第12話 政府の考え
この世界には各国々でお抱えの聖人が居る。
外傷の治癒や内傷の治癒。
病魔の快癒や毒物の解毒。
ダンジョン特有の呪いの解呪。
回復魔法にも色々あるが、この外傷の治癒に特化した回復魔法の使い手で、その国一番の実力の持ち主がそう呼ばれている。
この外傷の治癒に関して、5年に1度大陸ごとに大会が開かれ大陸の聖人を決定し、さらに世界1位の聖人、神に愛されし愛し子を決定する。
何故外傷のみかというと、多岐にわたる回復魔法の中で、一番需要があるのが外傷の治癒だ。
ダンジョンに潜る探索者が多いのも理由に当たる。
高ランク探索者が住居を構える際、その国が抱える回復魔法の使い手の数を重要視する者も多い。
クランに迎え入れたり、クランで対処が出来ない怪我を対処してもらうため。
欠損の治癒などは熟練の回復魔法の使い手でも出来ない者が多い。
出来たとしても魔力のほとんどを使い果たし数日はまともな治療を施せなくなったりする。
それほど回復魔法は重要視されている。
ダンジョンからはもちろん怪我を治す回復薬も出る。
だが深手を治す回復薬はそれ相応の深さの場所でしか取れない。
怪我を治すために怪我を負うという変人じみた人物は多くない。
そして仮に、探索者がダンジョンで得た回復薬を売るとなると、オークションにかけられ目玉が飛び出るくらいの金額で取引される。
だから回復薬での治療は現実的ではない。
日本のこれまでの最高成績は大陸1位。
それが2度あったのみ。
それも数十年前が最後である。
それからは鳴かず飛ばずの成績が続き、回復魔法の使い手を求めた高ランク探索者の海外移住が相次いでいる。
高ランク探索者の海外流出。
高ランク探索者は縛られるのを嫌い所属などしてくれない。
それはすなわち国力の低下にもつながる。
ダンジョン自体どうやって発生するのかメカニズムは依然として不明のままだ。
もちろん国が抱えた特別部隊も組織してはあるが人数は多くない。
だが国だけでダンジョンを攻略しようとしても無理がある。
だから今日本の首相は長年の友である先読みのスキルを持つ
『異世界の聖女が間もなく現れる』
年老いた彼女が息も絶え絶えになりながら自分の能力を掛けて見た結果だ。
そのせいで彼女はそれ以降先読みが出来なくなってしまった。
だが、それを聞いたときは一縷の希望が見えた。
ダンジョンとて異世界の物と言われている。
異世界の聖女となればそれ相応の実力に違いない。
長年苦しんだ高ランク探索者の日本離れが止まるかもしれない……。
その時はそう思った。
そして現れた女性、
彼女の協力もあり検証を行った。
彼女の能力は蓋を開けてみれば『スキル:医療』 という名のよく分からない能力だった。
その報告を聞いた二人は深いため息をついた。
もう大慈弥は先読みのスキルを使用することが出来ない。
首相である
「……これでよかったのかもしれないわ」
そう大慈弥が呟く。
「なんでも先を見てしまうから、見れるのが当然だったのが異常だったのよ。 藤島さんを攫って軟禁するような真似が間違っていたのだわ」
「いまさらそんなことを言うな。 それに藤島という女性も協力すると申し出てくれたではないか」
そんな大慈弥に鐡剛が苦言を呈す。
「あんな出迎えしたらそう言うしかないじゃない……せめて藤島さんの今後突然放り出すような真似はしないでください。 迎え入れたのなら最後まで面倒見るのが筋だわ、そちらで厳しいなら私の方で預かります」
「分かった。 後で本人に確認しよう」
ダンジョンに潜る恭子の知らない場所でそんなやり取りがあった。
そして恭子が居た場所がモンスターに襲撃されたようだと報告を受けるのはまだ少し先の話である。
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