第7話 朝食
「本日も朝からお義姉様に会えたこと、イーリスは非常に嬉しく思います」
エツェルニダス邸での生活も慣れ、軽くが運動も始めたことで私の生活習慣は整い、朝から起きられるようになった。朝起きれたのならテラスで一緒に食べたいと言っていたのを思い出し、中庭のテラスに向かう。
すでにイーリスは座っていて、私を見つけて嬉しそうに微笑んでいた。
ミレニオガレス王国には珍しい翠色の瞳はまるで朝露に輝く若葉のような生命力に満ちている。
北にある公国の血を引いているかららしい。
公国は医学が発展しており、3代くらい前に療養地として有名なエツェルニダス領に優秀な医師を迎えるべく、公国でも腕利きの医師を婿にもらったのだとか。
「おはよう、イーリス。私も朝からあなたに会えて嬉しいわ」
「まあ、お義姉様ったら」
使用人が朝食のサンドイッチとフルーツと紅茶を持ってきた。
「そういえば、お父様は明日帰ってこられるそうです。お義姉様さえ問題なければ会いたいとおっしゃられていました」
「ありがたい話だわ。こうしてここに来させていただいたのもエツェルニダス侯爵のお陰なのだから当然、会ってお礼を伝えさせてちょうだい」
「ありがとうございます! 父もきっと喜びます」
「いらぬ心配をおかけしてしまったわね。申し訳ないわ」
「いいえ! この際思う存分甘えてください! お義姉様は私たちの家族と言っても過言でありません!」
姻族だからなぁと思いながらサンドイッチを食べる。
朝市で使用人が仕入れてきたものなのか挟まれている野菜が新鮮でおいしい。
「お兄様も帰ってくると言っています」
「ヴィエルムが?」
私と同じ年のイーリスの兄である。現在公国に医学を学ぶため留学中だ。
「ええ。手紙では何も言っておりませんでしたが、きっとお義姉様のことが心配なのです」
そんなわけがない。
私から言わせればあの男はマッドサイエンティストである。ただ単に妹の婚約者の姉が王族に失礼を働く奇病に罹患したと思い、面白がって帰ってくるのではないか。
「昔からお義姉様とお兄様って仲が良いですよね? 小さいころ二人で難しい話をしていて私には何もわからなくて、でもお兄様はとても楽しそうで、お義姉さまもお兄様の話に付き合っていた印象です」
「ヴィエルムは難しい話を分かりやすく話してくれるから聞きやすいのよ」
頭はおかしいが、頭は良いのだ。昨日の頭痛の対処法もヴィエルムから聞いた知識だった。
「お兄様が帰ってきたらまた昔のように話せたらよいですね。良い気分転換になると思います」
「忙しいでしょうから、時間を取るのは申し訳ないわ。近所の子どもたちが仲良くしてくれるから十分よ」
「そうでしたね。もうすっかり仲良くなってしまわれてとても嬉しく思います。私も最近子供たちに会ったらお義姉様がいっぱいお話ししてくれるから嬉しいって。一体どんなお話をされているのですか?」
「当たり障りのないことだわ。学校の話とか、勉強の話とか、今日こんなことがあったとか。でも、そうね昨日は奇妙な話を聞いたわ」
「奇妙、ですか?」
「ええ。なんでも『優しくてビジンな人はみんないなくなっちゃう』と」
「ああ、それは……」
イーリスが目を伏せ飲みかけた紅茶のカップを置いた。
「それは、おそらくロージェのことでしょう」
「ロージェ? 聞いたことがある名前だわ」
「ロージェ・チェドロス――チェドロス商会の会長の娘です」
「ああ、あそこの」
何度かパーティーで会ったことがある。
明るいオレンジの髪でそれに負けないくらい明るい笑みを浮かべる少女だったはず。
「そう、昨年お母様がお亡くなりになって塞ぎ込んでいるとは聞いていたけれど、エツェルニダス領に来ていたのね」
「ええ。しかし、お姉様が来る三日前くらいに自死されたのです」
「自死……」
あの女の子がお祈りの動作をしていたのはやっぱり自殺であっていたようだ。
「私も何度かお会いしていて一緒にお茶したりできるまで回復していたのです。しかし、体調を崩されて、そのまま気づいた時には海に飛び込んでしまったようで、遺書も見つかりました」
「そう……。辛いことを思い出させて申し訳ないわね」
「いいえ、だから、お姉様も困ったことがあればいつでもおっしゃってくださいませ。一人で悩まず、頼って下さい。この領の者は皆、患い、回復したいと願う者の味方です」
「……ありがとう、肝に銘じておくわ」
まあ、何も患ってはいないのだけれど。
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