第21話 活動内容を決めよう②

 なんやかんやで放課後になった。時間が経つのはあっという間である。人気が少なくった教室で、僕はこの話し合いの司会者として全員の前に立っていた。


「――という訳で、部活動を申請するための活動内容を決めたいと思います」


「よっ!待ってました!」


 アルファこと佐藤英気さとう えいきが茶々を入れる。相変わらず元気な男だ。司会者的な立場になって分かる、盛り上げてくれるありがたさ。


 パラパラと拍手が響く。何事かと、僅かに残った生徒がこちらを見たのが分かった。流石にちょっと恥ずかしいな。


「さて――」


 目の前に『4人』が椅子に腰掛けていた。アルファ、佐藤芳佳、市井さん、そして――そして――、その隣にいる――。うん、ツインテールがよく似合う女の子だ。


 えっ、誰?この女の子?そこには謎のツインテールの女の子がちょこんと座っている。


「あのう、市井さん? お隣にいらっしゃる方はお知り合いで? 」


「うん。私のお友達の『太田 オセロ《おおた おせろ》』ちゃんだよ。昨日、部活の申請に5人必要だって言ってたよね? このままだと一人足りないなーと思って、オセロちゃんにお願いしてみたんだ」


「そうだぞー。ユウちゃんに感謝しないといけないぞ、レン」


 佐藤芳佳は満足そうに頷いている。


 『一人足りない』この言葉を聞いて稲妻に打たれたような気がした。それは完全なる思い込みだった。僕は、樹木を人数に入れていた事に今更ながら気づいた。下手すると部活申請出来なったんじゃないか。全くのアホである。


「ありがとうございます。えっと、太田さんで良いかな」


 新しい仲間に感謝しかない。ありがとう太田さん。心の底からありがとう。


 太田さんは小さく頷いた。


「い、一年、び、B組の、お、お、お、お、た、お、せろです。仲良くし……て下さい……」


 パチパチと市井さんが大きな拍手を始める。つられるてみんなも拍手をした。


 山田先生のクラスの子だったのか。見たことないはずだ。顔が真っ赤だけど大丈夫かな……。もしかすると、市井さん以上の人見知りかもしれない。それならば市井さんと仲が良いというのも納得出来る。


 ―――それと『ひまわりでいず』のキャラでもない。原作の漫画でも、もちろんアニメでも『太田 オセロ』という人物は、見たことも聞いた事もなかった。


 さて、こうして無事人数も揃った事だし改めて活動内容を話し合うことにしよう。気付けば、樹木が佐藤芳佳の机の上に座っていた。


「じゃあアルファからやりたい事言っていこうか。どうぞ」


 アルファは勢い良く立ち上がり声を上げる。


「おれは野球がやりたい!!」


「ハイ、却下」


「うええええええ!?」


 当たり前である。野球がやりたければ野球部に入ればいい。

 ただ、アニメ的には野球回は欠かせないことは確かだ。今後の活動内容に含まれる事は十分にありえる。


「じゃあ、次はべータ」


「私はー……『美食部』が良いな。みんなで美味しいお店に毎日行くの!」


「なるほど、『美食部』ね。ただ、お金かかりそうだな」


「そこは部費よ、部費」

 

 食ってばっかりで「部費部費」言ってたら豚になるぞ。と本人に言いたがったが、強烈な怒りを買いそうなので言うのを止めた。口は災いの元だ。


「次は市井さん」


「わ、私は海に行きたいな。あと、遊園地。ゴールデンウイークの時は計画倒れになっちゃったし」


「なるほど………って部活の活動内容だよ!市井さん!」


「あっごめんなさい。『遊び部』なんてどうかな……。へへへ」


 市井さんは照れ笑いを浮かべた。ちょっと天然さんな所があるのは『ひまわりでいず』準拠である。可愛いのでオッケーだ。それに『遊ぶ』というコンセプト自体は僕と一緒だ。


「最後になっちゃってごめんね。太田さんは何かやりたい事あります? 」


「え………でも………」


「なんで良いですよ。読書をしたい、コミケに出たい、バンドを組みたい、演劇をしたい、友達を作りたい、本当になんでもいいですから」


「そ………そしたら………この街にいる犬さんや猫さんと友達になりたい……です」


 まさかのメルヘン解答。


「かわいい!!『ワンニャン部』だね。いいね!!」


 市井さん、ものすっごい食いついてますね………。特に猫好きでしたもんね………。


 それは良いんだが、さっきからアルファが太田さんを見てボケっとしてるがとても気になる。


 なんて分かり易い奴なんだ。完全に恋する乙女の顔だ。確かに太田さんの保護欲を掻き立てられる姿には、多くの健全な男子であれば心動かされること間違いない。


 だが、それにしても早すぎる。チョロい、チョロイぞアルファよ。


「じゃあ次は私だ! 」


 樹木が元気よく手を上げているが、残念ながら華麗にスルーをさせて貰おう。


 ちょっと可愛そうであるが、佐藤芳佳以外の人間には見えていないので、ここで樹木と会話をしてしまうと完全に危ない人間になってしまう。


 佐藤芳佳はそれを理解してくれているのか、無視をされ、大変しょんぼりしている樹木を慰めていた。


 最近は自由奔放な言動が増えていて忘れがちになっていたが、大人な対応をする佐藤芳佳のその姿は、僕が生前憧れていた声優「葵 アオイ ヒジリ」そのものだった。


 なんだか少し、感傷的になってしまった。


 さて――意見も出揃った――ようやく本格的な話し合いに入る事になる。

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