第26話 野球をしよう①

『地域研究部』が発足してから三週間が経とうとしていた。学校は夏休みに入り、夏の熱さもいよいよ本格化してきた。


 僕たちは今、学校内にある野球専用グラウンドに立っている。


 甲子園を目指した我が校は、惜しくも一回戦で燃え尽き、現在はお休みとなっていた。しばらく練習をしないそうなので、道具とグラウンドを借りるのは簡単だった。


 この球場は内野と外野にあまり手入れされていない天然芝が引き詰められており、横になるとフワフワとして気持ちが良い。毎年一回戦負けの弱小野球部にはもったない代物だった。


 ちなみに、暑さ対策として、僕とアルファと佐藤芳佳は野球帽を、市井さんと太田さんは麦わら帽子を被っている。


「という事で、今日は野球をやるよ」


「やったー!やったー!やるぞー!」

 

 歓声を上げるアルファ。


「あ、暑いですよ………」


 珍しく市井さんはちょっと不満げだ。強い日差しのせいで、少し参っている。今は午前9時になったばかりなので、気温は上がりきっていないものの、それでも十分暑かった。


「きつかったら、そこのベンチでのんびりしてていいですから」


 熱中症になったら大変だからね。


「ありがとう……、そうする」


 すでに力尽きているような声だ。そのやり取りを見ていた太田さんが遠慮がちに手を挙げる。


「わたしも、ベンチで休んで良いですか?」

 

「もちろん」


 太田さんもあまり身体が強くない。


「で、野球をするって言っても、実際何をするの? 9人いないよー」



 この暑さでも佐藤芳佳は元気だ。もちろん試合なんて出来ない。適当に打ったりキャッチボールをするだけだ。みんなで楽しめればそれでいい。


「おれは何でもいいぞ!さあ何やる!」

 

 暑さが二倍になりそうだ……。だが、僕もたまには思いっ切り身体を動かしたいので、今日は全力でアルファとじゃれさせてもらおう。


「まず、千本ノックでアルファを殺す!」


「なにィ!」


 ふふふ、アルファよ、地獄の二丁目まで連れてってやるぜ。〇〇(自主規制)の穴かっぽじって待っていろ。この銀色に輝く金属の棒で足腰を破壊してやるわ!


「手加減したら許さねえからな!!うおおおおおおおおお」


 三塁ベースに向かって全速力で走りだす。いつまでその元気が続くかな。お前の大好きな太田さんの前で、来世まで続く屈辱を与えてやる――――。ファーハッハッハ……。

 ……ちなみに、アルファが太田さんの事が好きだというのは本当の話だ。やけに気合が入っているのもそれが原因だったりする。


「じゃあ私はアルファの後ろでフォローだ!」


 佐藤芳佳も全速力で走る。あいつ、足早いなあ。


「私とオセロちゃんはめっちゃ応援するよ!」


「するよ」


 二人は手を繋いでアルファと佐藤芳佳に向かって手を振る。みんなノリがいいね……。特に市井さんと太田さんは、さっきまで死にそうな顔をしてたのに……。ならばっ、僕も気合を入れてノックをしないといけない!


 太田さんからスポーツドリンクが入ったペットボトルを受け取ると、口に含み、バットに吹きかけた。

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