第29話 黒鯨殲滅
「あれが『
”
ヒレや尾をつければ鯨にそっくりな形。光の乏しい宇宙空間で見つかりづらくするためか、船体は黒一色。遠目からは認識しづらく、見えたとしても小惑星と間違えそうである。
散り散りに逃げた宙賊も
「拿捕した宇宙船の運搬船を
「なるほど。移動する
「その代わり戦闘力はあまりなさそうです」
「母船だからな。どちらかというと防御よりだろう」
警戒すべきは母船に収容されている攻撃型の宇宙船だ。しかし、 ”
「さっさと依頼を済ませるか……」
「エプロン様のためですね!」
「いや、幽玄提督閣下のナノマシンフィギュアデータのためだが?」
私とルルイエは見つめ合い、お互い『何を言っているのだろう?』と首を傾げる。
幽玄提督閣下のナノマシンフィギュアデータ以上に重要なものってあるか?
『ゴブゴブ……』
ルルイエの隣の席で『やれやれ』と肩をすくめて呆れているツバキの姿が目に入り、コホンと咳払いをして話を戻す。
「母船を爆破しないよう無力化することは可能か?」
「ご命令とあらば」
ほう? 良い返答ではないか。私はそういうのを求めていたのだ!
「なら命じよう。小型船はいくらでも倒して構わん。だが、母船は確実に無力化せよ!」
「
『ゴブゴブー!』
いい! 実にいい! 私は今、船長をしている!
手に入れたばかりの軍服に似た船長服を纏っていると、さらに身が引き締まる思いだ!
骸骨の私には引き締まる身など無いがな! アッハッハ!
「母船を破壊したらうるさい奴もいそうだからな」
私は
そこには数人の男女が集まっていた。『
商人アッハン、御曹司のお坊ちゃん、乗客の数名、そして乗務員数名。己のために私たちと取引きをした欲深き者もいれば、誘拐された人間たちの救助に役立つからと名乗りを上げた勇気ある者もいる。まあ、後者は私たちを信用していないため、監視する目的もあるのだろう。
いちいちあしらうのも殺すのも面倒だったため、部屋の一つに全員放り込んでおいた。一人でも部屋の外に出ようものなら全員殺すと脅してある。おかげで部屋は大人しい。
若干一名、全身鏡の前でセクシーポーズを連発しているようだが。
「母船を破壊したらエプロン様もダメになってしまいますからね!」
「身内にもいたか……まあいい。戦利品をみすみす手放すのはもったいない。宙賊が溜め込んだ略奪品を私たちが頂こうではないか」
宙賊たちはまだ私たちの存在に気づいていない。なので先制攻撃をお見舞いする絶好のチャンスだ。
貴様たちはもう射程圏内なのだよ。
「ルルイエ」
「
『ゴブ!』
「ぐっ! その話を蒸し返すんじゃない……!」
「<
私を揶揄ったルルイエは、抑揚のない無感情な声で淡々と報告。
「<
『ゴブブー!』
”
レーザーが発射されたことでようやく私たちに気づいた『
「着弾を確認。敵母船の推進装置を破壊しました」
「よくやった。推進装置を破壊したら、もはや宇宙空間を漂うただの鉄屑だな」
突然の襲撃に母船内が慌ただしくなって半ばパニックになっている様子がこっちにまで伝わってくるようだ。
お? 母船の前方が鯨の口のように開いていくぞ?
「報告。母船から小型宇宙船が発進。数は――31隻」
「ふむ。そんなものか」
先の戦いで消耗して、船の数も人員も限られているのだろう。
小型宇宙船は、群れを成す小魚のように密集して一斉に反撃してくる。
エネルギー弾や小型
敵の攻撃はすべて”
「マスター? しがみつかなくてよろしいので?」
「ぐっ! だから蒸し返すなと言っているだろう……!」
『ゴブブ!』
並みの船ではひとたまりもない攻撃を受けているにもかかわらず、私たちはいまいち緊張感に乏しい。
「障壁の消耗率1%未満。船体へのダメージはゼロ。反撃を……ん?」
「どうした、ルルイエ?」
「敵船のエネルギー値が急上昇しています」
「なに?」
『ゴブ?』
敵船は密集陣形を整えており、急激なエネルギー増加の観測情報が次々に
「なるほど。機体同士を
「『
敵船の密集陣形の正面に膨大なエネルギーが集まって、小さな恒星のような輝きを発している。
「砲撃が来ます」
ルルイエの報告が終わる前にエネルギーは撃ち出され、極大の光線と化して”
しかし、この程度でも傷つかないという判断なのだろう。ルルイエの操作に従って”
「ん……?」
光線と船体が直撃するその寸前――”
私は思わず船長席から立ちあがる。
「あれは! エネルギーブレード!? 翼で障壁や船体を切り裂くことに特化した小型戦闘機だ! ルルイエ! 障壁が!」
「問題ありませんが、なにか?」
「え?」
障壁を切り裂こうと飛来した小型戦闘機。味方の光線から逃れた時には、片翼がもがれた悲惨な姿を晒しており、制御不能で宇宙の彼方へと落ちていく。
”
「あ、あぁー……」
なんだろう、この徒労感……。
呆然と立ち尽くす私の前で、迫りくる極太の光線と突き進む”
曲線を描く”
「攻撃が着弾。障壁の消耗率1.41421356%」
この攻撃でも消耗率がたった約1.5%か……。
本来ならば小型戦闘機で障壁を切り裂いたところに光線を直撃させる予定だったのだろうが、恐ろしいほどの防御力を誇る”
私としては実に頼もしい限りである。
無茶な切り札を使用した宙賊の宇宙船は、エネルギーを消耗し過ぎてしばらく攻撃ができないはずだ。航行不能に陥っている船もあるらしい。
宇宙空間を漂っているだけの敵船なんて、狙ってくださいと言っているようなもの。
ルルイエは淡々と照準を合わせ、
「<
宙賊の小型宇宙船を一隻残らず殲滅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます