第27話 ボス部屋



(……ボス部屋? え? ここそんなに浅いダンジョンなの?)


ドアの前まで行くと身長の何倍もありそうな扉を見上げる。


(扉閉じているけど……どうすんの? 押すの引くの?)


軽く扉に触れる。

すると扉はひとりでに内側へと開いていった。


扉の向こうは円形の空洞となっており体育館程の広さはありそうだ。


(モンスターは……いない)


まだ部屋に入らず外から様子を伺う。


(これって部屋に足を踏み入れたら扉が閉まるパターンかな? そんでもって閉じたらモンスターが出てくる感じ?)


どうしようかと迷う。


明らかなボス部屋だ。 事前情報なしで進むにはリスクがある。


(……でももう上の階だとレベル上がりにくくなっちゃってるからなぁ)


しばし一人で悩むと意を決し、防御結界ディフェンスバリア身体強化ボディプロテクトをかけ部屋の中へと足を踏み入れた。


バタンッ


(……やっぱり入ったら閉まるパターンなのね)


ちらりと閉じたドアを見る。


部屋の中に灯りがともりモンスターが姿を現した。


(……アッシュウルフ?)


それはダンジョンに入る前に見た狼型のモンスターに似ていた。


(アッシュウルフ……だよね? でも大きさが少し違う……?)


モンスターと距離があるからなのか確信が持てない。

アッシュウルフをボスモンスターにするには格が足らないんじゃないかという思いもある。


違和感を覚えたので鑑定を使用した。


(……グレーウルフ? アッシュウルフじゃない!!)


私が臨戦態勢をとった瞬間グレーウルフも遠吠えをした。


するとグレーウルフの周りに狼の群れが出現した。


(10…いや20は居る?)


ナイフを構える。


グレーウルフが吠えるとアッシュウルフが一斉にこちらに向かってきた。


ギャウン!!


そして防御結界ディフェンスバリアにぶつかった。


(……レベルが上がったおかげでダンジョンに入った頃よりも強固になったんだよね……)


防御結界ディフェンスバリアを壊せないアッシュウルフ達が周りでギャンギャン吠えている。


グレーウルフはアッシュウルフ達の奥で目を点にしている。


(その気持ちは私も分かるよ、グレーウルフ君)


グレーウルフの予想では、大勢のアッシュウルフに囲まれた私が慌てふためいてやられるのを見たかったのだろう。


だが実際は防御結界ディフェンスバリアの中からポケットに入れてた竹串を取り出しアッシュウルフ達に投げつけている。


スキルの効果のお陰でアッシュウルフ達に面白いように刺さる。

やり過ぎると虐待に弱い者いじめに見えてしまうので、ある程度弱らせるとサクッと仕留めていった。



辺りにいたアッシュウルフを仕留め終えると視線をグレーウルフに向けた。


グレーウルフは後ずさりした。


だが気を取り直したグレーウルフはまた遠吠えをしアッシュウルフを召喚した。

今度の数は先ほどの倍だ。


(……あのグレーウルフ永遠に召喚出来るの? ここってもしかして良い稼ぎ場?)


頑張って遠吠えしてアッシュウルフを召喚するグレーウルフを、私は腕を組んで眺めた。


グレーウルフからしたら余裕ぶっているように見えたのだろう。

それで頭に来たのか遠吠えに力がこもったように聞こえた。

だがそのせいで召喚し終える頃には喉が多少枯れていた。


カハッ……カハッ……


ぜーぜーと息を切らしている。


その努力のかいあってボス部屋にはアッシュウルフがひしめいていた。


ワオーン!!

ギャンッ!!

ギャンギャン!!


グルルルルル……


(おいおい……そこらで喧嘩始まってるよ。 何? いくつか群れが混ざってるの? グレーウルフがリーダーで群れを統率しているのがサブリーダー? サブリーダー同士で争ってる? んな馬鹿な)


グレーウルフは統率しようとしているのだがいかんせん声が枯れて出ない。


ヒャン……ヒャン……


ギャヒュン……


その姿は哀愁が漂っていた。


なんだか哀れに思えてこの場からグレーウルフに治癒ヒールを唱えた。


ヒャン……?


自身が光りを纏い狼狽えるグレーウルフ。


ギャオン……? !! ギャオウン!!


声が出ることを理解し試すように何度か吠える。


その周りではサブリーダーのアッシュウルフ達の小競り合いが続いている。


ギャオォオオオオオオン!!!!


まるでうるさーい!!!!と言うようにグレーウルフが吠えた。


その音量にさっきまで小競り合いを続けていたアッシュウルフ達がひるんだ。


ギューン……

ギャウン……


その場でしっぽを股の間に隠し、お座りをするアッシュウルフ。


その姿はまるで叱られた子供の様である。


(……私今からこの子たちと戦うん……だよね?)


なんとなくグレーウルフとアッシュウルフに人間臭さを感じてしまい戸惑いを覚える。


そんな事を考えている間にもグレーウルフによるアッシュウルフ達への説教が続いていた。


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