第45話 僕らは心もとない冒険チームを結成する
「えっ、幽霊君が犬に吸い込まれた?どういうことだい」
待ち合わせ場所に軽自動車で現れた飯来さんは、リュックを背負った杏沙からいきさつを聞いて目を丸くした。
「ご説明した通りです。一応、コミュニケーションはできるので、姿を見せなければ怪しまれることはありません」
「ううむ、そうは言ってもなあ……ま、いいか。二人と一匹っていうチームでも」
僕が思わずリュックの中で吠えると、杏沙が「三人だって言ってます」と僕の抗議を翻訳した。
「ああそうか、僕としたことが想像力が足りなかったな。ごめんよ、三人だ」
飯来さんは朗らかに笑うと杏沙に「このチームで何ができるか正直、僕にもわからないけど、とにかく『マイナデスの泉』までは案内するよ。さ、乗って」と言った。
杏沙は僕と共に車に乗り込むと、リュックをシートに降ろした。杏沙がリュックを窓側に向けてくれたことで外の風景は見えたが、僕は外よりも飯来さんと杏沙の様子が気になって仕方がなかった。
――用心しろよ七森。この人は自分が原作を書いたドラマに、君をキャスティングしようっていう下心を持っているかもしれないんだ。
僕は杏沙を最初にフレームに収めたのは自分だという事実に、自分でも恥ずかしくなるくらい固執していた。……もっとも、その事実はあと二カ月たたないと事実にならないのだけれど。
僕がリュックの中でやきもきしている間に、外の風景は空地の目立つ街はずれの眺めへと変わっていった。
寂しい風景がしばらく続いたあと僕らの乗った車は唐突にどこかの敷地内に入り、そのまま立体駐車場の入り口と思われる暗がりへ吸い込まれていった。
「さすがに平日はすいてるな。……いや、このさびれ方はそれだけじゃないか」
飯来さんが駐車場に車を入れると杏沙が「さ、ここからは顔出し厳禁よ」と言って僕の頭をリュックに押しこんだ。
再びファスナーの隙間が(しかも後ろ向きだ)見える全世界となった僕は、車から降りた杏沙に背負われて『ホリディランド』の中を移動し始めた。
僕らが最初に通り抜けたのは駐車場に直結しているマーケット部分で、家族連れをイメージしたような明るく綺麗なフロアは昔とさほど変わっていないように見えた。
――中は思ったほどさびれてないな。……昔と違うのはそう、内装じゃなくお客さんの雰囲気だ。
平日のせいかどうかは知らないが、僕にはまばらなお客さんの顔や動きがどこか暗く活気のないものに見えるのだった。
「ああ、懐かしいな。アルバイトをしていた頃はこのあたりで服や靴を買ったり……んっ?」
飯来さんがふいに言葉を切った瞬間、杏沙も沈黙に合わせるかのように足を止めた。
『どうしたんだ?七森』
僕が犬語で尋ねると、杏沙は『……周りの人が、私たちを見てる』と短く答えた。
『周りの人が? いったいどういう……あっ』
思わず「ワン」と鳴いてしまった僕は、慌てて舌を引っ込め口を閉じた。後ろを歩いていた子連れのお母さんたちが、通路を斜めに横切って僕の方にやってきたのだ。
――まずい、お客さんの中にも「乗っ取られた」人たちがいたんだ!
僕をぞっとさせたのは、うつろな目のお母さんに抱かれている二歳くらいの女の子だった。女の子は抱っこされたまま、赤紫に光る目で僕に両手を伸ばし始めた。
『逃げるんだ七森!』
『どうしたの? ……あっ』
「七森君、幽霊君、走るぞ!」
どうやら飯来さんと杏沙も危険を感じ取ったらしく、女の子の手が顔の近くまで来た瞬間、僕はダッシュした杏沙にリュックごと引っ張られていった。
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