第29話 犬


「普通は倒したら魔石とかアイテムをドロップするはずなんだけど……」



そうなの? という感じで小首を傾げるグレーウルフ?


「あんたがドロップアイテム?」


そうグレーウルフ?に問うと次は反対側に首を傾げた。

どうやらこの子も分からないらしい。


(でも自我はありそうだよね。 なんかこっちみて怯えてたし。 めっちゃ媚び売って来たし)


さてどうしようかと無言で見つめる。


(仕留める? 別にそれはそれで構わないけど)


連れてくとなったら世話が大変だ。

これからどれくらい籠らなきゃいけないかも分からない。

食料だって限りがある。

それにこのダンジョンから出る時はどうする。

連れて出られるのかも分からない。

そもそもセーフティーゾーンに入れるのかすら怪しい。


(……面倒だな。 留め刺しておくか)


考えるのが面倒になり無言でナイフを構えた。


きゅーん……


そんな事を考えてたらグレーウルフがその場でひっくり返りお腹を見せた。


完璧な服従サインだ。


薄っすら涙目な気がする。


「……分かった分かった。 殺さないよ。 ダンジョンから出るまでだからな」


はぁーっとため息を吐きナイフを仕舞った。


するとお腹を見せていたグレーウルフ?はぴょんと立ち上がり足にすり寄って来た。


「……もしかしてマーキング?」


匂いつけられてる?


そう問うとギクッと体を揺らした。


身体浄化ボディークリーン


なんとなく嫌だったので匂いを消してやった。


そしたらグレーウルフはなんだかしょんぼりしていた。


「次マーキングしたら仕留めるから」


きゅーん……


しぶしぶと言った感じでグレーウルフは鳴いた。


そのまま奥に進むと6階へ続く道が見えてきた。


再びナイフを取り臨戦態勢のまま進む。

バチッ


きゅーん!!きゅーん!!


そのままスルーしていこうとしたがあまりに鳴くのでしぶしぶ振り返る。


すると5階と6階の境目でグレーウルフ?が立ち往生していた。

見えない壁に向かって必死に引っ掻いている。


(通れないのか)


面白いなぁとその様子を6階側から眺める。


きゅーん!! ぎゅーん!!!!


「通れないならしょうがないよね。 短い間だったけど楽しかったよ。 じゃあね」


ひらひらと手を振る。


グレーウルフ?は置いて行かれるのを理解したらしくなお一層鳴き始めた。


ギューン!!!!!!ギューン!!!!!!


見えない壁に向かって体当たりを繰り返す。


「通れないのはしょうがないじゃないか。 諦めなって」


私の言葉を理解しているのか今度は首をぶんぶんと振りはじめた。


それを見てため息を吐く。


「なんでそんなに私と行きたがるの。 君モンスターでしょ。 私君を仕留めた人。 分かる?」


ギューン!!!!


そう言ってもグレーウルフ?は行動を止めなかった。


(私なんかのどこがいいのか)


そう思ってもそんなに必死に求められるのは悪い気はしなかった。


(モンスターに見えないしね)


「なんだか当たり屋にぶつかられた気分。 ……そうだ、君の名前アタリにしようか」


にひっと人相の悪い笑みを浮かべ悪ふざけでグレーウルフ?をそう呼ぶとグレーウルフが光った。


そして私にも衝撃が走った。


キューン!!!!


体当たりしてぶつかる筈の壁をすり抜けて私の足にぶつかったからだ。


「え? 嘘。 通り抜けた?」


キュキューン?


鑑定をすると名前がアタリに変わっていた。 そしてその横に従魔という文字がついていた。


「心なしか白くなった? 保護色にならないじゃん、どうすんの」


そう言えば何故か胸を張られた。


「まぁいいか。 ……行くよ、遅れたら置いてくからね」


キューン!!


そうアタリに言い今度こそはと6階に足を進めた。



6階もそれまでの階と変わらない様相だった。




(1、2階はアッシュウルフとダークスネーク。 3階と4階は小蝙蝠スモールバッドだったけど6階からは何が出るんだろう)


5階から出れたグレーウルフもといアタリは興味深げにふんふんと地面の匂いを嗅いでいた。


「……犬じゃん」


ぽつりとそう呟く。


するとアタリは顔を上げぶんぶんと首を左右に振った。


「やっぱり言葉理解してるよね」


そう言うと今度は小首を傾げうるんだ瞳でこちらを見上げてきた。


(あざと……)


うへ……と負けじと見下した。


何故か顔を背けたら負け、みたいな空気がアタリとの間に流れた。


私を見上げている分アタリが不利だ。


(いつまでそのあざと顔続くかな)


じっと圧をかける。


アタリは疲れてきたのか顔がプルプルしていた。


そんな事をしていると何かが近づいてくる気配があった。


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