い物体にヒット。ヤクザキック当たった時よりもさらに痛そうな奇声を上げてのたうち回って……。


 というところで目が覚めた。すっきりした朝だったし隣は母がちゃんと寝ていた。


 ところでこれにはつい最近、後日談ができた。

 自分が母にこの夢を見たと話したところ、同時期、母は母で祖父(つまり母の父)が「母さん(祖母)は何とかするから。」と伝言された夢を見たと言うことが判明。


 もしあれが本当に祖母だったら申し訳ないことをしたと思う、今日この頃の自分だった。

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