第5話 療養生活
有言実行とはこのことで、イーリスはあのお父様から見事私を実家に連れて帰る許可を得たらしい。
イーリスといい、殿下といい、現状を面倒臭がって適応することに努力するのではなく、自らの手で打開しようとする気概が素晴らしい。私にはないものだ。
「クロンヌ様! 今日もいた! ねえ、今日も勉強教えて!」
「あ、ズルい! わたしの方が先だもん!」
「それより一緒にかけっこして遊ぼうよー」
首都の屋敷よりエツェルニダス侯爵領に移って数日。地元の子どもたちと仲良くなって遊んだり勉強を教えたりするようになった。
最初は貴族の娘と言うことで遠目で見られていたが、何日も気に入った木の下でボーっとしていると恐る恐る話しかけてきた。
別に、仲良くしなくてもいいのだが義妹(予定)の領地で家の評判が落ちるのはよろしくない。これ以上家に迷惑は掛けられない。
適当に接していたらすっかり懐かれた。
ボーっとする場所を室内から木の下へ移しただけでイーリスには喜ばれたが、子供たちと遊んでいると泣いて喜ばれた。
領主の娘に「お義姉様をよろしくね」と言われ子どもたちは喜び、領主の娘に覚えが良くなると子供たちの親も大喜び。
療養のために他国からもお忍びで来る貴族や王族がいるためここの領民は素性を探ろうとしない。貴族でない平民の人たちに婚約破棄のことがどれだけ伝わっているかは知らないが、療養地として選ばれる理由がよく分かった。
風は穏やかで気温も温暖で、とても過ごしやすい。
永住したいとすら思える。
勉強を教えて、遊んで、そろそろ日が落ちる時間になったので子どもたちを送りつつ散歩をする。
しばらく部屋に閉じこもっていたせいで体力が落ちてしまっていた。私のもとに来る子供たちは医師の子どもが多いので頭が良く、知識も多い。何をしてもすぐ疲れる私を見て、事情を話すと「健康に悪いよ!」と運動のため家まで送ることになってしまった。
「ねぇ、クロンヌ様。こまったことがあったらわたしたちに言ってね! 一人で考えるのは良くないって父さんが言ってた」
「そうだよ、クロンヌ様優しくてビジンだから。ここに来る優しくてビジンな人はみんな一人でどっかいっちゃうの」
「『みんなどっかいっちゃう?』」
「うん。家に帰る人もいるし、“こう”なる人もいるの」
そう言って女の子が祈りのポーズをした。
思いつめて自殺でもするのかしら。
「ありがとう。ちゃんと相談するから安心してね」
安心も何も、そもそも私はそこまで優しくないし自己中心的だし思いつめてもいない。
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