第6話 地下室の令嬢とデスゲーム(ホラー風味?)

 この夢における自分の立ち位置は不明、視点が2つのサイドで変わったため、監視カメラ的な意識だったことを記しておく。

 2〜3人くらいのいい歳をした大人が、草をかき分けて木を支えに奥へと進んでいく。女性と男性それぞれいた気がしたが正確な人数は把握できない。

 時刻は夜。肝試しをするにはちょうどいい暗闇加減だった。彼らがまっすぐに進んでいく先にあるのは、朽ち果てた家だった。

 ……若者達の視点から、突然1人の少女と執事服を着た男が一室で会話する場面に変わる。


「ああもう、また此処に馬鹿どもがくるの!?何人目なのよもう!!」


「お嬢様、此処に貴女が居続ける限り続くかと思われます。」


「ええぇ……たくさんものが置けて、静かで、とても良いところを見つけたのに、また探さないといけないの?嫌よ、私は此処から出ていかないわ!」


 少女は黒と赤の主張が激しいゴスロリ?風のドレスをふわりと翻して天井を見上げた。


「絶対出ていかないもの、だから向こうから出ていってもらうわ。」


 くすくすと笑う少女は、緩いウェーブが美しい金髪と、アクアマリン色の青眼、典型的な外国人美少女の容姿。しかし唇からのぞいた2本の牙が彼女は人外なんだと思わせたのだった。


 そうして視点は切り替わって、人間男女チームが朽ち果てた一軒家の中で探索をしているところになった。

 誰もが逸れないように一室ずつ探索して動いているらしい。それを見ていると勝手に単独行動起こすキャラクター的な、ホラーゲームや映画のようなパターンじゃない行動を取ることってあるんだなと純粋に驚いた。


 やがて1人が「あった!!」と他のメンバーを呼んだ。

 この部屋は割と広くはない、ちょうど1人部屋が欲しい人向けの部屋、という感じの洋風の部屋、にも関わらずしっかり和風の押入れがあった。襖も床もボロボロだが、見つけた男が懐中電灯を向けた先は、不自然なくらい真っ白で正方形の壁紙。ちなみに他の壁は茶色く変色してしっかり年季が入っている。怪しさ満点だが若者故か彼らは臆さず白い壁を破り、現れた鉄の扉の取手を引っ張り開けた。

 力はそんなに要らなかったようで、ぎい、という音を立てながらも容易にそれは開かれ、赤の絨毯に金糸の刺繍が見事なカーペットが敷かれた降り階段……この男女が探していたらしい目的のものを露わにした。


(自分は知っている、これから何が行われるか、君達はもう生きて帰れないというのに、それでも行くというのか。)


 不意に自分の中に、そんな言葉が浮かんだ。絶望、というよりも、諦めに近いような感情が込もっていた誰かの言葉を、自分は彼らに伝えることはなかった。


「まぁまぁいらっしゃい、久しぶりのお客様だわ!」


 木製の床と壁、そこに洋風のランタンが四方に吊り下がり、火の灯らない暖炉が一つと、2人掛けの円形のテーブル。綺麗に漂白されたテーブルクロスには、真っ白い陶器で繊細な模様を描いたティーセットが1人分。きっとも何もない、それらは全て前に座っている赤と黒のドレスがよく似合う美少女の為だけに誂えられたモノだろう。

 美しい少女は笑顔も美しい、ただティーカップを持って座ったままの態度は言葉とは裏腹に歓迎していないようにも見える。


「地下室の幽霊令嬢、この噂を辿って貴方達は私に会いにきたのね?」


 少女の問いかけに、彼らは誰もが押し黙り、互いの顔を見やった。誰が言い出したのかと目線で探り合い、その言い出しっぺに言わせようとしているのが見えた。


「まあこの辺りにいるなら、私の存在は誰もが知っているものねぇ。誰もが視ることができるって。」


 ざわ、と男女から反応が出る。見透かされた恐怖か、それとも好奇心のまま動いたことへの後悔が襲ってきたのか、たった少しの悲鳴のさざめきだけでは判別つかなかった。


「まあでも、せっかく私を求めて来たのでしょう?少しは幽霊らしいことをしようかしら?」


 彼女はカップをソーサーに戻すと、椅子から降りる。その前に執事に目配せをしていたのか、彼は既にあるものを抱えていた。


 それは誰かが使い古したと思われる、赤いランドセル。


「これはものを入れるバックと聞いて、幽霊らしいものを詰めてみたのだけれど……開けてみる方は、いるかしら?」


 赤いランドセルを執事から受け取って、少女は振り返り笑った。牙を見せない淑女の笑みは、少女らしいあどけなさをも醸し出して人々から警戒心を取り除いた。

 ランドセルが開けられたのは数秒だった。探索者の1人である茶髪の利発そうな女性が自ら進んで少女に近づき、ランドセルを受け取ったのだ。

 幽霊のランドセルという単語に興味を持ったのか、それとも周りがまごついている空気を安全なものに変えたかったのか、おそらく両方持ち合わせた感情でそれを手に取って、開けた。


「えっ?」


 ランドセルを覗き込んだ女性は、飛び出した『ナニカ』によって頭部から丸呑みにされた。血痕も残さず、音もなく、ランドセルに潜んでいたモノが食らい尽くした。

 ランドセルが落ちる、しかし、封は解かれた。

 黒く、形状しがたいナニカはランドセルの金具をゴトゴトと鳴らして、残りの男女へゆっくり近づく。

 瞬間、脱兎の如く彼らは上へと駆け上がった。泣き声、悲鳴、怒声、階段を踏み荒らす音を立てて、この家から出ようと押し合い罵声を飛ばし合った。

 そこに仲間意識はない。ただ自分が生き残るための本能だけが支配していた。


「さあお逃げなさい愚かな侵入者達。」


 その様を見て、令嬢は嘲笑う。牙を剥き出して、呪詛を吐いた。


「私の玩具から逃げられたら勝ちよ?でもねぇ。私、玩具はたぁくさん持っているの。」


 彼女は腕を広げる。黒いレース入りの手袋に包まれた華奢な腕、何もないが、空気の歪みから、何かが解き放たれたのだろうと察することができた。


「私の安息を邪魔したのだから、その分楽しませてちょうだいねぇ?」


 悪魔のような笑みが、自分に向けられた……と気づいた瞬間、目が覚めた。


 大抵、こういう夢の場合己がメインとして動くことができるのだが、この夢は終始『自分』というキャラクターは出てこなかった。出られなかったし伝えられなかった。彼らが危ないとわかっていても、止めることをしなかった。


 何故だろうか、自分はこの夢だけは『既に終わった物語』として、読者の目線でずっと見ていたのだった。

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