第8話 お大事に
「ご飯はちゃんと食べれていますか?」
「はい。出されたものはきっちりと」
「夜は眠れていますか?」
「最近寝つきは頗る良くて、月が一番高く上るまでには眠ることができています」
「朝は起きられていますか?」
「はい。それはもうスッキリと。今日も朝からイーリスと庭のテラスで朝ごはんを食べました」
「よかったです。部屋から一歩も出ていないと聞き、心配しておりました」
「恐縮ですわ」
困ったような笑みを浮かべて応える。
今話しているのはジョン・ルベルティと言う名の医者である。エツェルニダス家が手配してくれた私の主治医である。
昨日“優しいビジンは皆いなくなっちゃう”と教えてくれた女の子の父親だ。
「娘とも遊んでくださって、ありがとうございます」
「いいえ。娘さんは私の気晴らしに付き合ってくれているのです。お礼を言うのは私の方ですわ」
娘に似た笑みでルベルティ医師は笑った。
「そうだ、最近リラックス効果にアロマはどうかと知人の商人から頂きましてね。アロマセラピーと言うものもあるほどです。良ければクロンヌ様もお試しください」
「まあ、ありがとうございます」
手元になかったようで助手の青年を呼びつける。アージナルと呼ばれた青年からいくつかのアロマが入った袋を受け取った。
「見習いの方かしら?」
「はい。先生のもとで医学を学ばしていただいております」
「素敵ね。もしかして、公国の方かしら?」
「ご明察です。生まれも育ちも公国です。実践を積むために参りました」
アージナルさんは公国特有の翠の眼をしていた。ようは彼も彼とてイーリスの兄同様留学みたいなものなのだろうか。
ミレニオガレス王国のエツェルニダス領とは公国から学びに来る者がいるほど、医学界で有名だったのか。認識を改めなければならない。
「熱心なものね。公国だけでも充分でしょうにわざわざ他国にまでいらっしゃるなんて」
私では考えられない熱量だ。
「エツェルニダス領は領土そのものが療養地として有名です。特にホスピスや精神医学においては公国よりもはるかに進んでおります。その技量をしっかりと学び自国に広めたいのです」
「あらまあ」
確かに、イーリスや領民を見れば言わんとしていることは理解できる。
「先生、熱心で良い助手をお持ちですわね」
「まったくです。いずれ私より優秀な医者になるでしょう。本当は当初の滞在期間は終わっているのですが、ここでもう少し学びたいとわざわざ滞在期間を延長してまで学んでいるのです」
ルベルティ医師の言葉にアージナルさんが照れたように笑った。
「恐縮です」
「私もご健勝をお祈りいたします」
二言三言話し、二人から「お大事に」と送り出された。
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